Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

STOP or GO !?

 少し前ではあるが、私はこの日記において何度もTPPの問題を取り上げた。特に民主党政権下での交渉には何の期待も持てなかったため、TPPに参加すべきではないという論旨を幾度となく張った。では、安倍政権に替わって状況は変化したのであろうか?
 日米首脳会議を経て、新聞各社はTPP交渉参加に踏み出したとの記事が溢れている。その結果がどう動くかは予測できないが、現状の自民党政権だったからと言ってTPPにおいて上手く交渉が運ぶとはあまり考えてはいない。現状における認識は、多国間における貿易や取引の枠組みを作ることには反対しないが、その形を考える上でTPPはメリットとデメリットのどちらの方が多いかを考える時、現状の日本にとってはデメリットの方が多いのではないかと思っている。

 その理由の一つとして、原則としての関税などの撤廃がある。自由な貿易が経済的な意味を持つことは私も否定はしない。技術的優位性を持っていれば、関税が無くなることにより他国の市場を席巻できる可能性はある。しかし、仮に技術的な差が出にくい分野におけるコスト競争力を考えた時には人件費の低い国家、または為替が安い国家が生産拠点として成功する。
 これは、ほんの少し前まで円高で喘いでいた日本企業の姿、特に電気産業を見れば明かである。日本企業がガラパゴス化しているというのは確かに一面における心理ではあるが、同時に日本製品の信頼性が示す通り根強い人気を誇っているのもまた事実である。同じコストであれば日本製品を選ぶという人は世界中にいくらでもいよう。
 輸出に最も大きな影響を与えるのは、結局のところ先進諸国では比較的低くなっている関税よりも為替などの影響の方がずっと大きいし、またその動きも封じ込めた時には単純な人件費の差が現れる。すなわち、一部の先端技術を除いてコモディティー化した産業分野では、人件費の高い国家は負けるのだ。日本が韓国に負けたと騒がれたのは、主にこの影響が大きい。確かにサムソンなどは日本を凌ぐ研究投資を始めているが、それが故に日本に勝ったのではなく、日本に勝ったからそれができるようになったと言うことを忘れてはならない。
 結果的に、最先端技術や高級品により養える日本の労働者数などたかが知れている。関税撤廃などによる流動化の促進は、おそらく貧富の差を今以上に大きくする。果たしてそれが本当に良いことだろうか。日本の一部はTPPを利用して間違いなく勝ち組になるだろう。しかし国家としては、少しでも多くの国民に良い生活を保証する義務がある。TPPでそれが得られるとは私は思わない。

 マスコミなどは農業の生産性が悪いことを理由にその点を突いている。TPPの問題点は何も農業に限った話ではないことも多くの人が知り始めているが、同じようなことは新聞社にも言えるだろう。安い米を食べられるようにと新聞社は消費者のメリットを吹聴しているが、それが自分たちに跳ね返ることを知らなかったとは言わせない。
 そもそも新聞価格は欧米の3倍程度である(http://www.m2j.co.jp/market/2min_fxreport03.php?id=871)。それなら、当然ながら焼死者のためにはまず新聞の価格を欧米並にしてはどうかという話になるが、この話が出た時にマスコミはどういう論調を取るつもりなのだろうか?

 もう一つ重要なポイントは、TPPが迫る制度や慣習の改変は文化そのものの変更を迫っていると言うことがある。確かに文化も経済に影響を受ける存在であるから、社会動向が変わればそれに応じて変化していくものである。しかし、文化は無理矢理に変えられるものでは無い。
 私が危惧しているのはTPPによる変化が、私達が築き上げてきた生活文化まで激変させるのではないかと言うことである。国民皆保険制度はすでに議論となっているが、おそらくそれ以外にも数々の文化が変えられてしまう。
 確かに黒船来港により江戸時代は終わりを告げた。その時、変化しなければ今の日本がなかったのは間違いないだろうが、当時と異なり今の日本は鎖国している訳ではない。それどころか世界と緊密に結びつき、リンクし合っている。その際に、日本的な良さが残せているのが現状ではないか。ものには程度がある。そしてTPPがその限度を超える変化をおそらく日本に与えるだろう。
 それを由とするかどうかは個人的な判断により異なるだろうが、私はわざわざTPPにより無理矢理日本にその変化を与えることが必ずしも良いとは思わない。

 とは言え、安倍総理はTPP交渉参加を明言した。アメリカ内部にも反対派が多いこの交渉であり、日本もこれまでの手前あまり譲歩できない状況にもある。ルール作りを主導できるならそれが最高であるが、自由化がなんでも最高の思想であるという考え方はそろそろ変えなければならないのではないだろうか。