Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

消費増税は安倍政権の足を掬う

 世界に向けて「アベノミクスは買いだ!」と宣言した安倍総理ではあるが、今回の消費増税決定はその自信を打ち崩す結果になるのではないかと私は思っている。消費増税自体についてはいつかの時点で避けられないと思うが、問題はそれが今でよいのかというタイミングである。以前よりいくつかのエントリで書いてきたが、政治家の最も重要な仕事は政策そのものではなくそれを実行するタイミングを見誤らないことになると考えている。もちろん、タイミングではなくするかしないかの決断が全てだと考える人もいるだろうが、長期的にはそれが正しくても短期的には大きな揺れを引き起こす。この揺れを小さくすることこそが、政治家の役割ではないだろうか。
 どちらにしても、専門家でもない一庶民である私の考えの方がが正しいと主張できるほどの何かがある訳でもないが、今回のタイミングを考えるとその決断には少々疑問が残るので意見として書いてみたい。

 まず現実的な手続きの話をするのであれば、夏過ぎの時点で増税を取りやめる準備にかかっていなければ修正法案の手続きが間に合わなかったのも確かであり、今回は実のところ増税を決断したのではなく増税取りやめを決断しなかった形なのだろう。消費増税法案は昨年既に成立しており、見直さない限りは導入されることは決まっていたのだから。
 ただし、この最終決断には先日のFOMCにおける金融緩和継続が大きく影響したとも言える。ここで金融緩和の出口戦略が導入されていれば、おそらく世界中の株価などが混乱をきたし大きく下げることとなるなど、消費税のアップに対する信認が困難になっていた可能性はある。要するに、一度決まったものをひっくり返すにはそれなりの理由が必要であり、今回は十分な理由を見つけることができなかったということだと思う。

 橋本政権下で1997年に消費税アップが導入され、一時的には経済は耐えたもののアジア金融危機もあって結果的には景気は大きく落ち込むことになった。どちらの方がより大きな影響を与えたかが問題ではない。経済の腰が十分に強ければアジア金融危機があったとしてもそれなりに持ちこたえることができたと思う。要するにそれに耐えきれるほどには状況が改善していなかったということではないか。
 もちろん消費税の税収は安定しているが、それ以上に法人税等の税収が減っている。所得税も昔から比べれば減税された。さらなる法人減税も議論の俎上に上っている。税収という意味で言えば、消費税は安定しているかもしれないが社会におけるマインドを冷やすという意味では、非常に直接的でもある。

 さて、今回の増税のタイミングを見ても橋本政権時代と同じような匂いが漂っているように私には感じられる。日本の経済的な回復はまだ全体には広がっていない。確かに、世界においてのトラブルがない状態で日本のみのことを考えるならば、ひょっとすれば経済対策により補うことができるかもしれない。
 少なくとも、アベノミクスに対する期待感はまだ残存しており、同時に消費増税やむなしの認識は財務省やすべてのマスコミの努力により広がっているのも事実だからである。景気はマインドからであり、心理状況が激変する事態がなければ急激な落ち込みはないと私も思う。

 ただ、逆に言えば経済対策をしなければ大きな問題があると判断したように、マインドは決して強固なものではない。すなわち、世界経済がちょっと躓けばそれにより状況は一気に悪化する。そのリスクをどのようにとらえているかが問題なのだと思う。
 そして、私はそのリスクを回避するためにはもっと景気が回復する(マインドが強固になる)までは消費税を上げない方がいいと思っている。ただ、それは決定されてしまった。

 増税を決定したから今すぐに株価が下落して、経済が混乱する訳では当然ない。ただ、アベノミクスが結局のところ人々のマインド(雰囲気)に働きかけることで景気を向上させるものであったように、消費増税は逆の効果をじわじわと発揮していく。三本の矢とはいってもそれの一つ一つが強固な施策であるわけではない。それを補強する一番の要素がマインドの改善だったのだから、今回の決定はそれに確実に水を差す。
 そして、年内には必ず行われるであろうとされるアメリカの金融緩和縮小があり、それに伴う世界経済の混乱は間違いなく日本にも影響を与えるであろう。果たしてそれを乗り切れるのか。私としては非常に心許ない。経済対策は打たれるだろうが、気持ちが萎えてしまえばその効果が打ち消されてしまうのだ。
 安倍総理はこのマイナス部分を過小評価してしまったと私は思っている。