Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

金は別物だろうか

最近、日本では金価格の高騰もあって貴金属を売る人が多いらしい。
同じレベルの話ではないが、欧州の銀行はドルを得るために金の売却を進めている。
IMFも先日、世界経済は危機的状況を迎えていると指摘した。
欧州の金融機関の破綻の連鎖を防ぐためには、あらゆること(具体的には政府による資本注入しかない)を行わなければならないと言っている。
結果的には、欧州の政府も金などを売って資本を用意する可能性は低くない。

現状の金価格は、パニック的な上昇の反動から一時的な下落を迎えたものの、いまだ上昇の力を失ったという状況には至っていない。他方、銅や銀は相当の下落を生じている。世界的な経済の失速が懸念されていることによる。
ただ、金は他のコモディティとは異なる。銀や銅と同じような動きにはなっていない。少なくとも市場には金は異なると言った認識があるようだ。本当にそうなのだろうか?

金は、かつての金本位制の時代には貨幣の代替物として絶対的な価値を有していた。
今は実質的に国家の信用がそれを代替しているが、それでも名残があって経済危機になれば金が買われる。一部には金本位制に戻そうなどと言う過激な発言もあるようだ。
それは金の価値が不動であるのに対して、貨幣の価値(≒国家の信用)が変動するからだ。
貨幣の価値が下がると見れば、資産を貨幣から金に移して資産維持を図ろうという行動である。
貨幣は増刷できるが、金は容易には増やせない。そして希少価値が高い。
だから、貨幣より安定的である。
一方で金は利息を生まない。だから、現金投資と比べてうまみは低く経済が活況な時期には買われない。

現状、金価格は1オンス1900ドル付近から下落して1600ドル付近をうろついている。
下がったとは言え他のコモディティのような下落を見せてないのは、欧州の銀行が売却してもアジアからの旺盛な買いが入っているという噂もある。その中心は中国とインドであるが、この価格が再び上昇しはじめるかはわからないものの、彼らが買う理由はあくまで経済が危機だからである。貨幣よりも金と考えているのだ。
だから、危機が続き大きくなればその不安心理も伴って金価格は上昇するという訳だ。
しかし、それは落ち着けば下がる。

上記の金購入の論理は貨幣に対する信任の失墜である。
少なくともインフレが進行している地域では、金の価値は今後も増えていくだろう。
ただ、金は現物のみが取引されているわけではない。
ETFなどを通じて投資資産として現物とは別に売買されており、実を言えばその割合は非常に高い。
イメージとしては原油先物取引と近い。
上がるから買うというシステムである。

さて、では世界の金融危機が続いた場合に金の価格は今以上に上昇するのか?
これについては正直なところ怪しいと思っている。
金融危機の継続拡大は、世界的な不況招き寄せる。
だから、一時投機マネーの流入で上昇してきたコモディティー(資源)価格は大きく落ち込んだ。
それは、世界の消費が減退するであろうという予想によっている。すなわち、そこには中国の成長の停滞も含まれているであろう。もともと、BRICSの成長が世界を牽引すると言うことで、リーマンショック後の危機を乗り越えてきた経緯がある。
だから、当時はコモディティ価格は大きく上昇していた。

金の価値が上昇するのは、お金の価値が減退することに関係している。
すなわち、お金がばらまかれ続けるということである。
それは、実を言えば現在も進行している。ただ、そのペースと金価格の上昇ペースを比較すれば明らかに金価格の上昇の方が激しい。すなわち、金は行き過ぎているのだ。
金は工業製品としても確かに用いられる。しかし、大部分は資産品としての取り扱いであろう。
だから、金価格が上昇するのはお金の乱造=世界的なインフレとの関連がなくてはならない。

現在、確かに新興国ではインフレがそろそろ深刻な状況になりかかっている。
一部欧州の国々でもその傾向は散見される。
しかし、日本やアメリカ、あるいはドイツなどではデフレに苦しんでいたり、デフレになることをいかに避けるという努力が続けられている。
だとすれば、中国やインドが金を買う気持ちはわからなくはないものの、世界的には彼らが考えるほどには金は上がらないのだと感じている。

それを裏打ちする出来事は、金鉱山を保有する企業の株価に現れている。金価格が今後も上昇を続けるのであればこうした企業の株価も上昇してもおかしくはない。ところが現実にはこれらの企業の株価も低迷したままなのである。
おそらく現状の金価格はやはり投機マネーによる上昇が大きい。
もちろん、社会不安は金価格の再度の上昇を引き起こすこともあるだろうが、それが無制限に金の価格を上昇させるとは考えにくいと思う。

「金は他の資源と別物だが、逆の動きをするわけではない。」