Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

代理出産

 オーストラリアの夫妻が、タイの代理母に依頼して出産した双子のうちダウン症である男児の受け取りを拒否している問題(http://www.globalnewsasia.com/article.php?id=770&&country=2&&p=2)について、様々な情報が錯綜しており現時点で何が正しいかが今一つはっきりしないが、少し書いてみたい。

 代理母出産(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%A3%E7%90%86%E6%AF%8D%E5%87%BA%E7%94%A3)については、原則的には子宮障害などがある不妊夫婦が自らたちの精子卵子を利用して別の母体を借りて出産を行うものである。ただし、不妊解消という意味で考えれば無精子症や卵巣がない場合など、夫婦の精子卵子を提供できない場合もあり、第三者精子卵子を用いる場合も含んで考えるのが一般的の様である。ただ、こうしたすべてのケースを含めて代理出産を認めていない国家は少なくない。
 今回のオーストラリアは代理出産を法規制により認めていない国家の一つであり、日本の場合には法規制はないものの日本産婦人科学会の自主規制のために原則として認めていない状況となっている(厚生労働省は法制化をすべく動いてはいるようだ)。ただし、一部には認めるべきであるとする根津八紘医師のような人も存在し、特殊な事例においては日本でも実例はある(15例)。
 他方でアメリカでは代理出産は認められており、百組近い日本人がアメリカで代理出産を行っていると言われている。今回のタイやインド、マレーシアでも代理出産は認められているが、最近では一定の条件を課す方向で動きつつある状況の様である。タイやインドが注目されるのはそのコストの安さであり、インドの場合には専用施設も存在する。
 日本において学会が代理出産を認めない理由は、出産リスクを他者に移転することは許されるべきではないという意見が強いためであるが、同時に不妊夫婦の願いを叶える方法がないという問題との両立が難しいため法制化が難航している模様である。

 代理出産について、その是非とは別の見地の議論も存在する。2か月ほど前に揚州人権裁判所で下された判決(http://www.afpbb.com/articles/-/3018972)は興味深い。フランスでは法律で一切の代理出産を違法として認めていない。そのため、フランス人夫妻がアメリカの代理母を利用して出産した子供が、正式な子供と認められない(出生を認めなかった)とされていた。
 法律的には確かに正しい判断であろうが、その結果として子供たちは生きていくための多くの権利を剥奪されるということになる。それに対して欧州人権裁判所が賠償を命じているが、出生が認められたかどうかは定かではない。
 また、宗教界では代理出産に否定的な意見が多いように感じている(http://azuki0405.exblog.jp/19603422/)が、仏教では特に問題としないのではないかという話もある。

 さて、今回のタイの事例ではダウン症男児に対する援助が続々と集まっているようである(http://www.cnn.co.jp/world/35051911.html)。依頼した夫婦から捨てられた男児を援助しようという善意の行動については決して悪いこととは思わないが、その費用が莫大になればなるほど安易な代理母希望者を生み出すこともまた考えられる。別に、今回の代理母が打算的であると言っているのではないが、女児も取り戻すという発言(http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp1-20140805-1346278.html)には若干の意図が感じられなくはない。
 さて、今回の事例では当初の代理出産費用が30万バーツ(約96万円)とされており(別の報道では7万バーツが既に支払われ、残り33万バーツが未払いというものもあった)、費用は代理母にはわたっていない。ちなみに、依頼した夫妻側の主張では当初予定していた病院とは別の病院で出産したため契約は解除されていると主張している(http://www.afpbb.com/articles/-/3022364)ようだが、仮に解除されているのだとすれば女児のみ連れて帰った行為の正当性が無い。夫婦は、ダウン症を理由に男児を連れて帰らなかったわけではないと友人を通じて公表しているらしいが、この点についてもこれまでの経緯を見る限り怪しいのではないかと想像している。

 ところで、一部のメディアでは、オーストラリアの男性が幼児性愛者で複数の性犯罪歴を有していると報道している(http://www.globalnewsasia.com/article.php?id=778&&country=2&&p=2)。これがもし事実であれば、代理出産の是非とはまた別の問題としてクローズアップされることとなろう。
 元々、人身売買を目的とした出産工場(http://www.afpbb.com/articles/-/2970000)の問題は人権上の見地から重大な問題と捉えられている。不妊夫婦が赤ちゃんを買い求めるケースが多いようではあるが、人身売買や臓器提供目的でのケースもあると考えられている。ナイジェリアなどの出産工場で売買される赤ちゃんの費用は母親には1.5万円程度で、外部に売り出される時に15万円程と言われているので、上記のタイのケースと比べれば一ケタ近く安いが売買の目的として白人を求めるなどあれば、こうした市場の成立するかもしれない。
 不妊夫婦にとっての代理出産は唯一の希望ではあるが、それを利用した人身売買的な活動が見逃されることになるとすれば、これもまた大きな問題と言えるであろう。