Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

良いところを伸ばす

最近の日本社会を見ていると、悪いところを正す動きは個別に実例も多くもてはやされるのだが、良い面を伸ばすといった動きには具体性もなくあまりニュースにもなっていない。

悪者を罰するのは、善良な国民からすればある種当然の結末ではあるが、世の中に絶対的な悪者などほとんど存在しない。悪者といういうものは、主義主張が異なる、特定のルールに従わない存在のことを言う。
極論を言うようで申し訳ないが、仮に生けるもの全ての命が等しく尊いとすれば、人間は本当に多くの命を奪っている大殺害者達の集団である。最低限喰うため以上に多くの生命を殺し、利用し、場合によっては絶滅させる。
これは神の視点や、あるいは人間から被害を被っている動物からの視点となるのだろうが、決して人間は平等に博愛精神を有しているわけではない。自分、あるいは自分たちに都合の良いことが善であり、正義であるのだ。

例えば、マスコミにいろいろと叩かれてきた業界がある。
古くは、ゼネコン、政治家、官僚
最近で言えば、公務員全体からマスコミそのものまで

その時々に応じて不祥事を生じた業界を正し、厳しく規律にて締め上げる。
なんてことはない。不祥事が良いこととは言わないが、それを罰するのみで良い面を伸ばすという発想が全くと言って良いほど社会にはない。それは自助努力なのだ。

公務員と一般民間労働者の間に給与面での不平等が生じているのは事実であろう。
しかし、それは公務員を単純に叩けばいいのではない。それでは不満のは解消は多少できたとしても、根本的な問題の解決にはならない。問題解決は、民間給与の上昇や雇用の確保にあるのだ。
確かに政府はそれを謳う。しかし、そのために効果的だと思われる措置には、いろいろと理由をつけて取り組まない。日本国民にとっても日本という国にとっても最も重要な問題なのにである。

それができない理由として持ち出されるのが政府の財政問題である。
確かに日本政府の財政は酷い。とてもではないが良い状態とは言えない。
しかし、国民の幸せな生活と政府の財政問題のどちらが重要かと問われれば、普通は国民生活が重要と答えるものではないのであろうか。
しかし、現在行おうとしているのは増税であったりTPP参加であったり。
これらは、一部輸出企業や政府にぶら下がる団体を潤しはするものの、国民全体を幸福にするわけではない。

現状の停滞を打ち破る方法は、何もTPPという自由貿易の推進でなければならないわけではない。
他にもいくらでも方法はある。しかし、それぞれいろいろな理由をつけて方法には取り組まない。
通貨の信任だとか、財政の均衡だとか。
景気が良くなって、国民が潤えば自然に回復するものではないか。


何も国の方針だけではない。私達は生活の中でも悪いところを直すと言うことは容易に取り組めるが、良いところを伸ばすと言うことにはなかなか取り組めない。というか、どのようにすればよいかを知らない。
あるいは、何がよい面なのかを冷静に分析できていない。
だから、いざ良いところを伸ばそうと思っても何を伸ばすべきかを決められず、仮に決めても具体的な方法論に至らない。

良い面を伸ばすことよりも、悪い面を改善することが優先される理由として考えられるのは、良い面を提示することが慢心につながるからではないかと思う。ある面が優れているということを当人に伝えれば、それにより努力を怠るのではないかという懸念である。
確かにそれがないとは言えない。しかし、その良い面を自分のメリットだと当人がきちんと理解できれば、本人はそのことにおそらくプライドを持つ。プライドは行きすぎれば増長を招くが、それを守る努力をする方向にも働く。だから、何も必ず増長に至るというわけでもない。

私が考える一番の理由は、教えたり指導したりする側からすれば、良い面を褒めるよりも、悪い面を指摘して改善する方が早期の結果を得られるからではないかと思う。あるいは悪い面を指摘する方がより具体的であって、わかりやすいからと言うのもある。
短期的には悪い点を改善する方が効果が出る。しかし長期的な視点に立つならばおそらく長所を伸ばした方が効果は大きい。
要するに指導者側の問題ではないだろうか。悪い面を指摘する方が楽なのだ。
楽に指導した気になることができる。それなりの充足感も感じられる。
そして短期的には効果も得ることができる。

しかし、悪い点の指摘のみでは大きな伸びは期待できない。
曖昧な方針による本人の努力に期待しても、必ずしも良い面が引き出されるとは限らない。
だから、指導者側には良い面を引き出す努力が必要なのだ。
そもそも悪い面のみを指摘するというのは指導する相手と敵対する関係に近づくのだから。

まあ、馴れ合いでは意味がないのだがマスコミと政治の関係も似ている。
悪い点を指摘ばかりされるケースもあれば、過度の期待のみが喧伝されることもある。
どちらも、良い面を適切に伸ばすと言うには合致しない。
チェック、指導と言うには全く足りていない。

「人の良いところを伸ばすためには、良い点を良いと認められるだけの経験と知識と度量が必要だ。」