Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

香港デモ

 香港でのデモ(雨傘革命)が長期化(http://www.bloomberg.co.jp/news/123-ND1X876KLVS101.html)するにつれて、中国共産党政府の意向を汲んだ香港政府が強硬な手段に出るのではないかと言う懸念が広まりつつある(http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0HV0GW20141006?sp=true)。それと同時に双方が落としどころを模索しているのではないかとする意見もある(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41901)。
 とにかく状況がどんどんと変化していくので、なかなかエントリとしてまとめられない状況が続いているが、そろそろ一度触れておくべき問題だと思うので入手できる情報が不十分なことを自覚しつつ少々書いてみたい。
 そもそもデモを実施している学生たちも政府が強硬手段に出る危険性を当初より認識しており、デモは非暴力を前提に比較的平和的に行われてきた。これは台湾におけるひまわり運動(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B0%E6%B9%BE%E5%AD%A6%E7%94%9F%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E7%AB%8B%E6%B3%95%E9%99%A2%E5%8D%A0%E6%8B%A0)を参考にしてきた感じがあるし、そのような報道も少なくない。ただ、香港でのデモは何もこれが初めてではなく、イギリスからの返還後も2度ほど多くなデモが実施され一定の見返りを獲得している。2度のデモ(2003年と2012年:http://jp.wsj.com/news/articles/SB11426559292233444529604580187181345060488)も騒乱が拡大して収拾がつかなくなるような状態には至らなかったこともあり、その経験と知識が生かされていると考えることもできよう。

 他にも様々な理由により天安門の凶行が再現される危険性は高くないと私は思うが、それでも皆無と言い切れるほどに共産党政府を信じられる訳ではない。武装警察の恫喝のつもりで行った行為がエスカレートの引き金を引く危険性は容易に想像できるだろう。
 そもそも中国の出島のような存在であり金融センターでもある香港の機能不全は、中国共産党政府も望むところではない。ただ、同時に全人代を経て決められたことを覆すという考えもつもりもない。危うくなりつつある共産党の権威を守る上でそこは決して譲れるものではないのだ。
 一方のデモを行っている学生側も、勝利条件をいろいろと模索しているところではないかと思う。力に屈しての妥協はしないながらも、どこかで折り合いを付けなければならないということは理解しているように現在のでも主導者たちからは感じている。現時点では明確化していないが、私には様相は条件闘争に移りつつあるような感じがしている。

 様々な情報に触れた方が良いので、ここ数日見られたいくつかの情報や意見を見てみよう。

・香港デモは譲歩を引き出せなくとも大きな意義、中国共産党が目指すのは日本の「自民党」か (http://diamond.jp/articles/-/60154)
香港人を行動に駆り立てる7つの理由−民主化だけじゃない(http://www.bloomberg.co.jp/news/123-ND0D1X6KLVR401.html
・香港デモの学生は夢追い人、加わる気ない-本土学生冷めた反応(http://www.bloomberg.co.jp/news/123-ND40I06JTSEA01.html
・著名民間研究者を刑事拘留=香港抗議支持で50人も―言論統制を一段強化・中国(http://www.msn.com/ja-jp/news/world/%E8%91%97%E5%90%8D%E6%B0%91%E9%96%93%E7%A0%94%E7%A9%B6%E8%80%85%E3%82%92%E5%88%91%E4%BA%8B%E6%8B%98%E7%95%99%EF%BC%9D%E9%A6%99%E6%B8%AF%E6%8A%97%E8%AD%B0%E6%94%AF%E6%8C%81%E3%81%A7%EF%BC%95%EF%BC%90%E4%BA%BA%E3%82%82%E2%80%95%E8%A8%80%E8%AB%96%E7%B5%B1%E5%88%B6%E3%82%92%E4%B8%80%E6%AE%B5%E5%BC%B7%E5%8C%96%E3%83%BB%E4%B8%AD%E5%9B%BD/ar-BB8Qz1S

 香港デモの最初のきっかけは、一国二制度を実質的に骨抜きにしようとする動きに対する反発とされるが、私はそれは表向きの方便であり根はもっと複雑なものではないかと予想している。もちろん情報通でもない私が考えていることにそれほどの根拠がある訳ではない。
 今回のそれは、2017年の行政長官選挙において選挙候補者が北京の息のかかったものに限定されてしまうシステムの導入に対する抵抗(http://jp.wsj.com/news/articles/SB11426559292233444529604580184830209723088)であり、その意思を明確にしようとした無秩序かつ多発的なデモである。
 自由な選挙を実現して、既に民主主義を実践してきた香港の姿を維持すると言うことに対しては私も賛成であり支持をしたい。わざわざ前近代的中国共産党一党支配システムに戻すことは、制度としては可能であっても一度根付いた意識やそれによる民意を従わせることはできやしない。だから、このように大きく継続的なデモが発生したのであろう。

 これは余談であるが、人権を主張するリベラルを表明されている人たちがこの問題に無関心に見えるのは、毎度のことながら見事なダブルスタンダードだと思う。チベットウイグル問題なども同じであるが、この問題を真剣に世界で取り上げようとしない彼らの語る人権は、その程度のものだと値踏みされても仕方がない。彼らが普段活動している内容よりも随分大きく切実な問題だと思うのだが。
 また別で取り上げたいと考えているのだが、産経新聞ソウル支局長の起訴および実質的行動制限を行っている状況(http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20141009-OYT1T50114.html)も似たようなものではないか。むしろ、あたかもそれを擁護しよう感じられる意見を表明する人が日本国内にいることに個人的には驚きを禁じ得ない(http://blogos.com/article/96334/)。確かに産経の記事が下品なものであったとしてもだ。

 話を元に戻すが、デモが行われた理由について建前上は保証されていたはずの民主主義を実質的に破棄されたと言う点であるが、内実は香港が埋没してしまうのではないかという焦りがあるのではないかとも思う。ほんの10年前には香港は中国にとって他の追随を許さないキラ星のような存在であった。他の中国国内の都市とは一線を画した図抜けた存在であったし、それ相応のプライドを持って生活を送ることができた。
 しかし、その良否は内情はともかくとしても中国各地はめざましい発展を遂げ、香港は唯一の地位から滑り落ちつつある。だからと言って、地理的な意味合いからも香港が一地方都市に没落するとは思えないが、香港人であって中国人ではないと考える人たちからすれば看過できないのではないかと推察する。
 そこに輪をかけて、実質的な中国の統制下に置かれるという状況を良しとしないのは、自由がなければ香港らしさを失うと考えることがあるだろう。逆に言えば、実質的な独立に近い状態を維持できるかどうかが瀬戸際と言うことである。
 短期的な意味では、現在のデモが香港の金融街の運営に若干とは言え影響を与えているということもあって、経済的な面での批判の声が聞こえてこないでもない。特に中国共産党政府との連携のもとに経済活動に勤しんでいる向きには面はゆい状況であろう。ただ、一方で上述のような不安感は一部の高所得者層以外の住民意識に広がっており、だからこそ明確な勝算がないにもかかわらず大規模デモが継続的に続いていると感じずにはいられない。

 中国共産党側としても、力でねじ伏せることは国際社会に大きく取り込まれている現在の中国の状況を考えると容易に踏み出せる選択肢ではない。ロシアのクリミア編入に見られる動きもあるが、既に一国二制度を認めている同一国家故に状況は全く異なる。
 しかし、妥協は国内に多数抱える不満分子に絶好の理由を与えるために決してできない。すると、デモの内部瓦解を進めるために扇動メンバーをもぐりこませて不協和音を生じさせたり、香港経済界からの圧力をかけるように手を尽くすなどの方法しかないのも事実である。結果として、デモメンバーが疲弊するまで引き伸ばししていくというのがもっとも可能性の高い戦法であろう。
 もちろん長期化が国内不満分子への触発する危険性も十分考えられるので、デモが徐々に衰退していく姿を演出できるのがべストであって、それに向けての様々な目立たない恫喝も行われていると思う。香港の価値をそれなりに維持したいのは共産党政府も同じである。そのタクトを誰が握るかと言う鍔迫り合いである。

 結果として、今回のデモはフェードアウトする方向に進むような気がしている。妥協とも言えない様な妥協で手を打つのか、はたまた偶発的なトラブルが生じてしまうのか。その可能性は何とも言えないが、双方の現状を考えると長期化させながらフェードアウトというのが案外双方が許容できる落としどころかもしれない。