Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

流れを作る

 いじめ問題であろうと会社内の昇進争いであろうと、才能があるからと言っていじめられない訳ではないし単純に能力が高いからと言って出世する訳でもない。コミュニケーション力や人格まで全て含めてそれを能力と言えば能力が高い方が出世して、あるいはクラスの中心になるだろうが、それを生み出すのは多くの場合流れやムードを作る力に依存する。
 流れを作り出すというのは、多くの人をその気にさせる能力だと考えても良い。別に完全服従させるというほどのレベルである必要など無い。あくまで誘導されていてもそれを自発的に決めたと感じさせれば良いだけだ。他人に無理矢理押しつけられることに対して多くの場合人は反発するし、我慢していてもいつかは爆発する。ところが、自分が判断した(つもりになっている)ことに対しては相当寛容である。

 体罰問題であっても、自主的に動くように如何にするかが最も難しく重要なポイントとなる。気づかない点を気づかせるために体罰を行うと言うのも一つの手段だとは思うが、それが有無を言わせず言うことを聞かせる形になっているとすれば、形の上では従ったとしても流れも何も作れていない。
 一方で、体罰を行った教師を擁護する卒業生達は、自分たちの心理の中でそれを肯定している。それが自らが招いた必然だと結論づけている訳だ。それが意図して形成されたかものかどうかは別にしても、うまく指導の流れを作り出せている。
 恋愛などでもおそらく似たような状況は多いだろう。社会が人と人のコミュニケーションで成り立っている以上は、如何に自分の思い通りに物事を進めるかというせめぎ合いが行われている。別に争いごとをするようなギリギリしたものでは無く、むしろ如何にそれを感じさせずに誘導するかという感じだと思う。人の行動はその大部分が感情に左右されるので、如何に他人の感情を上手く扱うかと言うことでもある。
 体罰の折にも触れたが、その操作を誤れば大きな反発を受け、あるいは相手を落ち込ませてしまうことになる。チームワークが何処よりも強く叫ばれるのは日本の特徴かも知れないが、それはチームワークを強調する雰囲気が社会に既に根付いていると言うことでもあり、その雰囲気を利用すれば流れを作り上げることもあながち困難ではない。

 逆に、誘導が鼻につくような場合にはより大きな反発を受けることも少なくないが、それは流れを作るスキルが劣っているから生じる事だろうと思う。その方法論などは、いろいろなノウハウ本で整理されているのでそれを参考にすることはできるが、知識としてのそれを現実に使えるにはかなりの才能と熟練が必要となる。
 子供の頃から使いこなせる者もいるだろうが、逆にいくら努力しても使えない者もいる。扇情的な勢いで流れを作り上げることもできるが、多くの場合にはそのための別のきっかけが必要である。むしろ、普段からの信頼関係というものは集団の流れを決定づける上で大きな役割を果たす。
 教師においても、生徒達からの信頼をどれだけ勝ち得ているかが集団を率いていく上で最も重要なことであるが、それを自分の勢い(情熱)により得ているとは思わない方が良い。おそらくは情熱そのものではなく、評判や過去の結果がそれらしきものを形成している。
 恋愛においても容姿や評判が重視されるのは同じことだ。人が人の本質を信頼するに至るにはかなりの共有時間が必要であり、そこに至るまでは常に試用期間なのである。加えて、仮に試用期間を過ぎたとしても信頼関係はいきなり強固になる訳ではない。すなわち、評判などを自分で過信することが最も大きな問題とも言える。

 流れを自分通りに動かしたければ、おそらく気を抜く時間はそうありはしない。常に、関係者の動向をトレースしなければおぼつかない。立場が流れを動かす位置に自らを置いたとき、それは残酷なまでに気遣いを強要する。ただ、それを成し遂げる方法を自分なりに確立できたなら、人生を少しは面白く生きることができるだろう。