Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

中国 vs 蝗

 1か月ほど前にサバクトビバッタの大発生について触れたが、その集団がついに中国に近づきつつあるというニュースが出ている(新型コロナ震える中国 今度はイナゴ襲来で数千万人が飢饉の危機 - ライブドアニュース)。オマーン付近では6月ごろには4000億匹にまで数を増やすという予想もあるが、現時点ではそこまでではない。とは言え、数千万から数億の害虫が来るとなれば冗談ですまない。国内に入ってくる前に何とかしようと、既に被害の出ているパキスタンに専門家を派遣している(中国蝗害防止活動グループがパキスタンで記者会見_中国国際放送局)が、その一環としてこちらも冗談かと思えるような話がまことしやかに広まっている(https://www.youtube.com/watch?v=CJesdxrD1O8)。中国政府は10羽のアヒル軍団を結成して、バッタの大群にさし向ける(パキスタンのバッタ被害対策に中国が10万羽の「アヒル軍」派兵―中国メディア|レコードチャイナ)というのだ。アヒルは虫を好物としており、一日に200匹近くを食べるそうだ。それでもフル稼働でも2000万匹/日ではあるが、思わず笑ってしまいそうな構図である。もっとも、これは実際には行われていない(バッタの襲来に備えて、中国が10万羽の「アヒル軍」をパキスタンに派遣するというニュースは本当なのか?(中国) | ニコニコニュース)と私も思う。そもそも10万羽のアヒルを制御できると思わないし、砂漠地帯(水場がない)であるパキスタンで元気にバッタを食べ続けられるとも思わないからである。

 

 今回大発生しているサバクトビバッタによる被害は一般的に蝗害(こうがい)とされ、日本で言う「イナゴ」の文字が用いられているが、実際にはトノサマバッタに近い種別である。中国人なら食べてしまいそうという声もあるが、新型コロナウイルスで「ゲテモノを食すな!」という大号令がかかっている今、それが食料として利用されるとは誰も思わないだろう。また、大移動を始めるときのそれは体のつくりそのものを変えてしまい、飢餓や長距離移動に強い生態になる。果たして食べられるようなものかも疑問である。

 ちなみに、中国に到達するためにはメインルートを考えるとヒマラヤの西端(カシミール - Wikipedia)を超えなければならない。高い飛行能力をバッタではあるが、どれだけの数が中国に侵入するかは現時点では何とも言えないと感じている。8000m級の山脈をどれだけ越えられるだろうか(複数の国で大規模な蝗害、中国で発生するリスクは?--人民網日本語版--人民日報)。谷筋を通れば不可能ではないだろうが、気温等により篩にかけられるケースもあるのでないか。

 一方で遠回りとなるがべつのふたつのルートが存在する。カザフスタン経由と東南アジア経由のケースである(中国にバッタ襲来のリスク高まる 6月までに500倍に急増する恐れ - ライブドアニュース)。ただ、東南アジアルートを取る場合には中国に至る前に数多くの国家を蹂躙することになる。インドを横断し、バングラディッシュミャンマー、タイ、ラオスなどを経て中国南部に至るルートである。中国の混乱というよりは、アジア全域の混乱になる。カザフスタン経由は中国の西方に侵入するルートだが、ウイグル地区には大きなダメージを与えるものの、こちらも中国の人口集中地区に至るにはかなりの距離がある。

 

 もちろん、暖かくなりあふれ出たバッタの大集団がもし中国に侵入するとなれば、これは馬鹿にならない大問題となるだろう。アフリカ豚コレラで傷つき、武漢から広がった新型コロナウイルスで生産に大きなダメージを受けている現状である。中国社会は容易に立ち直れないような状況に追い込まれてもおかしくない。加えて、一日に100km以上を移動することもあると言われる蝗害であるから、数千キロの距離など瞬く間に乗り越えてしまう。だが、本当に中国中心部にそれが及ぶときには、日本もまた被害に遭うと考えた方がよさそうだ。

 古来、中国では治世が乱れるときには疫病や蝗害などの災厄が襲ってくると言われている(中国蝗災史 - Wikipedia)。それは結果論に過ぎないのだが、現在の状況を見ると「さもありなん」と感じてしまうのは私の目が曇っているからであろうか。ただ、個人的な勘で言えば中国が本格的に蝗と対するケース以前に、もインドでの被害を真剣に考えておいた方が良いだろう。そちらも大きな人口密集地であり、中国以上に混乱しそうな場所なのだから。インドも決して盤石ではない。