Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

焼き畑都市

 北京市に限らず中国各地で大気汚染が話題になっているが、北京を襲っている問題はそれだけには留まらない。まず一つには水問題がある。水質の悪化も問題ではあるが、そもそも水の量が不足している。正確に言えば使える水の量が少ないのである。大都市になって人口が増えれば増えるほど、工場などが増えて産業が豊かになればなるほどその影響は大きくなっていく。
 そして、それは最終的に砂漠化という形を取って都市を衰退に追い込んでいく。砂漠の中に埋もれた都市としてはカラホト(http://www.arachina.com/attrations/silkroad/yizhi/heishuicheng.htm)や楼蘭http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%BC%E8%98%AD)が有名ではあるが、1000年後くらいにはこの列に北京も並ぶかも知れない状況にある。現在北京市から80kmくらいの距離まで砂漠が迫っており、その進行速度は20〜30m/年と言う話もある。もちろん砂漠に飲み込まれる前に人が住めなくなるのは当然で、現在でも砂漠から飛んでくる砂の影響を受けている。
 砂漠化の抑制に尽力することでその進行を食い止めることもできるとは思うが、そのためには現状のような野放図な水使用などは大きく変えられなければならないであろう。中国における最も大きな問題は、おそらく大気汚染ではなくこの水問題であると思う。空気環境の方が取り組みは容易である。

 ところが嘘か真かわからないが、こんな話まで飛び出してきている。
大気汚染で高まる遷都論、2016年に河南省信陽市へ首都移転?―中国(http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=69262&type=0
 なんてことはない。さっさと放り出して別の場所に移ろうという話である。遷都(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%B7%E9%83%BD)は古くから権力の交代を受けて行われることが多いが、経済状況などの変化や刺激策として計画的に行われることもある。ただ、必要な労力が非常に大きなためそのメリットが現れるのはかなりの環境的要因が揃わなければ無いと考えるのが普通であろう。そもそも、普通に考えれば現状の中国において環境問題を除いては遷都を行う必然性はそれほど大きくない。一極集中が激しすぎる訳でもないし、あるいは大きな統治機構の変化があった訳でもない。はたまた、自然環境の劇的変化があったのでもなければ、都市機能が低下した訳でもない。そして出てくるのが、単に生活環境に適さなくなったと言うことである。
 中国の場合、人件費の高騰もあり世界の工場としてのこれまでのポジションから、徐々に内需振興に国家の経済体制を変えていかなければならないのだが、そのためには遷都というものも一つの内需振興策としては意味がある。だから、一定の刺激策という建前がないとは言えなくもないが、実質的には焼き畑農業のように使えなくなった場所を捨てて使える場所に移動すると言った匂いがぷんぷんとしている。

 水問題にしても大気汚染にしても、中国人民の生活環境を大いに毀損しているのは間違いないが、この遷都の噂から思い浮かぶのは指導者層が先に耐えられなくなって逃げ出す姿である。人民の健康のためではなく、もちろん中国全土の均衡ある発展のためでもない。
 しかし、中国全土で同時並行的に環境悪化が進んでいるとすれば、逃げ出せる場所など限られているしそこに全ての人民が移動できる訳でもない。日本の水源地が中国の資産家に買われているのも、水の確保と言うよりはむしろ逃げ出す先を確保していると言われてもおかしな話ではない。
 技術が自然を完全にコントロールできるはずなど無いが、逆にそれをコントロールする努力を捨てるのも間違っている。人間は自然と共生するために技術を使うのであって、それができなければ未来はない。