Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

芸能人バブルは崩壊するか

 テレビの視聴率が低迷を始めているのは既に多くのメディアが取り上げてきた。一部の根強いコンテンツはあるものの、全体としてテレビを視聴する人口が減少していたとすれば、コマーシャルにより番組を制作している現在の民放スタイルは徐々に崩れていくであろう(http://biz-journal.jp/2015/07/post_10920.html)。
 音楽ジャンルでも、CDの売り上げが大きく落ちたことでミュージシャンの収入は激減したが、同じことがテレビを活躍の舞台とする芸能人において生じないという保証はどこにもない。テレビ局の番組編成予算縮小に伴い、大物芸能人たちのギャラが少しずつ下がっていることや、ギャラが安い人を使う傾向が増え始めていることも話に出ている。今は、制作費用の抑制により賄っているが今後はギャラの抑制が今どころではないレベルで本格的に始まるのではないだろうか。
 そもそも、半分素人のように見える文化人枠がバラエティにも増えているが、これもギャラ抑制対策の一つではないかと思う。ひな壇番組が増えるほどに多くの人を呼ばなければならないが、ギャラの安い若手お笑い芸人ばかりを集めても面白味に欠けるということもあるろう。もちろん、文化人の保有する知識を利用するという面もあるだろうが、少し面白い知識人を活用することで回しているのだろう。

 一方で、良いコンテンツ(例えばドラマ)があれば高い視聴率を稼ぐケースは存在し、そのことは多くの場所で触れられている。NHKでは大河ドラマの低調さに比べ朝の連続ドラマは数作続けて高く安定した視聴率を稼いでいたりするが、中身が良ければまだ人を惹き付けることはできるという証拠でもある。
 ただ、平均してテレビを見る人が減少しているのは各種統計調査からも明かであり、これを余裕を持って回避したければテレビを見る人を増やさなければならないと言うことになる。ギャンブルを当て続けることは不可能であり、平均値を上げ続けることでしか苦境を脱することはできない。しかも、ターゲットとなるべきは特に若い世代に対してである。
 そもそも、これまでの芸能界の発展は人々の心理を誘導して成し遂げてきたものではない。国民の期待を汲み取りテレビと共に寄り添うことで獲得してきたものである。AKBを良いシステムとは思わないが、あれが一定の成功を収めているのであれば(搾取システムの下であっても)それは現代社会にある一部コア層の要求に寄り添ったものであるのは間違いない。
 逆にテレビ側のルールに人を合わせようとしても、短期的にはできても長期的には離反を招くだけである。一時期「嫌なら見なければよい」的な芸能人の発言が話題になったこともあるが、本心が何処にあるものかは別としても見ていただく存在だと言う感覚が薄れているのかも知れないと感じる。
 芸能人の成功が、個人的なライブや活動から来る観客やファンから直接得る方法は最初のきっかけであり、話題になってテレビ局等に出演することでギャラとして得て大きな収入を得るのであれば、さもあらんといったところであろうか。別にそのこと自体を否定するつもりはない。芸能人としての成功がそこにあるのだから。

 スポーツの世界でも同じように感じるのだが、芸能界でも成功者が得ている平均的な収入は一部のトップを除き今後かなり減少していくだろうと感じている。昔のアイドルがサラリーマンなどと比較してどれだけ稼いでいたかは詳しく知らないが、過去から成功した芸能人の収入は高いという認識はあった。ただ、それは同時に食えない芸能人がヤマほど存在すると言うことの裏返しでもある(同じことは漫画家でも小説家でも言える)。それでもテレビの隆盛と共に芸能界が拡大したとすれば、その衰退と共に沈むのは当たり前ではないかと思う。小説の世界でも作者の増加が増えており、アイドルは地元アイドルが増えている。地域密着と言えば聞こえは良いが、それほど儲からない仕事となりつつあるということだろう。
 現代はネットの広がりにより誰でも自らの表現を発信する手段を得た。発信手段はあってもそれをビジネスにするためには専門家が必要で、それ故に芸能界やテレビ業界が無くなることはない。安定的に稼がせるためには偶像化する事も必須である。だから今の体制が根本から変わるとは思わないが、それでも市場の巨大化はどこかで頭を打つ。要するに需要に対して供給過剰なのだ。
 芸能人やスポーツ選手が大きく稼げる理由は、その成績ではなく発信力にある。強い発信力を有する人は今後も高いギャランティを得ることができるだろうが、それ以外のギャラは今よりも低下していく。それは、普通の発信者が既に山ほど増加しているからである。ユーチューバーも新しい発信者としての地位を一部で獲得したが、これも芸能人たちの領域を侵している。今後も別の形で多くのこれまでと違う発信が出てくるであろう。それらは全て、現在の予定調和的なテレビからの情報発信を浸食していくのである。

 今でも若手芸人の貧乏生活はネタとしてよく放送される。一部の成功者のみが高い報酬を得るという形は昔も今後も変わるわけでは無い。強いて言えば、社会における中流が消えて行ったように陣笠芸人が少なくなっていくという姿を予想している。
 繰り返しになる部分もあるが、理由は表現の多様かと発信の自由化による供給過剰と、それを購買に結び付ける層の人口減少であろうと思う。予定調和の番組作りは、あと10年から15年後には今よりずっと減っていることになるだろう。