Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

新興国ショックと先進国の闇

 新型コロナウイルスの広がりは、現在世界各国が積極的に検査していない(できていない)ことから抑えられているとされているが、実際には網にかかっていない多くの患者が生まれ始めている(米、インフル症状に新型ウイルス検査へ 対策を大幅強化 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News)と私は考える。日本は検査体制がしっかりしているため、早期にどんどんと検出され、あたかも中国の次に感染拡大が生じているように見えるが、これは錯誤によるものでしかない。もちろん、感染の蔓延を防ぐためにもっと打てる手はあっただろう(【新型コロナ】もはや人災の様相。。軽装でクルーズ船に入った検疫官がたった1日で感染!それでも加藤厚労相は「防護服は必要 | ニコニコニュース)し、国民との対話が不十分であったことは問題視されてもよい。だが、この先に見えてくるのは先進国以外の問題(クルーズ船「ウエステルダム」乗客感染確認 | 共同通信)である。

 既にWHOが警告を発している(【新型肺炎】テドロスWHO事務局長が加盟国に約740億円の資金支援を要求 - 産経ニュース)ように、途上国では十分な検査体制も、発達した公衆衛生システムも、そして十分な情報すら持たないところが多い。コロナウイルスは暑い地域で弱い(あるいは多湿)ので暖かくなれば感染の広がりは落ち着くという意見もあるが、今回の新型がそれに該当するかはまだ予断を許さない。熱帯地方であるシンガポールでも、感染の広がりがみられる(日本より先にローカル感染が確認されたシンガポールの新型コロナウイルス対策(中野円佳) - 個人 - Yahoo!ニュース)のだから。

 中国では、発表される新規感染者数が落ち着き始めた(特に湖北省以外)が、重症者数はどんどんと増えて1.1万人を超えた(2/15現在)。公式発表でも、おおよそ6人に1人は重症になっているカウント(約16%)だ。その中で7人に1人(約13%)ほどが死に至っている。これは軽く考えてよい数字ではない。特に、重症者のうちで回復した人が何らかの後遺症を負っているかどうかもまだ明らかではないのだから。ちなみに湖北省の致死率は3%に近づき、それ以外はおおよそ1%を目指しているように見える。わずか1か月半の期間で公式数だけで1600人を超える死者を生み出したとすれば、少なくとも中国ではアメリカのインフルエンザの勢いを超えていると考えてよいだろう。

 

 世界的な蔓延の広がりは、世界貿易に大きな悪影響を与えることは既に何度も書いたが、その中でも特に船便の問題は大きい。クルーズ船の旅は今後大きく人気を落とすだろう(クルーズ船のキャンセル相次ぐ 地方経済振興に冷や水:朝日新聞デジタル)。誰も、感染爆発が生じるような場所に行きたいと思うはずもない。そして、クルーズ船受注増により一息ついてきた造船業も連鎖的な反応を示す。原油価格の下落はそろそろ収まってきたようだが、今後の展開次第ではもう一段の底値を探る動きもあるだろう。

 中国の貿易の一部停止により船便のスポット価格が暴落しているが、船便こそが世界的なサプライチェーンの重要な役割を担っており(貿易量の99.8%は港から)、その停止は世界の血流を止めるに等しい。中国のみの停止なら、代替地を探すことで対応できなくもない(それでも中国依存が大きな国はダメージを受ける)。ただ、中国は交流停止のイメージ落下を防ぐため力を及ぼせる新興国を中心に、札束外交(?)により交易を続けようとするだろう(「マスクを外せ」中国に配慮 カンボジアで下船 - FNN.jpプライムオンライン)。すなわち今後は新興国の方が新型ウイルスの蔓延に注意しなければならない条件は揃っている(新型ウイルス対応で遅れか、批判浴びるWHO - WSJ)。

 途上国における感染爆発が生じた場合、先進国はこぞって貿易や人の交流を停止することになる。中国も他の先進国同様に国交を止めるグループの仲間に入るであろうことは、笑い話の様な話ではあるが起こり得る。これは新興国ショックとでもいった世界経済に対するネガティブなインパクトを与えることになりかねない。世界の成長の大部分は途上国が担っている(第1節 世界経済における新興・途上国の役割の変化:通商白書2018年版(METI/経済産業省))のである。アフリカや中東およびインドの一部では、バッタの異常発生による食料被害も出ており、そこに新型肺炎が重なれば社会や経済が崩壊しかねない。

 

 一方で、日本は国際的なイメージ戦略が本当に下手(諜報の専門部署を持たない)であり、逆に言えばそれでも良いイメージを拡散できている稀有な国でもある。ごり押ししようが、嘘をつこうが、それをスタンダードにすれば勝ちなのが世界。今は、日本が感染蔓延地域と言うイメージ作りが暗黙の上で行われている。「他の国も隠しているだけで実質的に同じではないか」と主張は、どこかで聞いたもの。そう、いわゆる慰安婦問題と何も変わらない。

 さて、アメリカも一部のメディアは日本をやり玉にあげようとしている(「日本の検疫のやり方は人権侵害だ」米メディア医学雑誌Lancetで「新型コロナに関して日本で中国人差別」:NYTのモトコリッチの記事ベースに - 事実を整える)が、アメリカにおけるインフルエンザの蔓延は危機的状況である。さらに、それが本当にインフルエンザなのかどうかも、これまで正式に確かめられていなかった。その原因の一つが、広い医療保険制度の不足である。オバマケアが導入されたものの、未だに保険制度に加入できない人は少なくない(JCCG - アメリカにおける健康保険と医療事情)。約2800万人が健康保険に加入していない。その様な人たちは、病院に行くこともなく自力で直そうとする(アメリカの自己破産の6割は医療費が原因…。海外旅行先の高額な医療費に気をつけよう! | 知らなかったでは損をする!医療費節約の裏ワザ | ダイヤモンド・オンラインアメリカでは毎年53万世帯が破産している。そのほとんどが医療費と病気が原因(米研究) : カラパイア)。

 欧州では公的負担割合がアメリカと比べて高い国が多い(FPが解説:海外と違う日本の医療保険制度と民間保険の必要性 | 保険比較ライフィ)が、負担額の上限がない(日本では高額医療制度がある)など厳しい場合も見受けられる(スイスで借金取り立てが増えている理由 - SWI swissinfo.ch)。

 

 この状況は中国も同じで、今回の新型コロナウイルス蔓延によりどのような臨時的対処が行われているかについては確認していないが、建前では2020年に皆保険が成立しているはずではあるが(中国の公的医療保険制度について(2018)-老いる中国、14億人の医療保険制度はどうなっているのか。 | ニッセイ基礎研究所)、実態としてはなかなかに厳しいようである(中国の医療費は、何割負担?中国での医療費 | 独学で勉強/中国語講座チャイニーズドットコム)。先進国でも、日本のように誰もが気軽に医療機関にかかれるとは限らない。そして、今回のような感染症においてもこうした壁が立ちふさがる。

 中国の場合には政府が号令をかければ、新型肺炎については無料と取り決めることもできるだろう。だが、欧米ではそう容易にはいかない。感染症対策の基本は封じ込めであるが、効果を得るには医療保険から切り離された人への対応が問題となる。

 

 まだまだ、今回の新型コロナウイルスを巡る状況についてはわからないことが多い。中国の発表は、自分たちに都合のよい形に変えられてい可能性は高く、他国もそれぞれ思惑があるのは間違いない。そのため、私の書いていることは見当違いということもあるだろう。夏季になって不活性化が進めばそれに越したことはないし、早期のワクチン開発に成功することも期待したい。あるいは簡易な検査システムが出てきて、国民のパニック的な心理状態が改善されるだけでも意味はある。(追記:短時間で感染を確認できる検査試薬の目途がついてきたようである:新型肺炎 検査6時間→15分に 試薬開発にメド - 産経ニュース

 それでも、起こり得る悪い側の可能性も冷静に見ておくに越したことはあるまい。