Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

流行語大賞

 今年の流行語大賞を巡って、様々な議論が噴出している様である。個人的には、一企業がスポンサーになって選定している流行語大賞に何が選ばれようが、特に感慨も不満もない。今回の議論の焦点は大賞に選定された「神ってる」を聞いたことがないという件もあるが、それ以上にトップテン入賞した「保育園落ちた日本死ね」の選定を巡っての方がヒートアップしているようだ。

 流行と縁遠い自分からすると大賞になった「神ってる」は全く記憶に残ってないし、「保育園落ちた日本死ね」についても民進党の話題作りにマスコミが乗っかった話として「あったかもなぁ」程度の感想だった。だが、そもそも流行語大賞というものにそぐうのかという疑問が湧き起こったようである。
 流行したかどうかは、個人として属する場所により感じ方が違う。マスコミに近い人たちが良く耳にした言葉も、一般国民からすればほとんど聞いたこともないということも少なくないだろう。もちろん逆もしかりで、ネット上で大人気となっても候補にすら上がらないものもある。
 あくまで選考委員の認識が現れているモノに過ぎないないのだから、同様の傾向が続けばレコード大賞と同じような立ち位置に自然と流れて行くだろう。必死に権威づけを図ろうとするが一部の人を除いて誰も見向きもしないという存在の事である。

 「保育園落ちた日本死ね」が流行語大賞に入賞することが妥当かどうかについて、私自身としては意見を保留したい。いい言葉とは全く思わないし、流行語と呼ぶにふさわしいとも思いはしないが、あたかも言葉狩りの様な様相になっていくのは不健全だと思うからである。
 ヘイトスピーチにつても同様のことが言えると考えているが、NGとOKの境界が非常に微妙な存在であり、それは時代背景に大きく左右される。世界的にも保護主義的な傾向が今後も強まっていくだろう。グローバル化は全ての人を幸せにする魔法の言葉ではないという認識が広がりつつあるのだから。

 それにしても、今回の問題から見えてくることとしては、選考委員などの一般的に識者とされる人たちの権威の失墜ではないかと私は思う。これは何も今回の流行語大賞の件だけのことではない。あらゆる場面で、多くの国民がネットという情報ツールを手にしたことから、相対的に識者の地位低下が増大していることだと思う。
 そして、識者という代弁者を使いながら世論操作や企業イメージの向上を図っていた人たちが、対応に困り始めているのである。その代表はマスコミであり、自らの主張に近い人たちを利用しながら世論形成を行っていた手法が、ここにきて大きな効果の低減を目の当たりにしている状況と言っても良いだろう。

 私は「電波芸者」と呼んだりしている(http://d.hatena.ne.jp/job_joy/20150713/1436729156)が、自説を主張できる機会を得てそれが地位向上や所得向上に結び付く識者と、その意見を責任をなるべく負わない形で利用しようとするメディアとの共作が、世論を誘導できなくなっているということである。ただ、現状それを打開するための明確な手法をメディアはまだ見いだせてはいない。その上で、真の識者たちは多くのメディアに露出し続けられるほどには暇ではないのだ。
 今回は通信教育事業を行っているユーキャンがスポンサーであったが、ユーキャンとしてはお金を支払いながらも企業イメージを損なうという手痛い損失を被った形となっている。企業としては、本来イメージ向上や宣伝を狙って採用した識者ではあるが、世間との認識の乖離を理由にそっぽを向かれ貢献してくれなかった状況である。

 ショーンK問題などでもあったが、アイドルや俳優によるイメージ戦略以上の効果を期待して識者を利用するスタイルは、下手をすると大きなダメージになりかねないという教訓でもある。それは、アイドルなどの広告宣伝利用よりも随分難しい。
 ひょっとすると、こうしたダメージを積み重ねていくにつれて識者の利用が現在よりも減っていくようになる、あるいは当たり障りのないことしか言わない識者もどきが闊歩することに流れて行くのかもしれない。いや、既に今もそうなのだろう。そして、場所を失った人たちは活動の場所をより自由度の高いネットメディアに移していくことになる。こうして既存メディアの凋落は続いていく。

 そう考えると、私は社会的な言論の活発さを守るためにも、今回の流行語大賞選定の結果を保持するべきではないかと考えもするのだ。有名なヴォルテールの言葉、「私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る。」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%AB)。保護主義が力を増すことがほぼ確定的な時代の流れの中にいるからこそ、私はこの言葉を噛みしめたい。