Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

最悪のシナリオ

一部の資源価格が再度ジリジリと上昇を始めている。WTI原油先物価格も100ドルを超えており、円安も手伝って日本のガソリン価格も上昇を続けている。この上昇には、ギリシャ問題の一時的な先延ばし(実際には先延ばしなのだが、報道的には当面の解決と言った感じのものが多い)による不安感の減少があるだろう。もちろん、その一時的な先延ばしですら危ぶまれてきたのだから、それを実現できたことについては意義深いことも認識しておく必要がある。なお、金価格はそれほどの上昇を見せていない。こう見ると、資源によって動向がまちまちという状態であると言う方が適切かもしれない。

現状の世界経済は、二つの要素が綱引き状態にある。
一つは、世界中の中央銀行が大規模な金融緩和を行っていることである。金融機関には極端な低利での資金がたっぷり流れている。それ故に株価は大幅な上昇を見せている。資源価格もそれと同じ線上にあり、溢れた資金が行き先を求めているが故に上昇しやすい状況にある。
もう一つは、資金は溢れているが世界的には不況が進行しつつあることだ。欧州はギリシャ問題などへの対処から財政支出についての締め付けを厳しくしている。金融界には資金が回っても、産業界や一般国民にはお金が届きにくい状況にある。それ故に消費の減退が心配され、資源などの実需が減少すると考えられており、こちらは資源価格を抑制する側にある。

この綱引きが均衡している間は、強気と弱気がバランスしていてある程度の緊張感の下にではあるが通常の経済状態が保たれていると言って良い。
ただ、金融界に溢れるほどばらまかれた資金は一定の成果を上げなければならない。本来景気が悪いのだから大きなリターンは望めないはずではある。確かに、巨大なレバレッジを取るヘッジファンドなどは影を潜めた。ただ、安全志向ではありながらも一定以上の利益を得るという強迫観念は未だに世界の金融機関を縛っている。ガイトナーはその状態を「金融危機健忘症」と評した。
安全にだが強欲に、その結果が行き着く先は容易に見えてくる。あらゆる金融機関が同じような商品又は資源などに群がるのだ。局部的なバブルの発生である。現状はそれが株式に向かっている。リーマンショック前と比較すれば明らかに現在の方が世界的な景気が悪いにも関わらず、アメリカのNASDAQ市場は既に株価がリーマンショック前を超えている。それは韓国なども同じであり、これが景気の状況を先取りしていると考えるのは難しい。
それでも、株式市場はまだ懐が深い。世界で最も懐の深い(資金運用額が大きい)市場は債券市場である。その債券市場はギリシャ問題などで大きく傷ついた。その結果、信頼される国の国債金利は極端な低金利に、信頼できない国の国債金利は高くという二極化を招いている。
株式市場は企業業績に連動するため、世界的な消費の落ち込みが続けばいずれは下げてくる。その時に各国の中央銀行がばらまいた資金を回収するかと言えば、おそらく更なるばらまきを行うだろう。ただ、景気のてこ入れは本来政府支出などの財政政策とセットでなければ大きな効果は得られない。金融政策のみの資金が溢れるだけになって、株式にも限界が来るとすれば資金は何処に向かうだろうか。

最悪のシナリオは、溢れた資金が資源に向かい資源価格が暴騰してしまうことであろう。景気が悪かろうが関係ない状態になると、もはや歯止めが利かなくなる。それはますますの景気後退を誘発するし、アラブの春を後押ししたときのように食糧価格の高騰も世界中の混乱を招きかねない。
今求められるのは、金融機関の救済も大切ではあるがそれ以上に無秩序な資金の暴走が生じないようにすることではないかと思う。
ただ、日本と異なり世界の各国にはそれをできる余裕がそれほどない。日本も十分にそれがあるとは言えないが、まだ多少はマシである。世界景気の落ち込みを防ぐにはどこかの国が景気よくなる必要がある。現状、歪んだ形ではあるがアメリカがそれを率先している。中国ももはや苦しい状況ではあるがこれまでは世界を牽引してきた。歪んだ形ではあろうが、中国に助けられた部分もある。

日本はいつまでもモラトリアムのフリをし続けても良いのだろうか。世界が迎える危険性のある最悪のシナリオを防ぐ重要なメンバーの一つに日本が入っているのは間違いないのだから。

「日本の危機を叫ぶ人たちは日本を過小評価しがちだと思う。それは、戦後の自虐史観と呼ばれている心情に近いのではないだろうか。」