Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

利害の一致

 橋下大阪市長の舌下事件が広がりを見せ始めている。確かに事実関係を言うならば彼の意見にも一理あるだろうが、政治家がそれを言うのはかなりリスキーなことである。特に、従軍慰安婦問題で日本を攻めたてようとしているかの国にとっては、ここのところ手詰まり感があっただけに渡りに船かもしれない。日本とはこのように女性を性商品として取り扱っている国家であるとか、日本軍は性風俗に浅ましい状況であったからこそ従軍慰安婦問題が発生したのだとか、あることないことを喧伝されることになるだろう。
 橋下市長の言葉は、これまでの行動と同じようにインパクトあるものであり注目を集めることには成功しているが、それがどのような効果を上げ影響を及ぼすかについては十分検証されているとは言い難い。これは従来の政治家にとっては致命傷なのだが、石原元都知事と同じように舌下事件として選挙に負けるような影響は現在のところ現れてはいない。むしろ、近頃埋没し始めていた維新の会(というか橋下市長)に世間の注目を集めるという一点においては成功しているともいえる。
 少なくとも、アメリカという国家が一地方市長の言葉に反応しているのである。考えても見れば、すごいことではないか。朝日新聞さまさまであろう。

 ただし、共同代表の石原氏は橋下市長を擁護しているが政府や自民党の方は非常に冷淡な態度をとっている。一緒に火の粉を浴びるのは御免こうむりたいといった感じかもしれない。少なくとも火付け役の朝日新聞は提携するNYTなどを通じて世界中に広げて喜んでいる。世界的な意見のまとまりを受ければ、日本のマスコミも総バッシングを始めるであろう。単純な歴史に関する意見の陳述ではなく、それを現代に持ち込んでしまったことが許されないといったところだと思う。
 ここ数年「従軍慰安婦」は事実ではないと主張しても、相変わらず朝日新聞を始め韓国や一部の欧米メディアの反発は食らうものの、日本国内における意見陳述として認められるようになってきた。これは、日本国内の意識や理解と雰囲気が大きく変わったことにある。確かに世界中で「慰安婦」は存在したが、それは何も日本に限ったことではない。その上で、軍による強制連行の事実は確認されてない。
 今問題とされているのは、軍(すなわち国家)による強制的な連行があったか否かであり、それは事実関係に限って言えば日本政府により明確に否定されている。それをあたかも事実のように主張しているのが韓国であり朝日新聞である。言葉として「広義の強制」などという意味の良くわからない内容まで持ち出して、「日本のみが」不法に慰安婦調達をしていたような印象操作がなされている状況だ。
 しかし、むしろベトナム戦争に韓国軍が参加した時には強姦や虐殺すらが行われており、非道のレベルでいえばそちらの方が非難されるのが筋である。むろん、日本としては非難合戦をすることが本意ではない。はっきり言えば朝日新聞の扇動に乗りかかる形で韓国が行っているキャンペーンが捏造だと世界に知らしめることが重要なのだ。

 慰安婦は確かに存在し、彼女らの人生が今考えれば許されるようなことではなかったのかもしれない。しかし当時は日本人の多くも同じような境遇にいたし、また世界に目を向ければ植民地政策が残っていたい時代で奴隷に近い存在も数多くあった。加えて、女子挺身隊という慰安婦とは無関係なものを無理やり慰安婦と結び付けて広げている捏造を看過できるとはとてもいえない。
 日本は、韓国の慰安婦をめぐる情報戦に大きく負け越しているのが現状だ。これを一気に挽回することは決して容易ではない。だから、橋本市長の言動はそれのみを取って見れば朝日新聞や韓国などに良い宣伝機会を与えているといってよい。
 ただ、これまで日韓関係に配慮して強いことが言えなかった自民党からすれば、議論の境界線を大きく押し戻してくれる可能性を秘めた行為でもあろう。しかも、非難は橋下市長個人に押し付けることができる。「別に自民党(あるいは日本政府)は橋下市長の言動を支持しているわけではありませんよ」と謳いながらも、このような意見もあるように議論と検証をきちんとしないといけませんねと日本の意見を世界に広げる機会となりうる。
 橋下市長お得意の、無理やり問題を大きくしておいて落としどころを探るスタイルを、漁夫の利のごとく得ることができるかもしれない。確かに、現状の問題が橋下市長の手に余るようなことになってしまえば利を得ることはできないだろうが、それでも政府として失うことはそれほど多くはない。韓国などが主張するのは新しい事実ではなくこれまでの主張の繰り返しに過ぎないのだから。

 インパクトにより一気に自らの主張を認めさせる土台を作る。橋下氏の国内的な基盤は揺るぐことはなくむしろ話題の中心たることができる上に、自民党を含めた日本政府も韓国のアドバンテージを押し返す可能性を秘めている。そう考えると、無謀な言動ではあるし政府ともうしわ合わせたわけでは決してないだろうが、まるで阿吽の呼吸のように両者の利害が一致しているのだ。
 サイは振られた。すでに始まった論争は無にはできない。だとすれば日本の主張をきちんと世界に伝えるためのスタンスを一気に構築する良い機会なのかもしれない。