Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

困難から逃げない

「我々は困難から逃げません。」
これは、野田総理が消費税を進めるために語った言葉である(日テレニュース:http://www.news24.jp/articles/2012/04/28/04204729.html)。

この言葉を聞いて不思議な感覚に囚われた。まあ、確かにこれまでの自民党政権時代の政治も基本的には先送り政治であったのは間違いない。難しい政治課題は、すぐに決着が付けられないと言うことで玉虫色の実質的には引き延ばしでしかない形での決着を付けてきた。理由は簡単だ。その政策により得をする人損をする人が必ずいて、「得をする人の数×声の強さ<損をする人の数×声の強さ」であったのだろう。数の上では得をする人の方が多いので政策は提案される。ただし、それにより不利益を被る人の話を最大限聞き入れて調整を図ることが政治の役割の一つでもある。それは拙速にまとめようとしても難しいケースが非常に多い。この調整に最も役に立つのは時間という要因であろうと思う。
現実には、結果的には損をする人達が必死になって抵抗すれば数の上では得をする人の方が多くとも決められなかった。要するに調整しきれなかったのである。もちろん、最大限努力を続けてのそれであれば救いもあるのだが、決まらないことが常態化するにつれ本来決めることができる内容にまでその曖昧さが広がり始めた。それは一部の声の強い集団が決めきれない政治を利用したと言うこともあるだろうし、官僚などが対立の強い事業に関わることをできる限り避けてきたと言うこともあるだろう。そして、調整という恨まれる可能性の高い仕事を政治家が積極的に行わなかったと言うこともある。
時間を得るための先送りは一つの考え方であるが、困難から逃げるための先送りは逃避行動でしかない。結果的に言えば、現代日本社会は決めることが可能なことにまで先送りをする社会になった。

橋下大阪市長は、この状態を打ち破るには独裁的な政治が必要だと行動した。もちろん彼の政策全般についてはおかしいなと感じる点もある。ただ彼が他の政治家と明らかに異なることは、恨まれることから逃げていないと言うことであろう。それにより、決められなかったことを決めることができる。もちろん、時間が必要なことにまで拙速なそれを持ち込むことは必ずしも正解ではないと思う。でも、政治家が逃げないと言うことについては賛意が多いのも世論を見ていればよくわかる。日本の国民は逃げる政治家を強く支持することはない。ちなみに言えば、国内的には逃げない方が良いと思うが、国際的には逃げるのも政治家の器量だと私は思う。

話を元に戻せば、野田総理の「困難から逃げない」は国民に対するアピールであるのは間違いない。しかし、同時に逃げないと宣言している困難の大本である相手は国民そのものなのではないか。そもそも消費税に反対しているのは一部の既得権益者であろうか。そんなことはない。新聞各社などは、増税キャンペーンの仕上げに予想通り新聞は非課税にという論説を載せ始めた。都合の良い論理だなと思う。消費増税により苦しむのは、一人一人の国民であり中小企業であるのにも関わらず、大手の新聞社は自分たちの勝手な都合で自らを除いて消費増税をやるべしと主張するのである。国民に苦労をかけてもやる。そして、すなわち反対するのは国民なのだから逃げない困難は国民そのものと捉えている事になる。
だとすれば非常に珍妙な物言いである。苦労をかけ、抵抗する国民を困難と位置づけ、その相手に向かって「困難から逃げない」と呼びかける。これは一種国民に対する宣戦布告に近いと思うのだが、そう考える私の理解はおかしいのだろうか。
仮に、明確に「国を生かすためには国民に苦労をかける」と言えばまだ潔い。そのためには国民の支持が得られなくとも邁進するというのであれば筋も通ろう。ところが野田総理の言説を見ていると、国会議員の支持は必要ないが国民の支持はほしいと聞こえているのである。それ故に「逃げない」という強さをアピールしている。
ただ、小泉元総理や橋下大阪市長は敵を常に国民(あるいは市民)以外に定めてきた。そしてその敵を打ち破るために一時的な苦労を国民や市民にかけるという流れである。今の野田総理のやり方とは明らかに似て非なるものなのだ。

困難から逃げないことは賞賛に値する。しかし、その困難を国民と共有しようと考える以上は、困難の先にある利益を明確に示す必要がある。ひょっとすると夢物語かも知れないが、それでも国民がその夢を信じれば支持を得られるだろう。さて、野田総理の「逃げない」は支持を得られるであろうか。

「国民はその場しのぎにはもはや飽き飽きしている。そして、今では増税もその場しのぎの一つとして意識されている。」