Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

燃料電池車

 トヨタ燃料電池車「MIRAI」を発売すると発表した(http://getnews.jp/archives/705915)。ガソリン車から燃料電池車へのレジュームチェンジが容易に進まなかったこともあり、合間にハイブリッド車を挟んでの流れではあったが、先んじて燃料電池車開発に向かっていた世界が結局トヨタの後塵を拝している状況となっている。無論、他の自動車メーカーも燃料電池車自体は開発・発表済み(一部では市販済み)ではあるが、高コストに加えて関連装置のコンパクト化に十分至っていないため実験的な意味合いが強い。
 来年度にはホンダも発売すると発表している(http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1411/18/news048.html)。ハイブリッド車に続き両者が市場をリードする流れは続きそうである。もちろん、水素燃料ステーション設置(http://www.asahi.com/articles/ASG915FY2G91ULFA020.html)など実現に向けてのハードルはまだまだ高いが、大きな一歩を踏み出したのは間違いない。電気自動車(EV)よりも燃料補給にかかる時間が短く、蓄電池による重量増や走行距離の短さを克服できるという意味で、電気自動車を一気に飛び越えた変革でもある。

 水素は地球上にふんだんに存在し、化石燃料のようにその枯渇を心配する必要がないだけでなく、排気ガスの心配も必要なくなるというある種夢のようなシステムではあるが、だからと言って問題が全くない訳ではない。まず問題となるのが水素の配送についてである(http://president.jp/articles/-/12956)。水素の製造については合理化等の余地はあろうが、それよりも水素を如何に運ぶかと言うことが現状では容易ではない。水素ステーションの設置にも5〜6億が必要だとされており、補助金により半額が補填されてもガソリンスタンドよりも設置費用は高い(http://www.j-cast.com/2013/12/13191288.html?p=all)。
 岩谷産業(http://www.iwatani.co.jp/jpn/h2/car/station.html)は当面水素ステーションを儲け度外視で設置する方向性を示しているが、輸送と供給方式に関する技術開発(http://www.iwatani.co.jp/jpn/h2/tech/technique.html)が進まなければコストダウンはままならないであろう。その上で、儲け度外視で考えても現在のガソリン価格と比較して走行距離当たりのコストはあまり変わらないか、あるいはむしろガソリンの方が安い状況にある。
 コストが全てとは言わないが、紙のリサイクルでもあるようにコストは普及における最も大きな推進力であることに間違いはない(その次の推進力が法規制)。

 さて、コストと技術の問題以外にもう一つ気になっていることがある。それは安全性にまつわる意識の問題である。水素は本来非常に可燃性の高い燃料である。これは燃料としての有利さを示すことでもあるが、空気(特に酸素)と混合して爆発的に燃焼する状況はガソリンなどよりも劇的である。
 但し、水素は非常に軽い気体であるため空気中に放出されるとすぐに拡散してしまう。炎に加えられれば別ではあるが、拡散すれば爆発する危険性は大いに低下する(http://www.jari.or.jp/Portals/0/jhfc/column/story/03/index.html)。
 要するに容易にタンクから流出せず、万が一漏れた時には即座に拡散させることができればそれでよいということである(http://response.jp/article/2014/11/21/237925.html)。

 しかし、よく考えてみたら同じようなことが原発においても考えられていた。二重三重のセーフティーネットを維持し、厳重に管理されていたそれですら想定外の事態は起こり得た。先ほど危惧した「安全性にまつわる意識」とは、安全性そのものではなくそれを社会がどのように受け止めるかにある。
 論理的に考えれば安全性を担保できるはずではあるが、人間がそこに介在する以上完璧はありえない。ましてや原発と違い一般社会に普及させるものであり、その上でコストは普及上の足枷になっている状況を考えれば、必ずしも手放しで夢を喜べない部分もある。
 万が一と言う言葉が適切かどうかはわからないが、仮にミスが重なり水素ステーションでの爆発が生じれば、流れは一気に変わることも考えられる。水素ステーション設置に近隣から反対運動がおこり、その実現が無に帰することとなるだろう。確率論ではガソリンスタンドと違いがなかったとしてもである。一度危険と言う感覚が刷り込まれれば、これを解消するのは容易ではない。

 まあ、始める前から爆発を危惧して行わないという「羹に懲りて膾を吹く」状態を良しとするつもりもないが、まだまだ先が長い技術と考えておいた方が良いかもしれない。