Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

それはもはやアイドルなのか

「私たちの方が会えるよ」と甘い声で勧誘 タブーなきアイドルのファン争奪戦(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130313-00000005-tospoweb-ent

 ご当地のゆるキャラだけではなくご当地アイドルも花盛りではあるが、さすがに全国区で名前を売っているご当地アイドルはほとんどいない。一時期隆盛を極めたグラビアアイドルも、今では収入を確保するのが非常に厳しいという声も聞こえてくるし、アイドル稼業も本当に楽ではないようだ。
 しかし、考えてみれば弁護士資格でも見られるように同業者が乱立すれば、一人当たりの分配が減少するのは当然である。市場が拡大する分野であれば共存も可能であるだろうが、そんなことがいつまでも続くはずもなく、アイドルがコモディティー化し始めれば、一部のブランド力のあるそれが圧倒的優位に立ちその他は負け組になる。負けないための競争はおそらく苛烈になり、上記のニュースでもあるような争奪戦が起きるのもおかしな話ではないだろう。少ないパイの奪い合いなのだ。例えば漫画家の世界などは、手塚治虫の時代からすれば随分多くの人を受け入れられるようになり、市場の拡大には成功した方だと思う。さて、アイドル界が今後このようなブレイクスルーを実現できるのか。正直に言えば私はかなり懐疑的でもある。

 アイドル(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%AB)という言葉は完全なる和製英語ではなく「偶像(IDOL)」から来ているが、意味としては欧米におけるそれとは日本ではかなり変質している。多くの人が知るように若手の容姿を売り物にする芸能人を示したり、または普段の生活の中での「若い人気者」を示したりしている。私達はこの両者を上手く使い分けているが、両者に共通するのはそれなりに手が届かない存在であるという不文律がかつてはあった。
 ところが、AKBでもご当地アイドルでも手が届きそうで届かない状況をいかに作るかという知恵を使った競争に突入しているのが現状だ。これは似た存在があるではないかと誰もが思うだろうが、水商売の手管とさして変わりはしない。気があるように見せながら貢がせる。それを色恋の駆け引き無しに成し遂げようと進化したのがAKBスタイルではないかと思う。もちろん、だからと言って彼女たちの努力を卑下するものでは無いが、芸を極めるといった旧来のスタイルでないのは間違いない。
 「崇拝」ではなく「親近感」。この手法は、アイドルに注目する人の裾野を広げることとなったが、この仕組みを維持するためには構造的な仕組みとして数多くのアイドルが必要になる。できる限り広く多様な好みに合わせることができるスタイルは、それを演出する側にも過大な負担をかける。そして、その結果は親近感を演出するアイドルそのものに跳ね返っていく。数が多いと言うことは利益の分け前が少ないと言うことであり、彼女らにとっての卒業はいろいろと虚飾されても結局のところお払い箱に近い。しかし、固定化はユニットそのものの多様性を阻害するため必ず入れ替えが行われなければならない。
 まあ芸能界などはもともと使い捨て社会でもあるので、そのこと自体は何の不思議がある訳でもないが、「親近感」を狙いとして育てられた彼女らには個を主張する一人のアイドルとして生きていくだけのチャンスはほとんど与えられていないのも事実だろう。

 さて、これがご当地アイドルともなってさらに「親近感」を前面に押し出し始めると、もはやご当地のゆるキャラと何も変わらない。それはアイドルと言う言葉の持つ意味とは裏腹に、地域におけるアドバルーンと言った雰囲気を持つ。一種観測気球的なそれは、宣伝を図るには中途半端でありイメージを形成するには曖昧すぎる。
 実際ご当地アイドルは手が届かない存在ですらないし、手が届くことを売り物にしている気配すらある。こうなってくると、その存在定義が非常に曖昧ですらある。もちろん定義があって存在が許されるものでは無いので、社会的に許容されているのであれば何も問題はないのだが、アイドルのインフレを生じさせているのは間違いないだろう。
 インフレ化されたものはいつか地に落ちる。だから何処の業界でも希少価値を優遇し、法律や規則などを利用して新規参入をできる限り阻害しようと努力する。完全な自由化と裾野の拡大は、全体のパイを少し押し上げるかも知れないが、それ以上に過当競争が厳しくなる。オリジナリティを最大限にまで活用しなければ経済的には生き残ることは難しいだろう。もちろん、思い出として金銭を抜きにすれば継続可能だが、それはアイドルという存在にはほど遠いと思うのだ。