Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

美味しんぼ事件

 週刊ビッグコミックスピリッツに連載中の「美味しんぼ」の内容が世間を賑わせている。内容を受けて双葉町小学館に抗議文を送付した。一度目の掲載では放射能と鼻血を暗に示唆するようなものだったらしいが、二度目には明確に被曝により鼻血が出ていると触れているらしい。原作者は調査結果に基づいたものだとしているが、だからといって書いている内容が正しいかどうかはわからない(国連調査等からすれば因果関係はないと見るべきであろう)。
 すなわち、私は原作者である雁屋哲氏の思想や執筆内容が正しいとは思っていないのだが、だからと言って創作物として今回のような表現が許されないというのは行き過ぎではないかと考えている。確かに、新聞やテレビは社会の公器としての責任を背負わされており、建前上は根拠のあやふやな内容を報道することはできない(あくまで建前上である)。しかし、娯楽としてあるいは表現として創作物を発表する権利は日本において担保されている。

 社会に巻き起こった掲載に対する非難については、様々な意見が出されている。一例として以下に示す。
美味しんぼ」騒動に見る“過剰反応社会”の怖さ(http://no-border.asia/archives/20942

 実際に、掲載がおかしいという意見を私も幾度かネット上などで目にしたし、「小学館が倒産するまで不買活動をしよう」といった煽りの文章も見た。ただ、「雁屋哲氏に作品を作らせるな」とか「掲載を取りやめさせるべき」といった内容はゼロではないものの、あまり広がっていないように感じている。
 掲載内容が事実に反して不適切であるという指摘や、問題が生じる可能性を理解しながらそのまま掲載した小学館の判断を不適当とする内容が多い(あくまで私の見た範囲であって、一文は過激な内容もあるかもしれない)。

 さて、表現の自由は批判される自由も有しているのは間違いない。だから、私は「執筆を強制的に止めさせる」といった内容以外は批判することが許されているのではないかと考えている。雁屋哲氏は批判されることを覚悟の上で書いたことを表明しているわけだから、大きな批判が巻き起こってもそれは想定のうちである。
 批判が広がること自体は非難を受けるものではない。同時に、表現の自由を脅かす行為は厳格に取り締まられなければならない。果たして、雁屋哲氏の表現の自由を脅かす行為がどの程度あったかのだろうか。

 一方で、表現の自由についても一定の制限が設けられている。誰かの名誉を棄損しないか、あるいは根拠のない言説により経済的その他の不利益を被らせないかである。批判者たちからすれば、今回の内容は一方的な思い込みにより不利益な言説(双葉町風評被害としている)を書いているとする。
 ただ、世の中には「トンでも本」と呼ばれるジャンルは山ほど存在し、不確かな陰謀論も満ち溢れている。これらの書籍が不利益な言説で名誉棄毀損とされたかといえばそうではあるまい。明らかなウソであれば問題となるが、諸説ある場合には表現の自由は担保されている。
 双葉町の方々からすれば許しがたいことかもしれないが、それを差し止めることまではできないと私は思う(ちなみに以前の町長が執筆の根拠となっているというのも笑い話というべきか)。

 以上のことからして、「美味しんぼ」の掲載を差し止めることはできない。これは表現の自由により守られる範疇に属すると私は考える。ただし、その掲載内容がおかしいという意見表明することも同様に認められる。強制的に掲載を差し止めようとする動き以外は、対向の表現の自由として認められるべきではないか。
 だから、一部で表現の自由を守るべきと書いている人の意見も必ずしも当たらない。表現の自由漫画原作者以外にもその意見に反対する人にも認められる。ビッグコミックスピリッツを廃刊、あるいは小学館を倒産まで追い込もうという意見については私個人としては賛成しかねるが、不買運動程度であるならばこれも許容されている行為だと思う。
 その上で、この内容を社会が「トンでも理論」だと認定すれば信用を無くし作者は徐々にフェードアウトするしかないというのが現実であろう(一部にはコアな信者がいるだろうが)。

 ただ、世の中「言ったもん勝ち」、「書いたもの勝ち」の状況があるのは私も理解している。現状で、日本が中国や韓国の理不尽さに追い立てられている状況がそこに重なる。だからこそ、こうした問題が大きく取り上げられるのであろう。
 ちなみに、今回原発内容だから批判が巻き起こっているわけではない。雁屋哲氏の思想や表現内容には以前よりかなり多くの批判が存在した。今回はこうした積み重ねが大きく影響しているのは間違いないと思う。