Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

朝日新聞の思惑

 8/5、8/6の朝日新聞紙面において、所謂「従軍慰安婦問題」について訂正・検証記事(および日韓関係への影響等)が掲載された。今更若干の訂正を表明したからと言って、朝日新聞にとっても日本にとっても不都合な状況が劇的に変わるとは思わないし、今回は表明されなかった謝罪や反省が仮にあったとしても世界的に広まっている慰安婦に関する誤解を払拭することができるとは思わない。とは言え、韓国の根拠なき言動に対しての反論の糸口としては地味に効いてくることになるだろう。
 しかし考えてみれば、朝日新聞としては今さら遅い訂正をするメリットがない。それにも関わらず訂正記事を出した(ただし謝罪は一切していない)ことの理由がどこにあるのだろうか。この時期に敢えて訂正記事を掲載した理由について想像を巡らせてみたい。

 まず、経緯について時系列を考えた上で一度復習をしておこう(参考:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%85%B0%E5%AE%89%E5%A9%A6%E3%81%AE%E5%B9%B4%E8%A1%A8)
 発端が朝日新聞記事における捏造という話が数多く出るが、慰安婦問題そのものを取り上げたのは別に朝日新聞が初めてではない。朝日新聞が本格的に掲載を始めた1990年代以前にも、ノンフィクションライターの千田夏光(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%83%E7%94%B0%E5%A4%8F%E5%85%89)が1973年に「従軍慰安婦」という名称を生み出しており、その後に吉田清治がその後でっち上げを認めた著書(1977年、1983年)を出している。
 今回朝日新聞吉田清治の著作は信ぴょう性が無いことを認めたが、本格的に内容に疑義が出されたのは1989年の『済州新聞』の許栄善記者が現地調査したルポが最初であり、1990年代には日本でも知られるようになっている。
 朝日新聞の記事は1991年以降、この吉田清治著作と慰安婦証言をもと繰り返し旧日本軍の蛮行として書かれたが、その執筆の中心は当時の植村隆記者(現在は北星学園大学非常勤講師:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A4%8D%E6%9D%91%E9%9A%86)である。彼の妻が韓国人であり、その母親は慰安婦等の支援団体「太平洋戦争犠牲者遺族会」の会長であることは既に多くの場所で知られている。ちなみに、その義理の母親である梁順任(ヤンスニム、양순임)は裁判費用を詐取した件で韓国国内で摘発・立件されている(最終的に無罪となったとされている)。このあたりの詐欺に関しては、ネット上の情報は多いが、何が真実なのかは今一つはっきりとはわからないのでこれ以上は触れない。
 ちなみに、所謂「従軍慰安婦」報道の口火を切ったのは朝日新聞であるが、その報道を利用して当時の社会党やそのほかの新聞社が一大キャンペーンを行ったのは間違いない。
 その後、韓国が慰安婦問題を国際問題として取り上げていることについては既に多くの人の知るところであろう。

 さて、ではなぜ今になって朝日新聞が謝罪はないものの訂正記事を発したかについて考えてみたい。最初の方でも書いたが、今さら訂正するメリットは大きくないだろうというのが私の考えである。一部には、世の中のバッシングが耐えがたいものになった(http://news.livedoor.com/article/detail/9121957/)とか、日本(政府)を辱めるのに十分な成果を得たから事実関係のみを訂正しようとしている、といった意見もある。また、今年の3月に植村記者が朝日新聞を退社したから発表したという意見もあるが、これは遠因としてはあっても直接的なものではあるまい。
 どちらにしても、今回の記事訂正については必死に押しとどめようとしてきたダムを決壊させたに等しい。もちろん今はまだ小さな穴をあけた段階にすぎないが、基本的な根拠としてきたものが虚偽の証言であったことを認めたわけだから、朝日新聞が謝罪しようがしまいが声を上げてこの問題の再検証を進めるきっかけは生れた。
 これまでは、朝日新聞の記事と河野談話をもとに構築されてきた虚構の一端が崩れたわけである。加えて、河野談話自体は撤回しないものの中身に関する検証が既に行われており、韓国が主張する内容があまりに変なものであることは少なくとも日本国内においては認められるものとなりつつある。
 
 さて、朝日新聞は今回の記事訂正の結論については、今までのスタンスを変えないと宣言している。要するに「従軍慰安婦」に関する軍による強制性を示す根拠はないが、悲惨な人たちがいたことは事実であり女性の人権を守るためにこれからも同じスタンスを貫くと言っている。同様のことは、毎日新聞(http://mainichi.jp/opinion/news/20140807k0000m070168000c.html)が書いており、や東京新聞も政治介入を否定する記事(http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014080602000134.html)を書いている。
 悲惨であった慰安婦の人権に関しては同情するが、軍が強制的に関与したかが争点であったのでそれを放棄して撤退戦を始めたということである。これまでの活動で得た利益(日本軍の悪徳性)を守りながら、感情論で問題を拡散させようというものである。
 同じような動きについては、韓国政府も既に取っている。論点は、軍が強制的に慰安婦を集めたかどうかではなく、集められた慰安婦の扱いの悲惨さ(奴隷的であったかどうか)に移し始めたのだ。ただ、これに関しても奴隷的であったという証拠よりは、むしろそうではないとする証言も少なくない。
 私は、最後まで突っぱねることで問題をうやむやにする方が、朝日新聞にとっては有利な成果(それでも大きく販売部数を落とすと思うが)を得られたのではないかと思う。

 さて、女性の人権が軽視された時代があったことについては認めなければならないし、そのことに対する反省が必要なのも間違いはない。しかし、70年前の女性人権軽視と現代のそれを比較すれば明らかに現代の問題に取り組むべきである。さて、現代の慰安婦問題とも言われる韓国人売春婦が世界中で活動している現状を、朝日新聞毎日新聞は何故キャンペーンして報道しないのだろうか。
 女性の人権状況に関して日本が素晴らしいというつもりはないが、中国における人身売買の問題やイスラム諸国における女性の地位が著しく毀損されている状況に対して、国際世論を動かそうとしないのは何故なのだろうか。
 結局、朝日新聞にしても毎日新聞にしても行いたいのは日本の権力批判だけなのだ。さらに言えば、過去の権力を批判することについては直接的な敵がいないことから楽に取り組めるということもある。権力と戦っているという自己満足、たったそれだけのことで韓国や中国と組み日本を貶める記事を検証もなく垂れ流す。

 スタンスを変えないと宣言しているのだから、別に謝罪しているつもりは更々ないのであろう。最近強まっている面倒なクレームや突込み(捏造と書かれることを含む)に対して、最低限の訂正により付け入る隙を与えないようにしたつもりではないか。その程度の思惑ともいえない単純な動機ではないかと思っている。これにより、事実関係に関するクレームを受けることがなくなりスタンスの問題に争点を変えれば、朝日新聞慰安婦問題で受けるダメージを低減できると狙ったのであろう。だから、謝罪などは一切書くつもりもないし必要もない。その上で今後もこれ以上の譲歩をするつもりはないだろう。
 もちろん、部数の落ち込みや自らの影響力の低下という面も関係するだろうし、当事者が退職したということも少しはあろう。どちらにしても、記事自体は組織としては間違っていない(吉田清治の嘘に騙された立場)という姿勢を堅持しており、誠実な被害者を演じようとしているように見える。
 だからと言って、ネットで既に様々な情報を得ている人たちに通用するようなものではないし、先ほども書いたがダムの決壊を起こす一穴を自ら築いたと私は思うが、一時的にはスタンス以外の部分での弱点を防いだという自己満足を得たのではないか。間違っていないと強弁しながら、歯の隙間に刺さった小骨を落とした程度の扱いだろう。
 別の見方では、安倍政権との裏側での手打ちを示そうとしたものだという考えもあろうが、私が見る限りにおいては記事からはそれを感じ取れるような部分はなかったように思う。
 もっとも、今回のような訂正は心理的に追い詰められているということの裏返しでもあろう。実際には、朝日新聞内にも朝日のスタンスを良しとしない人が少なからず存在すると思う。ただ、雇われている以上上層部の判断に抵抗できないという状況もあると思う。その動きが活性化するかもしれない。

 韓国の思惑はこの際無視するとしても、朝日の緊急避難的な行動は彼らの思惑とは別の方向に大きく動き出すきっかけを与えたと思う。