Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

法人減税のチキンゲーム

日本の現状を見ると、国家財政が借金を積み重ねているのは間違いない。国内的に言えば誰かの借金は誰かの資産であり、国家の借金(正確に言えば借金から資産を引いたもの)は国民と国内企業の資産となる。近年のデフレを経て国民の貯蓄は若年層を中心に減少しているが、実のところ企業の保有する資金は増加を続けている。すなわち、今どこがお金を持っているかと言えば企業セクターであり、特に国民と近い位置にいる中小企業ではなく比較的大企業の方が資産を積み上げている。
確かに、電機業界などの一部は国際競争に敗れて大きな損失を計上しているが、日本企業全体で見ればこのような状態にあるわけだ。そして内部留保を積み上げる一番の理由は、今後の経済状況が不透明である(というか、いつになれば景気が回復するか判らない)ので無駄な支出を省いていざと言う時にも企業として生き延びられることを優先しているからに過ぎない。その行動は企業としては至極当然のことで非難するには当たらないと私は思うが、国家としてみれば経済流動性を損なう大きな問題でもある。

さて、円高もあって国際競争に不利だという理由でTPPによる関税引き下げや法人減税を主張する声は輸出企業が中心の経団連などから強いが、それは何のことはない自分たちにとって有利だからという理由であって日本全体としてどうかと問われれば答えも変わってくる。セクター全体として預貯金が積み上がっている企業を減税して、預貯金が減りつつある国民(特に現役世代が顕著)に大きくかかる消費税を引き上げるというのは、考えてみれば理に適わない話であろう。
ただ、輸出というのは世界的に見れば国府を増加させる大きな手段であることも事実ではある。輸出企業が受けるメリットはその効果が薄まりつつあるとは言えど、回り回って国民国家のメリットでもある。だからこそ声高に法人減税が叫ばれることになるわけだが、国民の生活を考えれば実際それを強く主張することが良いのかどうかと言う疑問も徐々に広がりつつあるのではないかと感じている。それは何も日本だけの話ではなく世界的にもあるのだと思う。
問題は、法人税減税が他国から富を奪う一つの大きな手段であるという呪縛から逃れきれず、何処の国もその方針を撤回できないという一種チキンゲームのような状態に陥っているのではないかという点にある。自らが先に引けば不利になる。皆が一気に降りなければ降りることができないが、抜け駆けが怖くてその提案すらできない。そんな感じに見えてくる。

それは、グローバル化という舞台があるからこそ大企業中心の問題でもあると思う。すなわち、グローバル化により恩恵を受ける企業は他国企業との競争故に法人減税に熱心となり、そうでない企業にとっては法人減税は嬉しくないわけではないが、それよりも国内景気の改善をもっと強く進めてくれと言う話になるのだろう。なぜなら、商売の舞台が国内であるから競争相手も同じ条件であるからだ。その上で、国民が困窮すればその方が影響が大きいためむしろ法人減税と引き替えの消費増税は受け入れがたいのではないかと思う。
国内企業を優遇しようとすれば無理に法人税減税に邁進する必要はなく、輸出企業を優遇しようとすれば法事に税減税もそうだし円高是正に介入という話にもなる。この両者は本来どちらが大切かなどと比較できるものでは無く、双方とも日本という国にとっては重要な存在である。だとすれば、消費増税と実質的にバーターで議論されている法人減税というのが偏った考え方であるのはわかる。
特に、海外の退潮傾向がはっきりしてくる今後はそれが明確になるだろう。

世界はそれでもチキンゲームに突入しなければならない。それは通貨安競争と同じ理屈であり、「他国から奪え。けれども自国民には厳しく。」という貿易関連(特に輸出)企業優先の論理構成なのだ。しかし、それによりわんさかと企業を誘致できるとも言い切れないのである。
国内を充実するという戦略を同時に採るとすれば、通貨安と法人税減税の両者を採用するという流れにはなりにくいし、輸出企業からすればある程度の通貨安を実現したもらう方が正当な競争ができるので望ましい。結局、法人税減税はその先の優先順位の低い方策なのだと思う。
日本が他国のマネをしてチキンゲームに参加する必然性は今のところ見あたらないように思うがどうだろう。