Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

アベノミクスは成功するか

 先行期待で円安と株高が進んではいるが、これに一喜一憂しても始まらない。アベノミクスと揶揄的に呼ばれる政策は、声こそ聞こえてくるものの、実質的にはまだ何もスタートしていないのだから。かつて小泉改革の折に小泉元総理は「株価には一喜一憂しない」と言っていたが、期待という揺るぎやすいものを相手にするものであるのだから、この言葉はまさに真であり現安倍政権でも抑制的であると思うが株高などを礼賛しない方が良い。
 一方で、ドイツや韓国からは通貨安競争を促進させる政策だと一部で懸念や非難が出始めているが、今後はこの種の非難は今後日本の株価が上昇して企業業績がUPしてくればもっと増えてくるのではないかと思う(ファイナンシャルタイムズは記事によっては日本擁護:http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2013012400973)。そして、自民党政権に否定的な日本のメディアや、財政支出に否定的な識者は水を得た魚のように吠えたてることになるなるだろう。その圧力に負けてしまえばこの試みは頓挫する。

 そもそも言葉が先行してしまっているのだが、アベノミスクが目指しているものは通貨安ではない。麻生副総理も言及しているが、それは過程において結果的に出てくるものである。やっていることは、アメリカがQEにおいて行った政策と大きく変わるものでは無い。財政支出公共投資と搦めて実施する。それを形式上は国債発行で賄うが、それに相当する分を日銀が買い取るという寸法である。
 一部のリフレ反対派が言う懸念もあながち間違いではないと思うが、彼らからは現状を打破する明確な方法論は聞こえてくることが少ない。地道に日本の競争力を上げるだとか、潜在的成長率を上げようという目標は聞こえてくるのだが、具体論の話になれば人口減少社会の日本では難しいという逃げが現れる。国民の希望は、現状分析や現状追認ではなく変えたいというものである。だから、変えるという具体的な方法論を提案した安倍総理の支持率は現状において高いのだろう。
 民主党が変えるのではないかと期待した3年前と同じではあるが、無策であった彼らとは現状においては明らかに違う。

 さて、アベノミクス否定派は何もリフレ反対派のみが発している訳ではない。例えば、現状の円安に警告を発する人は少なくない。最も重要なのは、日本国民が豊かで幸せな生活を送ることができる事であり、それが実現するのであればリフレであろうが何であろうが私は政策的に頓着はしない。円安円高で言うなれば、理想は円高にも関わらず輸出が好調であることだ。円高故に輸入品は安く、それいでいて企業は輸出により一定の利益を得る。残りは内需により国内産業が活性化できれば何も言うことなどありはしない。
 ただ、そんな理想的な状況を生み出せる国など現代では存在しないのも周知の事実であろう。通貨の価値を決めるのは、一つには通貨発行量がありもう一つには国の産業的な強さが重要だ。日本は内需の国ではあるが、それでも国力を示す指標は大企業などによる国際的な産業競争力も看過できるものでは無い。今日本の輸出産業が苦しんでいるとすれば、一方的な円高を通常のレベルに是正すると言うこと自体に反対する人は多くはあるまい。
 アベノミクスの結果として一方的な円安が続くことを警告する人は少なくないが、私はその可能性は高くないと思う。ここ数年円高の負の影響により輸出産業が苦しんできたが、これは日本の輸出競争力を低下させ、結果として日本企業の技術投資を多少なりとも低迷させた。新しい画期的な商品を生み出しても、為替の影響でその優位性を維持できなければモチベーションが低下するのは当然だ。もちろん、核心的な技術の開発により為替の苦境をはねのけられるものがあればそれに越したことはないが、そんな例は滅多にあることではない。多くの技術開発は地道で着実なものである。
 だから、ある程度までの円安は日本企業の国際競争力を上昇させて、結果として日本の産業的な強さを向上させる。価値の向上は円安の進行を抑制する側に働くのであって、無軌道な円安が続くのは通貨発行の拡大と共に日本の技術力等も低迷する場合であろう。
 ちなみに、通貨発行についても通貨安戦争の懸念が囁かれているが、これについては世界中が同じようにそれに踏み切れば一部の国の通貨安による輸出競争力の一方的な強化に繋がることもない。むしろこれまでは韓国などがその国家としての小ささ故に通貨安による貿易競争上のメリットを受けていた事実の方が仕組みとして歪んでいたのである。

 アベノミクスが成功するかどうかは、この取り組みを途中で辞めてしまわないことが重要である。小渕政権時代に上向きかけた景気が橋本政権時代にあっという間に崩れていった。これは、政策転換時期の見誤りだと私は思う。
 あと、経済を動かす大きな要因の一つに国民のマインドがある。これは細かな操作の聞かない扱うのが厄介な要素ではあるが、それでもトレンドがどちらに向くのかと言うことは重要である。緊縮財政派(あるいは財政均衡派)はこの面について効果的な対処を示さない。アベノミクスがまだ何を成し得た訳ではないが、少なくともマインドを多少改善する事には成功しているようである。