Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

蜃気楼のような株価

景気は悪化しつつも一時的な株高が生じる可能性があることは以前にも少し触れた。むしろ実体経済の悪化を覆い隠すように株価の高騰を狙うのではないかというものである。実際、欧州の景気は回復のめどなど立っていないし、どこかのデフォルトをきっかけに連鎖的な危機の広がりを見せる可能性はぬぐえていない。
株高を先導するアメリカではあるが、失業率は一時より多少回復したものの8%以上の高水準を続けており、ここからの回復の道筋は見えてない。通常であれば、とても株高などに興じている場合ではないはずだが、景気先行指標でもある株価は資金が潤沢にばらまかれていれば持ち上げる事は不可能ではない。仮にそれが意図的なものでなかったとしても金融機関が踊り舞うのに必要な舞台は整うというわけだ。それを通常は「金融相場」と呼ぶ。
一般の定期的な景気循環であれば、金融緩和が行われれば多少のタイムラグはあるものの金融相場の後、実体経済が回復し始めて企業実績なども後追いを始める。それを「業績相場」と呼ぶ。こうした通常の景気循環は政府の金融緩和により比較的容易に実体経済が向上するケースが多いが、現状がそれと同じとはおそらく言えないだろう。欧州の金融危機は制度やシステムの変更でお化粧しているものの実態として改善しているわけではない。今は、通常の景気変動ではなくバブルが崩壊した後なのだ。

日本はバブル崩壊後20年経っても浮上できないでいる。もちろん、単純なバブル後遺症なら少し前には癒えたであろうが、心理的なそれは依然として大きな影を落としている。欧米のそれが日本と同程度のバブル崩壊なら回復に同程度の時間は必要だろうし、痛みを未だに味わわずに先延ばししている欧州では、おそらく日本以上の時間が回復には必要であろう。それ以上に、そもそもまだ欧州のバブルは崩壊しきっておらず崩壊過程にあるのだと考える。だから、それが大きな痛みと共に膿を出し切るまでは容易に浮上できるはずもない。
そして同じことはアメリカにも言える。欧州よりは痛みを甘受してきた面で回復は早いだろうが、それでも社会的経済的な歪みは容易に是正できないだろう。政策や統計情報の良い面だけを取り上げて株高を図ることは、それを扱う者たちには仮想の資本増強を図ることになるため、結果的に経済を活性化させることになる。アメリカも議会により財政政策を縛られている以上、それ以外に打つ手がないというのが実際なのだろうが、株高のみに頼る方法論はいつか必ず崩れる。それは、経済を持ち上がるには手段が偏りすぎているためである。
そして、誰もがそのことを知りながらも方法がそれしかないという一種あきらめの境地で一時的な供宴に身を投じているのが現状ではないだろうか。

だから、現状における欧米の一部の国の株高は景気を全く反映しておらず景気の先行指標としても役には立たない。喩えるならば蜃気楼のように儚げで実態のないものだと言えるのではないか。
もっとも、日本や中国の株価は見事に低迷している。それは、インフレが怖い中国とバブルの後遺症を未だに引きずっている日本の金融当局という理由はあるものの、実情を最も反映している指標となっているかも知れない。