Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

世界文化遺産とモンドセレクション

 この時期は世界文化遺産(https://www.nikkei4946.com/zenzukai/detail.aspx?zenzukai=115)騒ぎよりはノーベル賞騒ぎの時期になるが、少し前までは富士山で騒ぎ富岡製糸場でその続きに興じた日本国内であった。世界文化遺産(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E5%8C%96%E9%81%BA%E7%94%A3_%28%E4%B8%96%E7%95%8C%E9%81%BA%E7%94%A3%29)とマスコミなどでは呼称されることも多いが、世界遺産という大きなくくりがユネスコ(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E9%80%A3%E5%90%88%E6%95%99%E8%82%B2%E7%A7%91%E5%AD%A6%E6%96%87%E5%8C%96%E6%A9%9F%E9%96%A2)により提示されており、そのうちの「自然遺産」、「複合遺産」に含まれないものが文化遺産となる。
 この文化遺産についても3つのカテゴリーが定義されており、
  1)記念工作物(monument)
  2)建造物群(group of buildings)
  3)サイト(site)
の3つが規定されている。例えば、富士山は3)のサイトに分類されるし、富岡製糸場は1)の記念工作物となる。

 世界遺産は2014年6月現在で全体数として1,007件あり、そのうちの779件が文化遺産とされる。ちなみに自然遺産が197件、複合遺産が31件と言うことで文化遺産が突出して多いことが見て取れる(http://allabout.co.jp/gm/gc/66324/)。面白いのは、既に遺産登録を抹消されたものが2件ある(http://www.geocities.jp/heritages001/heritage_erase.html)ということだろうか。基本的に遺産の維持が適切に図られていないというのが理由となる。
 日本にある世界遺産は合計18件で、文化遺産が14件、自然遺産が4件となっている(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C%E9%81%BA%E7%94%A3)。富士山が自然遺産ではなく文化遺産とされているのは、「信仰の対象と芸術の源泉」として扱われているためである。

 文化遺産としての登録が世界中で既に1000件を超えていることを多いと見るべきか、まだまだ少ないと見るべきかは意見の分かれるところではあろうが、数が増えれば増えるほどに個々の希少価値が減じてしまうのは自然なことであろう。
 ところで、世界遺産に登録するメリットは何処にあるのだろうか。メリット無しに大変な準備と多くの労力を費やして登録を受ける必然性はない。世界的なお墨付きをもらえると言うだけでは説明に窮する面がある。もちろん初期には希少価値であることが遺産となる史跡を広く世界に知らしめる効果が高かったであろうことは想像に難くない。それは世界遺産を有する地元にとって観光客の増大という経済効果を狙って動いているのもまた間違いない。
 ただ、登録数が1000件を超えるという現実を見ればその効果はほぼ消尽していると考えても良いように思う。国内的な宣伝効果は多少あろうが、登録が宣伝効果を継続的に発揮するのではなく登録についての報道が一時的な効果を醸し出すに過ぎない。
 経済的な効果とは異なるが、国家が責任を持って維持管理する責務を明確にするという意味はあるだろう。放置することで貴重な世界的財産を朽廃あるいは台無しにしてしまうとすれば世界的損失であるということは一面において間違いなく言える。保存という一面では経済効果を餌に義務を与えるのだから、良いやり方なのかもしれないと感じる。

 さりとて、世界遺産はどんなものを申請しても登録されるわけではない。富士山や富岡製糸場でも綿密な準備と計画をもって登録に向けた活動がなされているのは多くの人が知るところでもあろう。
 それでも数が増えすぎた現状を見ていると、モンドセレクション(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%BB%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3)と言う認証に近いイメージを抱いてしまう。この全審査対象品のうち5割が日本からの出品で、日本から出品した食品の8割が入賞している(最高賞である特別金賞も毎年50以上が日本の商品に与えられている)という状況は一部では知られている(http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1007/13/news008_2.html)ものの、未だにコマーシャルの有力な宣伝文句の一つとなっている(http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/special/20080131/1006634/?P=3)。定められた基準を満足する商品にはすべて商が与えられるこの認証は、セレクションと言う言葉から日本人が抱く感覚を巧みに宣伝に利用されている状況がある。

 以前、京都の伏見稲荷世界遺産に指定されていないことを訝しむ記事を見たことがある(記事が見つからないのでご容赦を)。ただ、だからと言って伏見稲荷を訪れる外国人観光客が少ないという訳ではなく、むしろ口コミなどを通じて増加しているというものだったと思う。
 2014年の「トリップアドバイザー」におえける外国人に人気の日本の観光スポットで、伏見稲荷が第1位に指定された(http://www.travelvoice.jp/20140604-22271)というのが元の情報であろう(http://www.youtube.com/watch?v=FQES8YvbYOI)。

 しかし、元来世界遺産登録に限らずこうした指定はできる限り現状のまま(あるいは本来の状況に復原して)保存するという趣旨の特定の審査基準によって選定される。しかし、変わりつつ良さを引き継いでいくという文化価値も存在し、それは選定規準からは外れることもあるだろう。
 場合によっては、今後ますます登録が増えるほどに選定されるという希少価値が減じていき、却って登録を拒む方が価値が出るかも知れないということが生まれてくるかもしれない。