Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

戦後レジューム改変競争

 中国が日中共同声明(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E6%94%BF%E5%BA%9C%E3%81%A8%E4%B8%AD%E8%8F%AF%E4%BA%BA%E6%B0%91%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD%E6%94%BF%E5%BA%9C%E3%81%AE%E5%85%B1%E5%90%8C%E5%A3%B0%E6%98%8E)を実質的に破棄しようと動いている。中国政府は建前上戦後保障と民間の問題は別だと言及しており、確かに法的にも微妙な内容であるのも事実である。ただ、こうした動きの意図を考えるとその先にあるものが朧気ではあるが見え、最初のジャブとして利用されているのはほぼ間違いない。
 もっとも、十分承知した上で商船三井は和解金を支払い差し押さえを回避したこと(http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140424/plc14042407060007-n1.htm)が既に報じられており、当面の対抗措置として日本政府は中国の行動に懸念を示している(http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140421/plc14042119000013-n1.htm)がこの程度で有効な対抗策とはとても言えない。要するに、打つ手がないという状態とも言える。
 商船三井の案件については、一企業としては和解金を支払うのも一定の目算を持った対応策だと思うが、これにより今後の様々な裁判が頻発し状況のエスカレートが見込まれるとすれば、日本全体として事後の対策を講じずに放置するという訳にはいくまい。
 知られているとおり中国の司法は共産党支配下にあり、これまで凍結してきた裁判を動かし始めた(というか、露骨に時効に至る期間を無制限にした:http://news830.com/archives/6416)ということは明確なメッセージを発しているのが明かなのだから。

 一方で、同じことは逆の意味として捉えることもできる。中国政府がこうした手立てを打ってくるのは、何も単純に反日を楽しみながら(あるいは権勢拡大のために)余裕ある状況で行っているというのではなく、日本を利用しなければ様々な矛盾を抑え込めないというジレンマを白状しているのにも等しい。もちろん、中国政府が苦しいからと言って嫌がらせを行うことを日本として許容できるものではないが、現状の認識や分析は必要である。
 こうした行為に至る理由は二つの面から言えるのだが、一つは中国政府自身が自国の景気が危ういという認識を持っていることであろう。そしてもう一つは、こうした経済的な失策の延長線上に存在する中国共産党政権基盤の揺らぎに対する恐れである。共産主義国家に自由経済を持ち込んだ訳であるから、いつの段階かで民主主義の声が高まるのは本来避けては通れなかった。独裁でありながら人民が納得できる政治は中国古来の理想でもある徳治政治であるが、現状のそれはとても徳を持って収めるという状況からは程遠い。
 ただ結果論で言えば、資本主義の一トップランナーでもあるアメリカと奇しくも社会状況が似ていると言うのは大いなる皮肉であろうか。アメリカンドリームを一つの理想として掲げるアメリカ社会ではあるが、宝くじのようにごく一部の恩恵に与れる人がいるのと同時に数千万人がフードスタンプを得て暮らす社会が現実にはある。

 富めるものは資産を囲い込むばかりでなく益々権益を拡大しそれを固定化させようとするし、逆に言えば貧しきものはよほどのチャンスでも掴まない限りそこから這い上がれない。一見、自由で努力をすれば逆転できそうな仕組みが社会には準備されているように見えるが、非常に狭いルートを除き実質的に上級社会への通行券を手に入れることはできない。
 政治体制や統治のスタイルこそ異なるが、中国における共産党幹部が利権を得て財産を蓄えていく状況、しかもその子息が役割を継いでいく状況と何処が異なるのであろうか。以前にも書いたことがあるが、私には政治体制や仕組みの違いは建前上大きいが、それにも関わらず実質的にアメリカと中国の状況は似ているように見えて仕方がない。もっとも、中国がそれを口にすることはあったとしてもアメリカが認めることは決してないであろう。

 こうした中国の動きに触発されて、韓国も同じような動きをはじめようとするだろう。以前より、日韓基本条約(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E3%81%A8%E5%A4%A7%E9%9F%93%E6%B0%91%E5%9B%BD%E3%81%A8%E3%81%AE%E9%96%93%E3%81%AE%E5%9F%BA%E6%9C%AC%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%9D%A1%E7%B4%84)の破棄という日本人から考えればあり得ない行為が、韓国内の一部では堂々と語られているようだ。
 この条約は、文面上韓国側の一切の請求権を放棄させている根拠とされるが、韓国側は個人請求権は残っているとしている(そう読める部分は非常に狭い)。日本が韓国側の個人請求に応じないから破棄という流れのようではあるが、日本も同じ条約で朝鮮半島内に残した莫大な資産を放棄している分も解消されると言われている。
 金額ベースでいけば、日本の放棄分の方が随分大きくなると算定されているが、これも算定根拠に意見の相違はあるかもしれない。ただ、そもそも韓国は戦争被害を受けた訳ではないので日本は賠償責任をどの程度有しているのかという意見すら存在する。どちらにしても一部の韓国人が考えるほどは甘い話ではあるまい。
 条約で「一切の」と規定されているにもかかわらず民間の補償は別だと主張する流れを強化しようとしている。所謂「従軍慰安婦」の問題も感情論を前面に押し出しているものの同じレトリックの線上にある。

 韓国が中国の尻馬に乗るのは、元々そう言った潜在的な欲求があったこともあろうが、それよりも中国と同じように国内状況が芳しくないことが挙げられる。随分昔から、韓国の反日が激しくなるのは韓国内の経済状況に不安がある時だと言われている。
 反日感情自体は潜在的保有しているであろうが、経済的な結びつき等を考えれば日本と喧嘩して得なことはそれほど多くない。むしろマイナスが大きいと考えるべきであろう。韓国も財界はそのことをよく理解しているようではあるが、マスコミと政治の両者が進める人気取りが理性的な判断を大きく歪めている。
 条約の破棄は、実質的な断交宣言(宣戦布告は言い過ぎだが対立状況)となるのでなかなか行うことは難しいが、その価値を都合がよいように歪めて解釈したり運用することは、今回の中国の行動を見ていると十分可能であることはわかる。
 昔から、中国や韓国は法治国家ならぬ「人治国家」と言われているが、リスクが高まるほどに企業の投資は減退していく。無論ビジネスチャンスとの天秤により投資判断は為されるであろうが、現在も日本企業は少しずつではあるが中国から脱出しつつある。もちろんそう簡単には逃がしてくれないだろう。それは、何も戦時中の商取引の瑕疵のみが手法ではないのだから。

 普段お客様は神様だとしても、モンスタークレーマーに常に付き合い続ける訳には行かない。取引(貿易関係)というのは小さなwin-win関係を積み重ねていくことだと思うのだが、それを自分の利益主体に迷惑をかけ続ければ信用は見えない程度の緩やかな速度で確実に失われていく。
 全てがレアアースの場合と同じ様に動く訳ではないが、長期的な視野に立てば短期的利益の追求は漁場の枯渇問題と何も変わらない。底引き網漁法により一網打尽にした後には、継続的な漁獲高は望めない。少なくとも現状、サステナブルな関係を重視していない(重視できない状況にある)と考えるのが妥当であろう。
 短期的視野に立つというのは、別におかしな話ではなく文化の違いによりそちらを重視する民族も存在する。日中、あるいは日韓の様々な心理的対立は、反日教育という現象面も理由として確かに存在するが、それ以前にものの認識や考え方という文化の相違による部分が非常に大きい。これは宗教的な差異に近く、お互いにそこには踏み込まないことでの共存は可能ではあるが、均質化することは短期間では決して成し遂げられない。

 さて、安倍総理は「戦後レジューム(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%A6%E5%BE%8C%E3%83%AC%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%A0)からの脱却」を旗印に政治を推し進めているのはよく知られている。この場合の「戦後レジューム」の意味は日本の制度などを含めた国家としての在り方だと思うが、その変化は同時に戦後の世界が積み上げてきた認識を一部変えるということにもつながる。
 世界の中で、安倍政権を批判する声(特定アジア三国は除く)はこうした共通認識の変化までは望まないという立場により占められているのではないかと感じている。良い悪いではなく現状維持を指向する状況である。
 一方で、日本国内の現政権支持率が比較的高いままで安定しているのは、多くの国民がこのままでは都合が悪いのではないかと感じていることもあろう。「このままでは・・・」というのは、最近クローズアップされている中国や韓国の日本に対する態度のみではない。
 一時期、世界を制覇するほどに増長した日本経済が見る影もないことがそこにはある。もちろん、バブルの影響により日本の力が嵩上げされていたという面はあるが、古き良き時代を追い求める心理的な期待感もそこには隠れていると私は思う。
 日本の世界的な地位が、本来的な潜在力や立ち位置からしてやや低いという面は私も感じるが、これもまた第二次世界大戦後の一定のフレームの中でその状況を変えよう(憲法改正その他)としなかった日本自体が生み出した結果とも言える。

 例えば、中国や韓国が今しきりに仕掛けているのも実は日本と同じように戦後レジュームからの脱皮である(ここではあえて脱却とは言わない)。彼らからすれば、遠い昔(あるいは成長した現在)に対応した国際的な地位あるいは権威を得たいという動きをしているのである。
 地位や権威は、建前上(長期的に)は地道な積み重ねにより獲得していくものではあるが、同時に現状の国際バランスで言えばゼロサムの関係にある。すなわち、どこかが没落すればどこかがそれに替わる地位や権威を獲得するというものである。
 中国はかつて大きかったことがある権勢を回復したい(するに相応しくなりつつある)と考え、韓国は成長した結果に応じた力を行使したい訳である。どちらにしても戦後世界の権力や地位の配分競争において先んじた日本が標的になるのは必然とも言える。
 また、彼らの考える権力はそれに応じた富を得ることも意味しており、すでに持つ者から奪い取るのは戦後の世界体制を変えようと考える以上当然のことでもある。彼らは、日本と仲良くする必要は基本的にない(先に書いた通り日本とは文化的な認識も異なる面もあろう)。

 日本人からすれば、日本国内における戦後レジュームからの脱却は当然の行為だが、中国や韓国の戦後体制を改変する行為は許せないと考えており、逆に中国や韓国からすれば日本は戦後の地位権力獲得競争で先んじて得た地位を手放さない既得権益層で、それを打破するのは当然の彼らの権利だと考えていると言っても良い(その目的を達するためには何をしても良いと考えるかどうかは国民性の違いがあろう)。
 どちらも戦後体制の変更を意図した動きであるという認識は重要であるし、彼らがそれを変えようとするのであれば日本は現状を守るのではなくより有利な状態に改変すべく動くのが一つのやり方ではある。もちろん、欧米との調整をどうすべきかという面はあるが、中号や韓国が今行おうとしていることが戦後秩序の破壊であるという面を強く例示し、国際的な監視の目を強めることは一つの手法といえるだろう。
 もちろん、これは正当性の勝負ではなく単なる地域覇権争いなのである。それを無視して協調も協力もあり得ないのではないか。