Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

中小企業の時代

ほんの少し前までは、大企業がグローバリズムの中での生き残りをかけて、M&A等を繰り返し巨大化していくのが一般的な姿であった。巨大化する事で事務部門の合理化を図ると共に、資材の調達を一元化することでコストダウンを図ったり、あるいは買収の危険性から逃れるなどの事例も数多く見られた。
資本主義社会である以上、株式を公開していれば買収から逃れるのに最適な手法として巨大化があるのは確かだが、世界経済が不安定になりつつある今ではその巨大さがネックになりつつあるのではないかと感じる事も多い。
そう感じる理由として、まず一つ目は人件費の高さである。現状は、正社員を契約社員に置き換えたりあるいは海外の安い人件費の下での生産を行ったりと、結局のところ人件費を下げることでのコスト競争を世界中で繰り広げている。情報化の進展したこの時代、単純なオリジナリティは容易に真似られてしまう。消費がコストよりもそれ以外の価値(例えばブランドに代表されるような信頼性や多様性)に強く価値を置くようになれば、高人件費もまかなえるかもしれないが、あくまで同じ土俵で国際競争を行うならば人件費を下げるしかない。
二番目には、基本的に大企業が大企業たり得るのは大量生産大量販売があるからである。マスプロダクトにマスマーケティング、大量に安く作ってそれを大量に売る。しかし、大量生産と大量販売は商品の陳腐化と相関する。それ故に、大企業は先行した技術やデザイン、あるいは擬似的な満足感を売り物にして高利益率のうちにその商品から稼ぎきるということが求められてきた。
日本の電機メーカーが一敗地にまみえているのは、先行技術で荒稼ぎできる分野が減っている事の裏返しでもあろう。

三番目に感じるのは、貿易のスムーズさがある。大企業が大企業として世界中での経済活動ができるためには、貿易ができる限りスムーズである必要がある。要するに境界が低い、別の言葉で言えばボーダレスであるということだ。これは、ニッチな中小企業にも貿易関係では多少のメリットを与えるが、それ以上に大企業に恩恵が大きい。余分な手間を省けるのだから

しかし、それは市場が増大していく時代の方法論でもある。市場が飽和状態になれば、差別化はむしろ価格ではなく希少価値によって行われていく。低価格も一つの希少価値ではあるが、技術やサービスが一度行き渡ってしまえば次に続くのは差別化である。この差別化については、新しい技術やイメージを販売することで図ることも可能である。かつてのソニーがそれであり、いまではアップルがその地位を有している。
日本の電機メーカーがサムソンなどに大きく後れを取ったのは、BRICsなどの新規市場において価格に敗れたことと、先進国における差別化に失敗したことが挙げられるであろう。今、TPPが経団連から叫ばれるのは、三番目の貿易のスムーズさという環境要因を少しでも良くして、こうして競争に敗れた部分を何とかカバーしようとしているものでもある。

未だ、十分に製品やサービスがBRICs諸国などに広がったと言うには早いかも知れないが、世界経済の停滞は今後も続くとすればこうした市場は広がるよりもむしろ縮小に向かうかもしれないと思っている。加えて、ユーロの混乱を見るようにグローバル化の進展もそろそろ限界が近づいている気もする。だとすれば、確実とは言えないものの製品・サービスの差別化という要因が大量製品が蔓延した世界においては意味を持つ。大企業は今以上にグローバル化にかけるしかないのはその特性によるものだ。彼らは、少しの製品を多種揃えるには適した存在ではないからである。
あるいは、大企業は寡占化を目指すこととなる。それこそが高い収益率を維持する方法の一つであるのだから。

大企業の苦境はおそらく中小企業においてはチャンスとなる。もちろん大企業の下請けではそのチャンスを生かすことはできない。ただ、中小企業の特徴である少数多品種の生産は、製品やサービスが飽和した社会においては徐々にではあろうが輝きを増していくと考えられる。
今後は、大企業が再び分社化の傾向を高めるかも知れないが、それこそは中小企業に有利な時代となったと考えるべきではないだろうか。

「平和は大企業に、混乱や停滞は中小企業に有利な環境であろう。」