Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

駐韓アメリカ大使事件から見えること

 まずは大けがをされたリッパート氏の早期の回復をお祈りしたい。

 すでに多くの人が触れていることではあるが、繰り返しとなるものの日韓関係を考える上で非常に重要なことだと個人的には思うのでこの問題に触れておきたい。
 犯人であるキム・ギジョンが事件を起こすという思考に至った明確な理由を挙げることは難しいだろうが、少なくとも発端はシャーマン米国務次官の発言にあることは間違いないだろう。犯人が親北思考を有することから韓国政府はこうした主義者の犯行で韓国全体の問題ではなく、一部の特別な存在の問題であることで決着させたい考えだろうがなかなか前途は多難である。
 アメリカは公式に(建前上)は今までと変わりないという態度を取るであろうが、国民の抱く感情がそれでコントロールできるはずもない。正直言えば個別の犯罪に興味がある訳ではなく、その反応から見えてくることに興味を抱いている。

 では、きっかけを作ったシャーマン米国務次官の発言に関する報道を振り返ってみよう(http://www.yomiuri.co.jp/world/20150302-OYT1T50131.htmlより一部抜粋)。

シャーマン氏は2月27日、ワシントンでの演説で「国家主義者的な感情につけこみ、政治家たちが、かつての敵をけなして安っぽい拍手を浴びるのは難しいことではない。だが、そのような挑発はマヒを引き起こし、先に進むことはない」と指摘した。

 既に報じられていることではあるが、シャーマン氏は特定の国家を名指ししている訳ではなく、一般論を述べているという建前上の説明は兎も角、これまでアメリカは国務省が中国や韓国寄りで国防総省が日本寄りというイメージがあった状況を、国務省も内心は中国や韓国を疎んじ始めていると想像させる内容であることは間違いないだろう(当然、公式には否定している)。
 韓国メディアは側材のこの発言を取り上げてヒステリックな報道に明け暮れた(http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20150305/frn1503050830002-n1.htm)。その中でこの事件が生じたため、政府が必死に関係性を否定したとしてもそれを信じる人は少ないであろう。

 国家は容易には本音を語らない。特に日本が影響力を増すことに必ずしも肯定的ではないアメリカ(しかも民主党政権)においてこれだけの意思表示が為されたのであるから、韓国が大きく反応するのは理解できるのだ、そのあまりに正直な反応は置かれている苦境を見事に言い表している。
 バランス外交を標榜してきた韓国ではあるが、キャスティングボートを握るためには地域の不安定さが必須であった。北朝鮮問題が世界的な話題でなくなりつつあることが、彼らの政治的な地位の不安定さを助長しているのかも知れない。
 経済においては実質的にほぼ中国圏に飲み込まれつつあるのはほぼ間違いないが、私はそれ以上に国際政治的な価値が低下していることが苛立ちの原因と言えるのではないかと考えている。彼らの戦略とも言い切れない戦略は、非常に似た産業構造と文化を有する日本を追い落として自らの地位を確立することである。国家の力が非常に弱かった時代には、その日本から援助を受ける形で成長に基盤を築き上げてきた。
 ある意味日本に寄りかかっていたため、露骨に日本を卑下することは市井では行われていても政治的にはできるものではなかった。特に行動成長期後の日本は一時期世界を席巻する勢いであったから、その判断はおかしくなかったであろう。政治的ゲームとして手札(歴史問題)を揃える手法は、こうした時期に確立されてきた。

 他方、日本側も余力があった(+韓国の国力が低かった)からこそ援助の手をさしのべてきた。この構図は戦後のアメリカが日本に行ってきたスタイルと何も変わらない。違うとすれば、韓国は反日を国是としていると言うことである。
 この事を言えば「違う」という意見は良く出てくるが、それがあまりに普通のことであるから”わざわざ意識して”反日しているわけではないというのが実情ではないかと思う。彼らにとっての日常が、日本人が感じる反日なのだ。
 しかし、ここで触れておきたいのは日本側が当然として行っている行動が、彼らの価値判断からすれば韓国を挑発していると感じる面もあると言うことは覚えておく必要がある。これは日本側の行動に誤りがあると言うことではない。先ほども書いたように反日が常識であるとすれば、少なくとも韓国が考える常識は日本のそれとは異なっている。異なった価値判断基準を持つのだから、同じ出来事に対しての認識の相違が生じるのは逆に当たり前のことだと考えるのが正しい。

 さて、よく「日本の国力が低下したから」あるいは「日本が自信を喪失したから」嫌韓という行動が生まれているという意見を聞くが、ある面においてこれは正しい認識だと言える。ただし、これは日本が力を失って三流国に落ちぶれていくという不安が基になっているのではない。
 日本は分相応の自己認識をし始めたと考えた方が良いだろう。高度成長期の成功体験からバブル崩壊の低迷期を経て等身大の自分を認識し始めているのではないだろうかと私は思う。ただ、日本の話はここでの主題ではない。
 一方で韓国は日本の高度成長期と同じように成功体験に浮かれている状況にある(ただし、日本ほどの成功を掴めていないというのも真実である)。現実には財閥頼みの経済戦略であって国民の幸福には必ずしも繋がっていないものの、社会の歪みを抱えつつも国民一人当たりの所得は間違いなく向上しているし、経済の成長率は少なくともこれまでは高かった(先進国をキャッチアップするモデルとしては優秀な方である)。
 しかし、その状況がこの後も続くことはない。よく「10年後には日本を追い抜く」という記事が韓国のメディアを賑わせるが、日本側では皮肉に「永遠の10年」と呼んだりもしている。私は随分前から韓国のバブル崩壊(むしろ発展途上モデルの終焉後)は日本以上の低迷期を迎えると言ってきた。その考えは今も全く変わらない。

 実は、低迷から抜け出す一つの処方箋が日本との協力にあると私は思うのだが、そのカードを自ら手放そうとしているのが現状だと思っている。成功体験は、冷静な判断を喪失させる劇薬だと痛感する。本来は、政治家こそ冷徹な判断をしなければならないところであるが、有効であったはずの日本に対する歴史問題カードも乱発によりむしろ効果を失い始めている。
 北朝鮮問題の影響縮小に変わり、韓国が日本との軋轢問題を自らの国際的地位保全のために利用しようとしたのかも知れないが、その際には韓国が被害を被る側でなければならない。残念ながら日本がヒステリックに主張しないで冷静でいることが、むしろ韓国の立場を危うくしている。
 それ故に、韓国での過激な反日運動はメディアで矮小化され、日本でのヘイト行動はむしろ過大に取り上げられる。ただ、これはあくまで民間レベルの問題であって政治が絡んでいるものではない。事態を逆転できるような質を有することではない。

 経済的には中国に依存しきっているために、そちらを後退させると国家の経営は成り立たなくなる。バランス外交と言えば聞こえはよいが、実のところ彼らの選択はあまり幅が広くなく集中投資が主体である。経済における財閥中心経営がその典型であるが、政治的にもアメリカと中国という2大国への集中接近がこれまでの基本方針である。
 ちなみに、日本は最初から実質的な敵(正確には「的」ではないかと私は思う)として位置づけられている。しかも、これは韓国の教育で刷り込んできたあまりに普通な常識であるため彼らは非常に無自覚である(無自覚性故に、日本でその考えを擁護する人が少なくない原因ともなっている)。国家や民族による認識の違いはある意味当然のものなので、この違いを埋めるために条約や各種法律関係の制度があるのだが、その重要性に関しても韓国は国家として非常に無自覚である。
 ところで無自覚性を無垢性と誤認する人が多いのは、日本ならではの文化なのだろうか。

 しかし、今回の事件で韓国世論がアメリカ国務次官の発言にすぐ反応したことから、日本に対する難癖が多くの(全てとは言わない)嘘を含んでいることに対しては少なくともまだ意識が残っているのだということが見て取れた。正直、朴政権になってからの言動は政治家すらがこれは戦術(とそれを用いた戦略)なのだと言うことを忘れているのではないかと疑わせるものが少なくなかったが、その程度は置いておいてもやましい部分があることを自覚しているという意味で面白い反応であった。
 もし、自らが積み重ねてきた嘘を自らが完全に信じ切っていたのであれば、あそこまで反応しないのではないかと私は思う(むしろ中国や日本のことだと認識するのではないだろうか)。

 戦術であったものが自らの戦略を縛ってしまっている例となりつつあるのが韓国の歴史問題論争であるが、この状況を中国がどのように見ているかに関しては正直興味がある。世界での韓国の日本ヘイト活動の裏側には中国の戦略があるのは既に多くに人に知られていることではあるが、使い捨てにされるとすればほの少しだけ韓国にも同情したくなる気持ちを感じてしまった。