Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

ナナシは守られない

 ネット上にあまた存在する掲示板では、毎日想像もつかない数の書き込みが匿名で行われている。マスメディアはこれらを便所の落書きと評したこともあるが、同時に最近ではネットの反応を見てメディアが取り上げることも多くなっている。この一見とんでもなく自由で無秩序なサイバースペースは、匿名性というものを利用して少々の嘘やデマさえも許容する。
 もちろん、それが成立するのは社会が寛容だからではない。その情報が取るに足らないものとして無視されているからである。無視しえない理由があれば、結果として炎上し狭いネット空間とは言え情報が乱舞する。そして祭りが広がれば時にはマスメディアが取り上げることすらある。

 関わる者が増えれば、本来匿名のはずの人物像が脇が甘ければあらゆる情報網を生かして容易に特定され、社会的制裁へと広がっていく。ネットの情報は膨大であるからこそ意味がない情報には誰にもアクセスしないが、一旦価値と興味が発生すれば断片的で個々には価値のない情報が一本の糸として繋がる。すなわち、匿名が保持されるのは実質的に価値がないからこそ捨て置かれているに過ぎない。
 もちろん、普段から匿名性を維持するようにこうした掲示板等に注意深く接していれば、実名が特定されるようなことには至らない。そういう意味においては匿名掲示板は匿名である。匿名性を自ら放棄するようなことをしているからこそ、何か事が起こった時にそれが消失する。

 しかし、考えても見れば匿名性に細心の注意を払うような人が炎上事件を起こす可能性は、そうでない人と比べれば非常に低いのは言うまでもない。最近話題のバイト先の冷蔵庫に入って写真を撮る行為などは、自分一人では撮影できないものもあって仲間が存在する。自分で投稿する場合も仲間内での悪ふざけで行ったものであるのは間違いないが、それが社会的に広まった時のことに想像が及んでいない。むしろ、コンビニの冷蔵庫の件を見て調子に乗っているくらいである。
 逆に言えば、その情報流出により自らが不利益を生じさせる可能性があることを容易に推察できるのだが、そこにまでは考えが至っていない。

 もっとも、ここにきての企業側の態度も少々頑なである。ブロンコビリーでは店舗を閉店してアルバイトの従業員に損害賠償を請求するようである(http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130812/biz13081215490002-n1.htm)。冷蔵庫等の清掃などを行えば衛生上の問題はないだろうに、風評被害を考慮したやや過剰な反応とも思える。損害賠償請求において、店舗閉鎖の責までこのアルバイトに要求することは容易ではないと思うが、懲罰的な態度なのかもしれない。
 こうした企業側の反応を厳しすぎると感じる人は多少いるかもしれないが、それでもこの店員を擁護する人はいないであろう。企業側の判断については、閉店の責任を仮にアルバイトに負わせても実質的な回収はままならないであろうから、どちらにしても一時的な損失よりは懲罰的な処分と見せることに加えて、社会的な信頼回復をアピールすると言ったところであろうか。

 さて、アルバイト店員にもさまざまな質がある。学生アルバイトで学費や生活費も稼ぐケースもあるし、フリーターとして夢を追いかけている人もいるだろう。そしてアルバイトしか生活の枷を確保する術がないケースもある。個別ケースとして仕事で人間の質を語ることほどの愚はないと思いながらも、ただ自分の将来に明確なビジョンを持っていない人も当然いるだろう。
 それさえあれば、こんな愚にも付かないことで自分の将来に大きな枷を嵌めるような危険を冒すとは考えにくい。逆に言えば、将来に大きな夢を持たない人を安い労働力と利用するのが現代のコンビニエンスな人材利用法だとすれば、同じ様なことは形を変えて継続するであろう。
 だとすれば、このような人材利用(活用という便利な言い回しもある)をするというリスクは今よりももう少しクローズアップされてくるのかも知れない。

 まあどちらにしても人々は社会と必ず接点を持っており、写真をアップすれば「ナナシ」ではいられないのは間違いない。