Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

追い込まれる中国、自滅するアメリカ

 アメリカで広がる暴動は若干沈静化したようにも見えるが、平和的なデモ自体は欧州にまで波及するような勢いとなっている(全米各地でデモ暴徒化 欧州にも“飛び火”|日テレNEWS24)。ANTIFAの問題などについては、既にいろいろな人が書いているのでそれを参照していただきたいが、こうした短時間での暴動の広がりには何らかの裏(扇動者)がある可能性は高い(アメリカでのデモと暴動の真実とは | NEXT MEDIA "Japan In-depth"[ジャパン・インデプス])。丁度コロナによる不安や鬱憤が溜まっていたところに見事に火が付いた結果ではあるが、いずれにしても抗議(デモ)は容認できても暴動は容認されるべきものではない。

 一方で、トランプ大統領の対応に非難が相次いでいる(米政権のデモ弾圧を見た西欧諸国は、今度こそアメリカに対する幻想を捨てた | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)。特に、州兵ではなく軍隊を治安維持に利用することを示唆した言動には、マティス元国防長官も大きな怒りを見せている(マティス前米国防長官、2年間の沈黙破りトランプ批判「国の分断図る」 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)。株価上昇+失業者減少というトラプマジックは、少なくともコロナ騒動が登場するまでは成功していた。その成功は、人々の政治に対する不満をかなり減少させていたと言ってよい。加えて敵を作ることで、自らのイメージ作りをするトランプ大統領の手法に潜む矛盾も誤魔化され続けていた。私自身、トランプ大統領は2年ほどで自らの行動によりボロを出すと当初予想していたが、実際には余裕でその時期を乗り越えてきたので、良いチームを持っていることやそれなりの慧眼があることについては評価するほうが良いと感じるようにもなっていた。

 従来の政治は、思想や考え方は違っても同じ民主主義であることを理由に、何等かの協調する姿勢を見せていくものであったが、ショーマンシーの際立ちすぎるトランプ大統領は、相手を打ちのめす(ディールにより追い詰める)姿を見せることで人気を出すことに終始した。むしろ、その被害を大きく受けずに済んだのは日本とロシアかもしれない。だが、結果責任の正解が政治であるとは言え、全ての判断で成功を続けるのは不可能に近い。失敗時にその悪影響を緩和するのが敵対勢力を減らす環境づくりの効果であるが、偏った方向性を押し通した結果大きな火を浴びている状況と言えようか。

 トランプとしては、このミスを挽回するにはより大きな敵対勢力を掲げるしかない。暴動の裏に中国やロシアの存在があるかどうかは正直何とも言えない(いてもおかしくはないが、証拠を起こすようなへまはすまい)が、それをでっちあげても極論に走る可能性はあると思う。狂乱相場により株式市場はコロナ以前に戻り(NY市場 株価大幅上昇 ナスダック株価指数は一時最高値更新 | NHKニュース)、数字のマジックかミスかはわからないがロックダウンの最中に失業率が改善したらしい(アメリカ失業率13.3% 前月より改善も依然 厳しい状況 | NHKニュース)。個人的な感想としては無茶苦茶な状況が眼前で繰り広げられている(世界経済は今年マイナス5.2%成長に、戦後最悪の落ち込み-世銀 - Bloomberg)が、これも人々の欲望が為せる業なのだなと正直感心している。現時点で株式投資していない私は予想が外れただけだが、信用売りにより大きな損失を出した人も少なくないだろう。普通に考えればここまで株価が上昇するとは考えにくい。元々、容易に株価は回復しないだろうと想定していたこともあり、株式投資するとすれば一定期間の低迷期を脱してからのつもりであった。今判断するとしても、この狂乱相場が終わってからになろう。激しい波乗りは、大儲けのチャンスでもあるが、大きなダメージを受ける危険性もある。ただ、今回の狂ったような釣り上げ相場(米株高見込む投機、「驚くべき」水準に急増-ネガティブな兆しと分析 - Bloomberg)により、落ち着いて投資できるスタートがかなり先に行きそうな気がしている。

 

 一方で香港をめぐる米中(英国も加わるが)の対立は、妥協が成立しないところにまで広がっている感がある。ただ、私が見る限り最も弱腰な(交渉したがっている)のがトランプ大統領というのは何とも面白い構図ではある。もっとも、先ほども書いたように今後はその姿勢を変えざるをえなくなる可能性もある。欧州の一部が揺らいだり、中国からの嫌がらせにより波風は立つだろうが、全体としては中国包囲網は今も着々と進展している(「中国を包囲しよう」…米国など8か国の国会議員同盟が結成│韓国政治・外交│wowKora(ワウコリア))。韓国のように踏み絵を踏まされる国も増えるのではないか(米国務省「韓国は米中間でどちらにつくのかは、既に選択済み」│韓国政治・外交│wowKora(ワウコリア))。

 中国はこれまで共産党による独裁体制を維持したまま、西側諸国の作り上げた資本主義のおいしいところだけを吸い上げることができた。それは、中国を大きな市場と見なしてきたアメリカの意向が最大の原因であるが、メリットよりもデメリットが勝ち始めてようやく流れに変化が見える。中国は、WHOその他で組織活動への支出ではなく個人にリベート等を渡すことで、都合の良いように誘導させるという方法を使う。ハニートラップもその手段の一つであり、アメリカでも日本でも未だ多くのシンパを構成している。パンダハガーと呼ばれるこうした人たちは、中国が発展する段階では利益を自国に誘導できる貴重なパイプ役であったこともあるが、中国がこれまでのルールを壟断し始めると一気に社会的な障害とみなされ始める。既に身の危険を感じて手を切り始めた人が多いのではないかと予想する。

 だが、アメリカが進めている中国外しの世界秩序構築を最も恐れているのは中国であろう。弱さを見せると内部から崩壊しかねない中国の体制は、強固であるように見えて脆い存在であると私は見る。脆いからこそ、必死に締付をしなければならない。外国にも恫喝を続けなければならない。中国が強気の発言を続ける時には、その裏側で厳しい状況があると考えた方が良いだろう。余裕があるときには、その態度で接してくるものである。もちろん、日本に対しては甘言や秋波によるアプローチも見られるが、今後も飴と鞭で接してくるだろう。アメリカが進める包囲網を崩したくて仕方がないようである。

 中国の景気は相当悪い(ビジネス特集 新型コロナ 中国GDP初のマイナス 景気V字回復は難しい? | NHKニュース)という情報(コロナ後の中国の内情が日本に暗示する、景気回復への険しい道のり | DOL特別レポート | ダイヤモンド・オンライン)があちらこちらから聞こえてくるが、民主主義国家と異なり弾圧により押さえ込める国であるため、なかなかその実態がつかみにくい。ただ、今後も貿易は容易に回復しないだろうし、中国包囲網は徐々にかつ継続的に進められると見ている。中国が反発しようがこの効果は相当に大きい。さらに言えば、金融がアメリカに牛耳られているため、国家同士の争いというよりは、大統領選などの個人レベルの争いに持ち込むしかないというのが実際ではないかと思う。ただ、それが一時的に功を奏したとしても、明るい未来が見えるとは思えない。

 

 こうした状況を見るにつけ、米中戦争・米中の覇権争いは、共倒れの様相を示し始めているようにも思う。アメリカの衰退も、トランプ大統領の個人的なそれよりは国家の分断が予想以上に進みすぎていることに起因しているし、中国のそれも構造的な疲弊により進行していると見る。どちらも、短期的には強引に建て直せても中長期的には容易に回復できない状況があるのではないか。それは、大きな力による世界秩序が瓦解していく序章にもなる。長いものに巻かれて生き延びてきた日本の戦略は、まさに岐路に立ちつつあると言ってよいだろう。