Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

撤退後

 少し前より、中国から日本企業撤退のニュースが相次いでいる。反日政策の影響もあって日本企業が営業しづらい雰囲気もあろうし中国国内の経済事情も関係しているかもしれないが、最も大きな問題は人件費の高騰である。それでもまだ日本と比べれば低いだろうが、人件費の安さは品質などの価値と運送費その他の必要経費などをカバーする意味で位置づけられるため、例えば不当な賄賂の要求や制度変更にかかる手続きなども全てが人件費を圧縮すべき対象に導く。
 細かい内容は別にして、とりあえず現状抱えるリスクに対して割が合わないから出ていくと言ってしまえば判り易い。このようになるだろうことはかなり昔から囁かれたは来ていたが、日経新聞をはじめとしてマスコミの無責任なキャンペーンが引き際を遅らせたともいるかもしれない。もっとも、最終判断は個々の企業に委ねられており自己責任だというのもその通りであろう。

 早期に撤退した企業はそれほどダメージを被らないかもしれないが、遅くなればなるほど様々な嫌がらせを含めた問題が生じる危険性が高い。既に現時点でも、進出した企業は容易に撤退できないように様々な縛りがも設けられている。ゴシップ記事ではあるが、一部の韓国の中小企業は夜逃げ同然で正式な手続きを踏むことなく逃げ出しているという話を随分昔から聞く。
 逆に日本企業では責任者が拘束されるなど、問題が徐々に広がり始めている(http://sankei.jp.msn.com/world/news/131011/chn13101108040001-n1.htm)。もちろん現地の法律に違反した場合は表面上やむを得ないが、法律の恣意的な運用が話を複雑にする。例えば賄賂を払わなければ手続きをいつまでも放置されるため、やむを得ず支払ったあそれを盾に逮捕されるという事例も報道されている。
 東南アジアと比較して中国の持つメリットは、生産そのものではなく市場としてのそれに変貌しつつある。人件費が高くなるということは生産拠点としての価値は下がるが、それだけの購買力を得るわけだから物を売るには好都合なのだ。欧米の狙いは基本的にそこにあるが、自由な貿易なら生産を別の場所にして販売を中国で行うという方法もあろうが、規制を恣意的に行える(行う)中国では国内生産を義務付けられたり(これはアメリカも同じ)、あるいは技術の供与を義務付けたりされる。その結果が、技術を国内企業に移転して外国企業を駆逐するというのがこれまでのやり方なのは多くの場面で見ているが、私たちが考える以上に中国という巨大市場は魅力的なのかもしれない(http://toyokeizai.net/articles/-/22172)。

 さて、これから技術移転(進出)をするような企業については製造工程の一部をブラックボックス化するなど「自己責任で上手くやってくれ」と言うと共に、現状における脱出企業の目くらましの役割を是非とも果たしてほしいと思うが、これも必ずしも十分とは言えないかもしれない。
 生産拠点としての役割は低下したとしても、消費地としての価値が下がってしまったわけではない。結局のところ中国で売りたいという期待がある限りにおいてどのような嫌がらせが行われるかはわからない。そして、これは撤退中のみならず既に撤退した企業においても言える。
 例えば、撤退後の工場で環境汚染物質(毒物)の反応が見つかるとか、あるいは不正な労使協定の問題が蒸し返されるなどにより、仮に差し押さえる資産が中国国内になかったとしても販売許可を差し止める等の嫌がらせは十分に考えられるであろう。カードなどは、日本やアメリカと違いいくらでも作ることができるのである。

 撤退セミナーが盛況だとの報道(http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130820/biz13082022560031-n1.htm)もあるが、これはあくまで撤退というその時点におけるショートタームの対処であって、それですべてが解決する訳であない。実際中小企業では撤退による損失を補填できるような資本がないところも多く、それはすなわち東南アジアなどに再度進出する力がないということでもある。こんな状態でも脱出したいということは、それだけ現状が切羽詰っているということでもあろうが、中国政府(というか多くの場合には地方政府等)の態度がひどいのであろう。
 パナソニック(松下電器)が訒小平の依頼により進出したにもかかわらず、反日デモの襲撃を受けたことを訝しむ声もあったようだが、それはすなわち中央の統制が取れなくなっているということの証左でもあろう。そして、地方政府(あるいはそれと結びつく人民解放軍)が好き放題に動き始めるほどに問題は広がっていく。
 政府としては、中国進出企業の撤退後についてのケアにも配慮を行ってもらいたい。日本の中小企業は思っている以上に重要なのだから。