Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

疑心暗鬼

 ついにアメリカでエボラ出血熱患者が見つかった(http://www.afpbb.com/articles/-/3028097)が、これ自体は既に予想できていたことであり驚くには値しない。今回アメリカが公表したことで、多少を時間をおいてになるだろうが他の国もいくつかの発表に至る可能性もあろう。変な話ではあるが、先陣を切って発表するのにはアメリカは丁度良い国なのかもしれない。
 もちろんこれは私の考える絵空事なので当たっていたか外れるかについてあまり興味はないが、現時点では多少の漏れはあるものの抑え込めているという認識でよいと思う。もちろんそれがずっと続くという保証はないし、西アフリカの状況がさらに加速すれば、水面に落とした絵の具が広がるように感染拡大の危機は増加する。だからこそ、何よりも西アフリカでの封じ込めが重要であると思っている。

 封じ込めを成功させるためには現状の取組では不足だと個人的には思うが、専門家でもない私がどう感じようが大勢に影響があるわけでは無い。仮に西アフリカにおける封じ込めに失敗した場合、まずは感染がアフリカの広範囲に広がりCDC(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E7%96%BE%E7%97%85%E4%BA%88%E9%98%B2%E7%AE%A1%E7%90%86%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC)が予測するように感染者数が激増するとともに、アフリカ大陸以外の場所でも一定数以上の感染者が現れることとなるだろう。
 特に巡礼が始まっているメッカ(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%83%E3%82%B8)で感染が広がることになれば、イスラム教徒を通じて世界中に感染者が拡散する危険性が考えられる。拡散のきっかけとなるからと言って、世界中のだれにもこの宗教的儀式を止める術はない。厳密な検査を行っている(http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2014/09/post-3397_1.php)のではあろうが、結局のところ感染者をこの巡礼に招き入れないという受動的な対処しかできていない状態である。

 日本での感染拡大のケースとして考えられるのは、日本人がアフリカで罹患する場合もあろうが、それ以上にアフリカで労働者として働いている(その逆でアフリカ人が現地で働く)中国での感染拡大の方が怖いものがある。中国での感染拡大を経ての日本への波及である。もちろん、現時点ではアフリカ以外では感染の拡大は報告されていないし、万が一秘匿されたごく少数のケースがあったとしても、情報を封じ込める程度のものであればその時点で日本社会が心配に囚われるような状況にはない。
 とは言え、今後散発的ではあっても世界的に感染が広がるようなことになれば、初期症状が風邪に似ているという点が人々には脅威となるだろう。ISIS(イスラム国)がエボラ患者を生物兵器として利用する危険性については語られている(http://3punenglish.seesaa.net/article/404172660.html)が、これもその実効性ではなく懸念が巻き起こす疑心暗鬼の方が恐ろしい。
 パニックとは、多くの場合心の中の恐怖が引き起こす衝動的行動の連鎖である。いつそれが身近に表れるかもしれないと言う懸念は、人々の心理に大いなるストレスを引き起こす。世界中の政府が、仮にエボラ出血熱の発生を確認してもできる限り隠そうとするのは、こうした社会不安の増大がもたらす負の側面を考えてのことである。
 もちろん真実を伝えるということが大切であるのは間違いない。ただ、真実の全体像が明快でない時に一部の真実を語る行為が正しいのかどうかについては非常に悩ましい問題であると感じる。

 少し前のエントリ(トリガーエボラ:http://d.hatena.ne.jp/job_joy/20140917/1410906423)エボラ出血熱の世界的広がりが大きな経済停滞を招く可能性について少し書いた。あくまである程度広がった段階でのことではあるが、疑心暗鬼がその不安を増幅させる。
 潜伏期間中はほとんど他者に完成しないとはしても、容易にウイルスを検出できなかったり、先ほども書いたように初期には風邪と似た症状を示すとすれば、普通に考えれば市販の風邪薬で対処しようとするか、あるいは身近なかかりつけ医を頼ろうとするのが普通であろう。
 そして、こうした方法ではエボラ出血熱に感染していると気付くころには症状がかなり悪化していたり、あるいは医療関係者にも容易にうつる危険性がある。現状で普通に考えると変な話ではあるが、これから病院に行って医者に会おうとしても完全防備の医者に会うことになったり、あるいは診察の前に自分自身で血液検査を提出してその結果が出るまで診察を受けられないということもあるだろう。
 大部分の医者は他人の命を救う努力はするものの、だからと言ってそこに自分自身の命を賭けて行う訳ではない。

 かなりの極論ではあるが、人が排斥されたような状況になるのは医者に限った話ではない。学校でも、スーパーでも、はたまた会社でも。人と会って接触するという行為が危険になるとすれば、それを避けようとするのが一般的な人間の行動である。放射能の危険を避けようと福島から避難するのと、エボラの感染を避けようと人と会わないようにするのは基本的に同様の思考である。
 可能性の高低をどのように認識するかで行動は変わるだろうが、少なくとも不安心理が高まれば人々が極端な行動をとり始めることとなる。

 ごく最近のニュースでは、アフリカでエボラ出血熱に罹患しアメリカで治療を受け回復した男性が、再び体調を崩して病院に搬送されたとの情報もある(英文:http://edition.cnn.com/2014/10/05/health/ebola-us/)。エボラ出血熱の再発である可能性については未知数だが、仮にそうではなかったとしても病気により受けたダメージが大きく社会復帰に困難をきたすとすればこれまた大きな問題であると言える。
 近頃ではエボラ出血熱の空気感染に関する情報(http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/153861)も散見され、真偽は不明ではあるが恐怖感を煽ることには貢献している。危険性を十分認識して、より悪い状況も頭に入れて対処することの重要性は非常に高いが、そのような認識がない人が同じ情報を手にしたときにパニックへの心理的蓄積がどんどんと高まっていく。

 パニックは、問題に対するキャパシティ(受け皿)が低い状態で突然トラブルに巻き込まれたときに発生しやすいが、現在のエボラ出血熱の広がりようにじわりじわりと広がっていくものを押しとどめられない時にも、急激ではないもののある時突然発生することが考えられる。
 恐ろしい想像に対処しようと個人的には心理的衝撃に対する受け皿を大きくしていくのだが、それが何度大きくしてもさらに大きな衝撃が飛び込んでくるような場合にも発生しうる。そして、衝撃的なパニックよりもこちらのケースで生じるパニックの方が恐ろしい。
 中世の迷信的な信仰が一般的であった時代に、徐々に大きくなる彗星を見て世界の終わりを予想したかのごとき状況は、今の時代であっても起きないとは言えない。わずか100年ばかり前にハレー彗星の尾の中にシアン化合物により地球が死滅すると言われたことや、1997年のヘール・ボップ彗星に続いて宇宙人が侵攻するとカルト団体での集団自殺が生じたこともある(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%83%E3%83%97%E5%BD%97%E6%98%9F)。
 そして現代社会でもっとも恐ろしいのは暴動に発展することであり、暴動は封じ込めを無に帰するだけではなく戦乱の緒を開きかねない。

 こんなことを書いていると不安を煽りたいだけのように自分ですら感じてしまうのだから始末に負えない。とりあえず今すぐに兆候がある訳ではないし、また薬効の高いワクチン等が生み出されれば状況は大きく改善される。そして、アフリカ大陸での封じ込めが成功すれば、私の悪い想像などは杞憂に帰する。
 ただ、それでも病気が世界に広がれば様々な形でのダメージは間違いなく生じるし、そして混乱を致命的にまで拡大させる一つの典型的なパターンが疑心暗鬼にあるとすれば、それに対する心がけを注意喚起しておくことに意味はあるだろう。
 後で「騒ぎ過ぎだった」と笑い話として済ませれば何よりだと考えながら、書き綴っておきたい。