Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

技術系公務員を増員せよ

 公務員削減の声は各所に溢れているが、私は人員数としては削減する必要はないと思っている。いや、むしろ増やすべきだとすら考えている。確かに、国家公務員数と比較すれば地方公務員の数は仕事の割合からすれば多いように感じるが、全体数としてはそうであっても人員が不足する部局もあれば余裕のあるところもある。それが業務の効率化や合理化の結果として表れている差異であれば問題ないと思うのだが、必ずしもそうではない。
 得に気になっているのは、小泉政権時代より少し前よりから言われている業務の民営化がある。民間に任せた方がより効率的で公益に資する業務が多くあるのは確かに理解できるが、その選別をあまり単純に行うのは必ずしも良い結果を招かない。
 例えば、やり玉に挙がられがちであるが公共事業を担う土木関係部局については、かなり前から技官と呼ばれる技術系公務員数も事務系と同様に減少しており、多くの業務は民間のコンサルタントに発注される。公務員が自前でやるよりは人件費が削減され、業務も効率的に進むという意味ではまさにその通りなのだが、そこに大きな落とし穴がある。プロジェクト全体を管理できる人間がいなくなってしまったのだ。受注した企業は己の範囲については責任を持って対処することになるが、多くの場合には発注の要件や内容などがきちんと精査されていなければ、仮に受注しても矛盾や齟齬が発生し上手くプロジェクトを進めるために問題が生じやすい。すなわち、発注側のスキルが非常に大きな問題となる。

 少し前に特許庁のソフト発注問題が大きな問題になっていた。確かに受注した企業側の問題も少なくなかったと思うのだが、私はそれ以上に官庁側でこうした技術を適切に判断できる人材がいなかったのではないかと懸念する。お金を握る側は基本的に強い。その人間が適切なスキルを持っていなければ、全体を見通す目が不足するのだ。
 大きな計画を打ち立てるのは審議会など有識者を使うことでカバーできるかも知れないが、小さな部分と大きな計画を結びつける技術力が官公庁には必要となる。現状では、技術系職員とは言っても実質的に発注業務のみを取り仕切る事務的な仕事しか行っていない。年かさの職員などではかつて自分が行ってきた経験を生かして判断できるかも知れないが、おそらくこうした組織内の人的な蓄積ももうすぐ途絶える(いや既に途絶えてしまったところも多い)。

 ここに来て公共事業の増加が謳われており、問題点として土木建設作業員の不足が言われているが、私はそれ以上に公務員の技術系職員の数も質も劣化しすぎていて、こちらの方がスムーズな事業執行に支障となるのではないかと懸念する。
 人を育てるのは容易なことではない。20年スパンで考えなければおそらく成し得ないので、既に官公庁や地方自治体のみで今後の公共事業増加に対応するのは不可能だと思っている。加えて、今後問題になるのが新規の工事よりも改修・補修が求められている。作るよりも直す方が難しく高度の判断が必要とされる。おそらく、今の技術系公務員ではその多くをカバーし、コントロールすることはできまい。
 もちろん、個別の部分は民間企業に発注すればそれですむかもしれない。しかし、それを統括する能力が不足するのではないかと思うのだ(個別で言えば高い技術力を誇る職員も一部にはいるだろうが)。

 そこで、今後の公共事業発注業務や計画立案増加を見越して、民間で働く第一線の技術者を準公務員として一時的に雇い入れることはできないだろうか。もちろん任期付き職員として雇用期間は限定し、給与は民間時代の方が高ければそれをカバーする。
 企業としても公共事業のあり方にコミットメントするチャンスでもあり、また発注者側の技術スキルが上がることは受注者側からしても歓迎であると私は思う。もちろん癒着については厳しく取り扱われるべきだと思うが、今現場で起きている多くの問題は公的技術者の不足とスキルの低下によるものだとすれば、メリットは発注者側のスキル向上にあるのではないか。
 あまり大きく問題とされることはないが、私はそれが様々なトラブルを引き起こす原因の大きな要因として存在するのではないかと考える。