Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

賃金減少と社会的な人の価値

 サラリーマンの平均年収が増加しない(http://nensyu-labo.com/heikin_suii.htm)とか、あるいは企業業績は回復しても個人レベルでは好景気感を全く感じられない(http://jp.reuters.com/article/2015/08/11/idJPL3N10M0L020150811)など、メディアの報道は概ねそんな感じである。景況感が無いのは体感として正しいと思うし、平均年収が伸びていないのは事実であろう。加えて、非正規雇用の増加(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000046231.htmlhttps://www.nissay.co.jp/enjoy/keizai/65.html)が問題とされている。特に若年層にその傾向は高いことが問題とされる原因である。
 ただ、自由度確保のために非正規雇用を望む者もいるいるため、正規雇用への転換を希望する者はおよそ2割程度という調査報告もある(http://www.nira.or.jp/pdf/0801outline.pdf)。この20%という数字を高いと考えるか、低いと考えるかにはいろいろとあるだろう。それでも、少なくとも非正規雇用が企業の人件費抑制のために活発に用いられているというのは傾向として明らかである。

 さてこうした問題を景気の問題、すなわち経済政策の問題として捉えるのが一般的な見方であった。それ故、アベノミクスが一時もてはやされ次に効果が無いと毀損されている。あるいは、日本の消費者数(お金を稼ぐ生産年齢人口)の減少が全てだという考えもいろいろなところで表明されている。
 個別に考えればこうした意見にも首肯できる部分はあるのだが、それでも腑に落ちない自分の間隔における違和感があった。国全体としては国内消費が低迷すれば輸出に活路を求めるのが一つのやり方である。海外生産に踏み切れば輸出が伸びないという面はあるが、例えばドイツや韓国と比べれば日本の貿易依存率はかなり低い。依存率が高い方がいいと言っているわけでは無いが、まだこうした方向に舵を切る余地が残されているのは間違いない。
 だから、単純に人口減少が全ての元凶と言い切るのは説得力が無いと感じている。もちろん大きな要素ではあるが、日本は人口気減少し始めるよりも前から給与は下がり続けていたのであるのだから。上記のように国内需要という面からすれば生産年齢人口が減少しているのは大きいと言えるが、一方で国内の金融資産の大部分は高齢者が持っているという問題(https://www.jcer.or.jp/column/otake/index766.html)もある。
 現在、大規模な金融緩和(シニョリッジ政策:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8B%E3%83%A7%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%B8)が行われており(http://adpweb.com/eco/eco866.html)日銀は300兆円もの国債を買い取っている。要するに、その分の通貨がばらまかれていると言ってよい。
 もう30年以上前より、政府の借金が大きすぎるので国債の信用が失墜・暴落してハイパーインフレ(用語の使い方は正しくないと思うが)が発生すると言った言説はずっと飛び出してきた。しかし、現実には金利は未だ低迷したままである。これをいつかは暴騰するというのは簡単だが、現状を全く説明できていない(確かに「いつか」は暴騰することもあるだろう)。

 さて話がかなり脱線してしまったが、私は経済政策の失策と捉えられる部分もあるし、人口減少が与える影響もないとは思わない。ただ、それ以上に問題なのが人の価値が低下していることではないかと思うのだ。労働の対価に所得があるとして、人の労働力としての価値が下がっているからこそ支払われる対価が上がらなくなっているのではないかという仮説である。
 繰り返しになるが、一つの要素で全てを説明できるとは全く思っていない。ただ、社会的な価値が下がっているから結果的に給与が下がっているとすれば、それを無理矢理にでも上げるような努力をしなければ問題は解決しない。あるいは、正規雇用の率を向上させるというのもある。兎にも角にも、人の価値を社会総体が考えているものよりも引き上げて強制的に取り扱うということだ。
 国内問題のみで考えれば、上記のように最低賃金を大きく引き上げることは解答の一つとなるであろう。しかし、現実には海外から安い賃金の労働力(主に移民問題)を入れようとしたり、あるいは生産拠点を海外に求めるということが公然と行われる。
 なんてことはない。社会の実態とかい離した政策に対しては、ある程度の自由が許された社会制度では正常化を目指す動きが出るのは当然である。ただ、アメリカでも最低賃金の大幅な上昇は政策として行われており、それがどのようなかたちで効果を発揮するかは様子を見ておきたい。

 さて、需要面ではなく生産面を言えば機械化の進展により人口減少を賄うことはおそらく可能だろうと思っている。もちろん機械化(自動化)コストよりも移民を使う方が安いからこそ、移民政策推進の声があるわけだが、それが無理だと考えれば今以上の自動化に動くことは容易に考えられる。
 内需の低下傾向はある程度人口動態に影響されるので、自然と海外に目を向けなければならない状態になる。せっせと農業自由化等を理由に輸出機運を高めているのは、こうした将来展望への布石ではないかと私は考えている。あらゆる産業が、内需のみでは納まらなくなっていくということではないか。
 ただ、逆に考えれば仮に人口減少で内需の縮小がみられたとしても、それを補うだけのフィールドを別に求めることができれば問題はない。私自身がTPPに反対していたのはその不平等性が高すぎるのではないかと懸念していた点にあるが、予想以上にタフな交渉をしていたのを見て評価を少し変えつつある。ただ、大筋合意とはいえアメリカ議会の動向等読めない部分が大きく詳細はまだまだわからない。
 人口気減少する日本という国は、将来的な需要を海外に求めなければならないことを考えると、障壁の低い貿易の枠組みは必須なのだろう。歴史認識で対立する中国や韓国ではあるが、そのマーケットを取りこんでいくことはやはり避けては通れない。たとえ、今の貿易量は少なかったとしてもである。

 さて、貿易により人口減少による内需減少分を補える収益を国全体として得られれば、それは結局内需に跳ね返ることになる。結局のところ、生産年齢人口当たりの所得を向上させるということであり、量ではなく活動度(単価)の向上により賄うという戦略になる。
 それを行うためにどのような政策が必要になるかということを考えなければならない。現状は、政府や日銀がばらまいた資金が、実質的に企業の内部留保や高齢者の金融資産としてブラックホールのように吸い込まれている。それが心理的満足感を超えるところに来たときに社会に溢れ始め、行き過ぎると一部が懸念するほどではないだろうがインフレになっていくだろう。ただし、モノがあふれているため極端なまでのインフレは想像しがたい。
 問題は、心理レベルを計測するのが非常に難しいということに尽きる。このあたりの研究や政策検討が進められることを期待したい。海外にものやサービスを売って稼ぐというのは、結局のところ日本人の価値を高めているのだということにつながるのだ。