Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

無駄で悪いか!?

民主党政権になってからの行政仕分けで、行政支出の無駄が数々指摘された。
その実行性には大いに疑問もあるが、マスコミや世論の意見も無駄を省くという一点においては同じ流れの上にある。
行政の無駄遣いというのは、結果として税金を無駄に垂れ流しているのだから、是正されて然るべきというのは非常にわかりやすい論理である。
ここに来て公務員給与の引き下げ問題も、民主党は支持母体への配慮から踏み切ることができなかった。
公務員の給与も行政の無駄の一部だと考えれば、これも類似の問題と認識される。

しかしながら、私自身の意見はと言えばまず一義的には「無駄のどこが悪い!」という気持ちがある。
本当に是正しなければならないのは、明らかな不平等や一部団体や組織による税金の着服・横流しである。
もちろんそれは、法的に問題のあるものから法的には不問のものまでいろいろとあるだろう。
ただ、無駄を省くというのは美徳のように言われがちだが、それは必ずしも美徳とは限らないのだと言いたい。

まず、公務員給与問題については何度もエントリで触れてきたが、基本的には民間と公務員の給与格差の問題である。
別に公務員給与が無駄なわけではない。
だから、一義的には民間給与が公務員給与以上になるようにすることが最も行うべき問題である。
しかしながら、政治も行政も10年以上にわたりそれを成し得なかった。
だから、不均衡に対する不満が大きくなって公務員給与引き下げの声が強く起こっているに過ぎない。

例えば政府の支出についても言えることがある。
無駄だとは言われるが、政府が支出したお金は基本的に日本国内に流れる。
上手く流せば、民間経済が潤うのは間違いない。
問題があるとすれば、民間経済に良い影響を与えることが少ない、国や自治体の外郭団体が中間摂取をしていることにある。本来、サービスや生産活動に寄与しないこうした団体が多くの利益を上げているとすれば、それこそ利益の不均衡と言える。

無駄の効用は他にも様々な面で言える部分がある。
例えば、食事について巻き起こっているファーストフードとスローフードの論争もそこに近い。
効率性のみを言うならば、均一で大量製造ができるファーストフードの方がより多くの人により多くの食糧を提供できるだろう。しかし、人はぎりぎりの生活でないならば多様性を求める。
この多様性は無駄と言えるのか?
いろいろな料理が存在することを無駄だという人はいるまい。
しかし、多彩な料理が存在すると言うことは、その過程において多くの無駄が発生しているであろうことは容易に類推できる。

あるいは、ファッションについて考えてみよう。
近頃はファッションが均一化したと言われている。
突飛な服装が好ましいとは個人的には思わないものの、長引く不況が影響してか若者のファッションに勢いが見られない。流行とは儚いものではあるが、そこで生み出される発想などは別の場所・別の形で生まれ変わるものもあるなど、可能性という点のみを取れば未来を有している。
もちろんその過程において大部分の発想はうち捨てられる。
ただ、大きな母体があるからこそ生み出される発想というものが必ず存在する。
無駄とは、大いなる発想を生み出すための基盤でもあるのだ。

これは、科学・技術分野では最も言えることであろう。
無駄とは言ってもなるべく効率的に進めるに越したことはないのはその通りであるが、常に最短ルートで歩めるはずなどありはしない。新たな発見や発想は、闇の中でもがき苦しんだ結果与えられることも少なくない。
これらを無駄と断罪してしまえば、おそらくまともな研究開発など成し得ない。
ガラケー」と呼ばれてその特殊性が揶揄された日本国内の携帯ではあるが、私は必ずしもそれが悪いとは思っていない。現状スマートフォンに圧倒されているのは確かだし、世界では日本メーカーのものが劣勢に立たされているのもそのとおりである。
ただ、それは日本における多様性を否定するものではないと思う。多様性のおもしろさやすばらしさ・可能性に目を奪われて、世界展開への道筋を間違えたに過ぎない。これは多様性が否定されることではなく、経営上の販売戦略のミスであろう。いや、円高などの経済的要因が追い打ちをかけたという意味で言えば、ミスと言い切れるかどうかも難しい。日本という市場は最高の実験場なのだから。


確かに、無駄の中にも少しでも効率を高めるという必要性はある。だから、無駄が全て素晴らしいなどというつもりはない。ただ、無駄は成功のための大いなる肥やしであるという認識が徐々に消されているようで少し怖い。

「経済の拡大は、無駄の積み重ねでもある。無駄が膨らみすぎると破綻するが、無駄がなさ過ぎると余裕が消える。適度な無駄を目指すのが最も良い。」