Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

細部を目的化する愚行

 PCR検査をもっと増やした方が良いと主張する人が少なくない(新型コロナ、上昌広医師の「PCR検査拡大」主張が物議…「医療崩壊を招く恐れ」玉川徹氏 韓国のPCR検査能力1日5000件に「日本の医療態勢が韓国以下のわけが…やってないだけ」:スポニチ)。ソフトバンク孫正義氏も、その流れに乗って100万人分の検査キット提供をつぶやいたが、説得されて取りやめたようだ(孫正義氏「評判悪いからやめようかな」…PCR検査「無償提供を」2時間後に撤回 : 経済 : ニュース : 読売新聞オンライン)。影響力の大きな人だけに、思いとどまってくれたことにほっとしている。また、ワイドショーの司会をしている極楽とんぼの加藤氏も、むやみやたらの検査には害の方が大きいことを認識した(加藤浩次、孫正義氏のツイッターに「これまでの僕の考え方もすごく間違っていた」と言及 | ENCOUNT)ようである。一度言ってしまったことをメンツのために覆せない人よりもずっと良い態度だと思う。

 

 さて、検査をすること自体には確かに問題はない。検査をすることで、感染者数の概数をつかむことも可能だし、国民が検査を受けることによる安心感を得られるというメリットもある。だが、検査をすることにはそれ以上の大きな利得はない(小さなものなら上げられるが:新型コロナ、PCR検査抑制は日本政府の英断か…徹底的な検査で医療崩壊したイタリアと韓国)。現時点では、対処療法しかないために仮に感染が確認できても何も対処のしようがないのである。もちろん、一部で死後に感染が確認されているケースが見つかっており、大規模な検査を行えばそうした人を救えてかもしれない。だが、その数は一桁に過ぎない。全体から見れば特異例としてみなせるレベルである。感染者数も死亡者数から類推することは可能である。精度は全数検査よりは落ちるが、他国との比較で一定の類推はできるだろう。

 また、韓国やドイツのようなドライブスルー検査(「早くて簡単!」新型コロナのドライブスルー検査、ドイツなど各国に登場 写真12枚 国際ニュース:AFPBB News)を行えばよいという意見もある(医療スタッフを守る! シアトルに5分ごとに新型コロナウイルスの検査ができるドライブスルーの検査施設が誕生 | Business Insider Japan)。だが、感染者の大部分が都会に集中している状況で、このドライブスルー検査が日本において可能なのだろうかについては少し考えてしまう。やってはいけないというつもりはないが、それのみをもってこの問題が解決するかは疑問だ。日本政府も、既にその有効性については検討を進めているだろう(3/15追記:厚生労働省の見解:厚生労働省 on Twitter: "【#新型コロナウイルス「ドライブスルー方式」のPCR検査を実施しない理由について】「ドライブスルー方式」のPCR検査が、いくつかの報道で紹介されています。(1/5)")。場合によっては、地方都市においては今後導入されることもあろう。

 また、PCR検査は現時点で正しく陽性を見つける確率が70%程度ではないかと考えられている。正確な数字はわからないが、30%の患者が偽陰性として見逃されるカウントになる(3/15追記:詳細な解説をしているサイトがあったので紹介:新型コロナ|テレビ医師の虚言を暴く2 | 神宮外苑ミネルバクリニック)。すなわち、感染を確定できるだけの完ぺきな検査ではない(だからこそ、複数回の検査が求められる)。ちなみに、PCR検査については現段階では確認に6時間程度は必要とされるし、本当の意味でチェックをしようとすれば時間をおいて複数回の確認が求められる。さらに言えば、検査をする人にも感染する危険性があることを忘れてはならない。それを乱発することで検査に関する医療リソースを棄損するのも問題である。

 

 この感染症が、致死率のもっと低いものであれば検査をしていくこともやぶさかではないだろう。だが、日本でも現時点では1~2%の致死率と考えられている。今求められる最大の結果は、この感染症により死ぬ人を少しでも少なくすることである。感染の状況を正確に把握することよりも、それが優先する。

 韓国でもイタリアでも、検査のために人が集まったことで感染の拡大が生じたのはほぼ間違いがない(イタリア、医療現場混乱で感染急増か 全土で移動制限 (写真=AP) :日本経済新聞)。また、韓国ではすでに日本を見習い重症者のみを検査する方向にシフト(韓国保健当局、検診の優先順位を大邱新天地から高リスク群の市民に変更 : 政治•社会 : hankyoreh japan)している。ここ数日、韓国の感染者数が大きく減少したのは、感染が収まったからではなく、検査方法を変更したからに過ぎない。多くの検査を主張する人たちは、莫大な量の検査を実際どのように行うのかという部分には決して触れていない。だからこそ、ここにきて取ってつけたようにドライブスルー検査を言い出している(都合がよかったのだろう)。逆に言えば、それ以前に主張すべき論理的な方法論を持っていなかったということである。

 あと、孫氏が検討した自分で検査して郵送する仕組みについては、それを運搬してくれるところはないであろうことを付け加えておく。黙って送付して、仮に何らかの不備により感染が広がってはまずいのである。

 

 さて、この問題は今回のミッションの最大の目的は何かということ。それは感染により死亡する人を少しでも減らすことである。感染のみにフォーカスすれば、理想は中国のような都市封鎖だが、民主主義社会では経済を無視できない。そのバランスの中で丁度良い方法論を常に探し続けている。人によりどのポイントにフォーカスするか(高いウエイトを置くか)により考え方は異なるが、それを責任を負って決断していくのが政治である。失敗すれば選挙によって拒絶されるのだから。

 詳細な検査結果がノーリスク、ロータスクで得られるのであれば、日本政府も既に取り入れている。だが、検査希望者が一か所に集まれば感染拡大の可能性が高まる。一か所に集めずに大量の感染者の検査をどうするか。そのために投入するリソースをどう配分するか。検査対象者の安全性を如何に担保するか。考えなければならない問題は非常に多い。その中で、細部である感染者数調査のみを完璧に行っても、全体の目的達成を同時に目指せるかを考えることとなる。

 

 検査主義者は、検査をしても症状のない人や軽い人は自宅で安静にしてもらえれば良いという。そのとおりだが、まずは検査のために人が集中する状態(特に都会の場合)をどのように解消するか、次に陽性となった人に自宅待機をお願いして聞いてくれるのか。この二つの問いに答えているのだろうか。それは強制してもよいのだろうか。

 確かにドライブスルー検査は一つの解決策ではあるかもしれないが、全てを解決する仕組みではない。細部を見た時に正解であっても、全体を見渡した時に正解とは限らないことはいくらででもある。細部においては間違いなく正解のため、それを主張しようとするひとは少なくないが、それが全体の最適解となるとは限らないことを知っておくべきだろう。もちろん全体の最適解がどこにあるかは容易に分からない。だからこそ、根拠を出せない政治的判断が求められるのである(YOSHIKI×山中教授 新型コロナ正しく冷静に(日刊スポーツ) - Yahoo!ニュース)。

 

 ちなみに、メディアに出て広範な検査を主張する人たちは、基本的に現場にはいない(必要とされていない)人たちである。現場にいないということは、専門家ではないか専門家として必要とされていないか。そして、自分の名を売るためにTV出演するか、あるいは名を売ることが別のビジネスにつながるのか。だからこそ、一度言い出したことは意地でも訂正できないでいる。さらには自己正当化のごとく匿名告発などの怪しい手を打ってくる(Vol.049 COVID19感染症 翻弄される地域中核病院 | MRIC by 医療ガバナンス学会上昌広 - Wikipedia)。その真実はわからないが、全ての病院が本当に検査を拒絶されているとは思えない。不安を煽る自分勝手な声(上 昌広 on Twitter: "知人の政府関係者から。)と現場に近い場所にいる人たちの声(今日から新型コロナPCR検査が保険適用に PCRの限界を知っておこう(忽那賢志) - 個人 - Yahoo!ニュース)のどちらの声を信じるべきか。答えはおのずと出ているように思う。

 子宮頸がん(子宮頸がん予防ワクチンQ&A|厚生労働省)での騒動(HPVワクチン騒動にみる反科学主義 | ハフポスト)でもあったように、部分的な正義(正しさ)をもって一度自分たちの態度を定めてしまうと、嘘でも科学的ではなくとも主張を延々と繰り返す人たちがいる(Vol.109「子宮頸がんワクチン訴訟」で明らかになった「情報」と「制度」の不足 | MRIC by 医療ガバナンス学会)。そのメンバーが、今回も同じように勝手な主張を繰り返している。しかも、そんな人たちも一応は医師等の専門家なのであるが、自己顕示欲はほどほどにしておいてもらえればと思うのは私だけではないと思うのだが。

 

(追記:3/13 7:30)そろそろ今晩あたりが株価に関する一旦のセリングクライマックスの予感。場合により、アメリカ政府が動いて一気に踏み上げもあるかも。予想以上にパニック売りが大きくて少し驚いているが、大体は想定の範囲の動き。ただ、実体経済が一気に悪くなるのは間違いない事実。それは金融政策では防げない。今後、ジャンク債や不動産に飛び火して、その影響が出たあとが次の下げ。という、毎度当たらない妄想でした。