Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

芸能界と犯罪と復帰

 女優の沢尻エリカさんが、薬物保持により逮捕された(沢尻エリカ容疑者「10年以上前から大麻など使用」反省の言葉も | NHKニュース)。その直前には田代まさしさんが、これまた薬物の再使用により通算で7回目の逮捕をされている(7回目の逮捕・田代まさし 一番辛かったことは「家族との別れ」 | 文春オンライン)。また、薬物問題ではないがお笑い芸人チュートリアルの徳井義実さんが税金等の不払いにより活動自粛に追い込まれた(チュートリアル徳井さん 当面活動自粛 申告漏れで | NHKニュース)。

 基本的に芸能界は興行と結びついており、ルールがアバウトな世界である。かつて現在では考えられないほどの状況があり、近年大きく改善しているとは言えど一般社会から比べれば今でも締め付けは緩い。特に、大きなお金が動く業界であるからこそ、それに引きよされてくる有象無象が少なくない。今回は、薬物問題を含めて一旦活動停止に追い込まれた人の、復帰問題について考えてみたい。

 

 まず、私個人としては失敗した人がきちんと更生できる社会であることは大前提だと考えている。芸能界に復帰するのとが最善かどうかはわからないが、死刑や無期懲役に値するような大きな罪を犯さない限りにおいて、再び生きていくことを難しくしてはいけない。だから、社会復帰は間違いなく認められるべきである。まあ、そのことを否定する人はいないだろう。

 だが、芸能界復帰となるといくつかの意見が存在する。一つには、きちんと罪を償えば芸能界に、例えば女優として復帰してもよいと考えるもの。もう一つは、社会的影響が大きな地位にいる人だからこそ、罪を犯した当初から復帰の話が出るのはおかしいという考え方(ホリエモン、沢尻エリカ容疑者の復帰問題に持論「一発アウトとかおかしいでしょ普通笑」 : スポーツ報知太田光、沢尻容疑者の芸能界復帰を反対する声に疑問 - 事件・事故 - 芸能 : 日刊スポーツ)。

 杉村太蔵氏の意見に端を発し、交わされた議論であるが、そもそも問題点が芸能界復帰の有り無しと言う二極で語られていることがおかしい。芸能界復帰はあるが、今と同じようなポジションには容易に戻れないというのが正しく、それ故に薬物には十分な注意を払わなければならないということを公表することになる。

 

 薬物問題では、酒井法子さん(酒井法子 - Wikipedia)が大きなニュースを巻き起こした。彼女の状況を見る限り、元のポジションに戻れたとはとてもではないが言えないだろう。一方で、歌手の槇原敬之さん(槇原敬之 - Wikipedia)も同じような事件を起こしながら、ほぼ元の状況に近い位置に復帰できている。この違いはいったい何なのだということだが、それは芸能人としての立ち位置が異なることにある。

 かつて興行と呼ばれていた時代の芸能人は、舞台や巡業その他、客(ファン)から直接的に金銭を得る方法でお金をつかんでいた。テレビの台頭により状況は徐々に変化していったが、それでも興行時代の流れを汲んでいた期間は長い。個人の能力を評価してもらい、それにより金銭を得るという仕組みがそこにあった。そのためにはスターは少数でなければならなかった。

 

 だが、テレビ業界としてもそれでは権益の拡大を図れない。もちろん芸能界(芸能人やそれを扱う事務所)側としても多くの芸能人の数を増やすことが、個人としての成功の可能性を広げ組織としても大きな利益を上げられる。そして、日本経済の発展は企業に対してアイコンとして芸能人を使う体制を生み出した。

 要するに、芸能人は自らを支持するファンから直接的に利益を得る形から、企業の広告塔として企業を介して大きな収入を得るようになっていった。大きな資金を有する企業の参入は、芸能界を拡大させた。もちろん、発信媒体であるテレビやマネジメントをする芸能事務所も含めて。結果として、数多くの芸能人が大きな報酬を得ることができる体制が構築された。

 超有名人ではなくとも、そこそこテレビに出る芸能人ならサラリーマンがうらやむような収入を得ることができる。将来の保証がないのだから当たり前という意見もあるだろうが、個人の能力からすれば過大な報酬を得ていると私は考えている。しかし、それは様々な放送・芸能コングロマリットにより維持されてきたのがここまでの状況。

 

 すなわち、一度退場した芸能人は広告塔としての役割を果たしづらくなるため、同様のポジションに復帰するのは容易ではなくなるということである。だが、歌手や出の津芸能関係の芸能人など、広告塔の役割ではない芸能人については、その能力がファンからの収入を引き寄せる限りにおいて復帰することは容易である。

 私は、その復帰の道が残されていることで十分ではないかと思う。ただ、ブームや雰囲気でのし上がった人には復帰は難しいだろう。沢尻エリカさんの場合には、罪を償った後の話ではあるが、テレビドラマは難しくとも映画女優としての復帰の道はあってもおかしくはない。もちろん、すぐに主演という訳ではないだろうが、高い演技力を基に自らのポジションを築いていくことはできるだろう。

 

 ただ、広告塔としての位置づけを再び得ることは非常に難しい。それはすなわち、芸能人としての稼ぐ力の凋落である。さて、薬物に手を出すことにそれだけのメリットがあるのか。少なくともこの点だけは、報道してほしいと思うのだ。