Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

新興国のコロナから広がる食糧危機

 中国で発生し、世界に広がった新型コロナウイルスは、最初に交流の深かったアジアから始まり、続いて欧州、そしてアメリカへと感染の中心地を移動させてきた。この感染拡大の流れは、中国では既に厳しい監視によりかなり封じ込められており、欧米もまたピークに達したとは完全とは言えないもののそろそろ増加の頂点が見えてきた感がある。少なくとも都市封鎖(および外出規制)をすることで、一定程度感染の広がりを抑えることは可能だということの証左であろう。今後は、これまで行った各種の規制をいつどのように緩和していくのかという難しい問題はあるが、抑え込みをしても無駄であるという最悪の状況には至らなかった。

 ただ、新興国の感染の広がりが本格化するのはこれからだと考えている。既にフィリピンやインドネシアでは多数の死者が報告されているが、エクアドルで現時点で報告されている死者数が350人強なのに、別途自宅で死亡している人が800人近く見つかているという話(動画:エクアドル当局、家々から800体近い遺体収容 新型コロナ流行地で 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News)もある。すなわち、感染者数や死者数も正確には把握できないということ。加えて新興国の場合、元々医療・公衆衛生状況が貧弱なため患者を救うということが容易ではないが、それ以上に国民が政府の指示に従わないことが大きな問題として立ちふさがるだろう。人々が勝手に振る舞う状態。特に貧困層では情報も伝わらず、正しい認識すら構成されない。軍隊による強権的な統制も行われるだろうが、今回は感染症と言うこともあって、軍隊が感染者の中に突入するわけにはいかない。要するに、先進国以上に感染の蔓延を防ぐ手立てがない。

 更に、宗教問題も大きく流れを左右する。土着宗教の信仰などにより、感染者対策施設が壊されるという状況も起きている(新型コロナ検査施設「欲しくない」 近隣住民が破壊、コートジボワール 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News)。また、生活習慣の違いや社会インフラの在り様により社会距離を確保しにくいという問題もある。もちろん国によって状況がかなり異なるとは思うが、新興国の今後の感染状況は酷い状況に至ってしまった欧米すら凌駕するであろう。そして、この問題は新興国のみには留まらず、難民等を通じて再び感染が逆輸入されるという恐怖が先進国を襲う。

 

 感染症は、自国のみが克服できても鎖国を続けない限り、正常な状態を維持できないという難しさがある。世界経済が大きく発展できたのはグローバリズムのおかげであるが、それが感染症の広がりに大きく手を貸していく。先進国は、自分たちの状況に一息ついた後には、自国の復興も必要事項ではあるが、新興国・途上国に対する支援をしなければいけない状況に追い込まれる。おそらく、その全てが解消されるには数年は必要であろう。そして、1年を超える混乱は食糧危機に結びつく。途上国などではそれにより多くの命が失われる。ただ、今後食糧生産が停滞するのは間違いなく、先進国も新興国や途上国に十分なそれを回すことは難しくなる。

 特に、中国はアメリカと同様に農業国でもありながら、食糧を多く輸入している国家でもある。少し前に蝗害に苦しむパキスタンに専門家を派遣していたが、これは中国への被害拡大と言うよりは、パキスタンから輸入する米の維持ではないかと思う(パキスタンは中国に米を輸出数する第三位の国家:https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/attach/pdf/h27-12.pdf)。コメについてはほぼ自給できている計算(約98%)だが、実際にはかなりの量を輸入している。それ以外にも、パキスタンが中国を支持してくれる数少ない国家であるというのも大きな理由であろう。だが、パキスタンが食糧危機になった場合に支援できるほどの余裕は中国にはない。既に、ベトナムなどはコメの輸出に制限をかけ始めている(ベトナムのコメ輸出規制、飲食業界に不安も - NNA ASIA・香港・農林・水産)。

 

 コロナ問題は、新興国・途上国に広がることで世界的な食糧危機に結びつき、その先にあるのは政権不安の発生になる。アラブの春アラブの春 - Wikipedia)が、ロシアやウクライナの穀倉地帯における小麦不作により引き起こされたことは知られていると思うが、今回の食料不足は世界同時に発生する。政権が脅かされるのは、政治理念ではなく飯が食えるのかと言うポイントが決定的だ。先進国ではそれが失業や給与低下と言う形で見えるが、途上国では食糧がダイレクトに響く(4/15追記:外出制限続く南アフリカ 酒の販売禁止で略奪相次ぐ | NHKニュース)。

 世情不安は、地域紛争にも容易に飛び火する。現在はコロナウイルス問題がターゲットなので、すぐに世情不安が広がる訳ではないが、これが半年後や1年後には大きな問題としてクローズアップされることになるだろう。その時、先進国がどれだけ新興国や途上国を助けられるか。日本にも大きな義務と責任があると考えるべきだろう。場合によっては世界中で紛争が多発するということになりかねない。それは日本の利益を損ねる結果にもなるのだから。

 

 まだ、コロナ問題の結末が見通せる状況ではないが、その先のことを考えなくてもよいわけではない。おそらく、世界的な不景気と失業問題が大きく広がる。欧州は復興に手一杯で何もイニシアティブをとれなくなる。さて、日本はその時にどれだけの余力を残していられるだろうか。