Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

はだしのゲン問題

 松江市教育委員会が、漫画であるはだしのゲン(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AF%E3%81%A0%E3%81%97%E3%81%AE%E3%82%B2%E3%83%B3)を開架書架から閉架書架へ移すように要請した問題がニュースとなっている。この要請自体は昨年末に行われていたが、この時期に問題とされたのは終戦の日に関連した思惑があってかもしれないが、本当のところはわからない。
 はだしのゲン自体については、すでにいくつかのブログ等においても触れられているが、最初の4巻(第一部)は集英社の少年ジャンプにおいて連載されていたが、読者のアンケートによる共感を十分に得られずに打ち切りとなっている。
 その後別の雑誌(市民、文化評論)に移り連載が継続され、最終的には日教組の機関誌において連載が続けられた。そのため、第一部(4巻まで)は少年誌としての内容となっているが、その後(5〜10巻)については少年向けの内容ではない。
 また、5巻以降はかなり思想色の強い内容となっている部分もあるが、そこで書かれた内容は創作や伝聞による部分が多いとされている。今回教育委員会に置いて問題とされた内容もこの第二部(5巻以降)に書かれたものであって、旧日本軍が「中国人の首を面白がって切り落とした」「妊婦の腹を切りさいて中の赤ん坊を引っ張り出した」「女性器の中に一升ビンがどれだけ入るかたたきこんで骨盤をくだいて殺した」といった記述が問題とされている。

 この経緯を見ると、5巻以降については低年齢の子供が見るに耐えうる内容かどうかについては疑問があるという意見にも頷ける面はある。ただ私の個人的感想を言わせてもらえれば、私も子供時代に読んだことはあるが正直あまり記憶には残っていない。
 作者が意図していたような、原爆に対するトラウマから戦争に対する嫌悪感を高めると言うよりは、単純に面白くなかったのでそれほど興味が湧かなかったというのが実感である。だから、この作品を見たからと言って思想をコントロールされるほどのことはなかったと思う。もっとも、多くの人たちと同様に若い頃はリベラル系でいることの方が格好いいと思っていた面はあった。ただ、それはおそらく反省教育と言うよりは当時の世相が影響していたのではないかと感じている。

 「はだしのゲン」は現代の基準に当てはめればおそらく問題のある図書と言うことになるのかも知れないが、歴史的経緯を考えれば私自身はどちらでも良いと考える。敢えて閉架書架に変更する必要も感じないし、同時にかつての時代背景を理解する上での資料として考えるのであれば、小学校は閉架としても中学校以上では普通に読めればよいのではないかと思う。
 今の子供たちはネットにも習熟しており、正直言ってはだしのゲンの全てを鵜呑みにして悪影響を受けるなどと言うのは考えすぎだと思うのだ。
 確かに、筋道論を聞けば閉架(あるいは第二部のみ閉架に移す)という判断が最も妥当なのかも知れないが、法律に遡及がないようにこのような歴史的な作品にも一定の解説を付ければ解放しても良いのではないかと考える。

 むしろ、この程度のことで日本が敗戦を反省していないとか、戦争に向かっているなどと言う馬鹿げた指摘に勢いを与えてしまう方が短期的にはデメリットが大きいのではないだろうか。少なくとも日本では思想と表現の自由は保障されており、それこそが日本という国家が今後も十分に存続し続けられる大きな要因の一つであると思う。
 とりあえず、世論を割って争うような問題ではないと個人的には考えている。