Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

BRICS危機

欧州危機は、ここのところまるで収束するかのような落ち着きようになりつつあるが、欧州が無理矢理それを抑えることができたとしても、今度はそれがBRICSへと波及していく可能性は十分に考えられる。リーマンショック後に、欧米の低迷を支えるのはBRICSともてはやされ、確かに中国などは巨大内需振興策で一時的に世界の景気を牽引したのは事実である。ただ、その雲行きが必ずしも良い加減にあるとは言い切れない。

イタリア最大手の銀行ウニクレディトが新年早々増資を試みようとしたが、市場の評価は非常に厳しくその時点の株価よりも43%も低い割引価格による増資とならざるを得なかった(Bloomberghttp://www.bloomberg.co.jp/news/123-LXC78Z0YHQ0X01.html)。既存株主としては許せないような暴挙であろうが、自己資本比率を高めることが義務づけられている状況では大規模な増資(市場から集めるか、政府の支援を求める)を行うか、あるいは融資を大幅に絞って資金を引き揚げてくるかしかない。融資の引き上げは収益を低下させるため、企業経営上は容易に決断できるものではない。
ウニクレディトの決断は、それ故の大幅ディスカウントによる増資であった。

しかし、この出来事は欧州市場参加者達を不安に駆らせたのも事実である。すなわち、政府の支援を仰げば経営の独自性が失われ(あるいは経営陣の責任を問われ)、増資をすれば市場から低い評価を受けることで株主利益を毀損する。
すなわち、今後自己資本比率を高めなければならない多くの銀行は、増資よりは企業収益上有利ではなくとも融資の引き上げを選択せずるを得なくなったと言うことだ。
実際、大幅な含み損があるのではないかと噂されるドイツ第2位のコメルツ銀行は、融資を絞る(すなわち、資金の引き上げ)を選択することで自己資本比率の引き上げを行うとした(日本経済新聞http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C93819691E0E2E2E2E68DE0E2E2E3E0E2E3E09C9CEAE2E2E2)。これは、日本のバブル崩壊後にさんざん問題となった「貸し渋り」「貸しはがし」が生じると言うことを意味している。しかも、問題なのはそれが世界的規模で行われると言うことである。
欧州の銀行は、何もEU内のみに資金を貸しているわけではない。EUには加入していない東ヨーロッパ諸国にも貸しているし、中東にも大きく貸している。あるいは、BRICSやその他の成長しつつある国々の企業などにも資金を貸し付けている。

だとすると、必要な資金はこうした国々に貸し出された資金を引き揚げることにより賄われる可能性は高い。銀行が自国内に貸し出している資金を引き揚げようとすれば、自国内企業の倒産を引き起こし失業者を増加させることになるが、政治的にそれが容認される可能性は低い。
現実に、昨年の中国における資金状況はすでに流出に転じている。それがどの程度欧州の資金かはわからないものの、各地で引き上げられるものから少しずつ資金を引き揚げるという行為が行われているのであろう。もちろん、資金を引き揚げるにしても契約を破棄してまで無茶な引き上げはそれほど行われていないであろうが(それが見つかれば、その銀行は危ないとの噂が流れるため)、それ故に急激ではなくとも継続的な資金の引き上げが続くことになる。

韓国が日本に通貨スワップを拡大して欲しいとこっそり頼むのも、こうした資金に移動に備えてであるし、中国の国債を日本が購入するという動きも直接的には関係なくとも同じ構図の上にあるのではないだろうか。
だとすれば、こうして資金が逃げていく国々はその逃げた資金を何かで賄わなければ景気の大幅な失速を招くことになる。政府に余力があるならば政府資金でそれを賄うことになるのであるが、残念なことに中国などは既にリーマンショック後に大幅な政府支出を行っており、それを繰り返せば国内に大きなインフレを生じさせる危険性が高まってしまう。

今後、欧州の銀行がどのようなペースで資金を引き揚げることになるかは、欧州諸国の国債価格がどこまで下がるかにかかっている。ギリシャについては大幅な下落はおおかた織り込み済みかもしれないが、それがイタリアやスペインに波及してしまえば今とは比べものにならない問題となろう。それを防ぐべく様々な手が講じられているのが現在ではあるが、時間稼ぎには成功しているものの根本問題は、銀行の資本増強しかあり得ない。それを政府資金の注入を嫌う限り世界に貸し出された資金は優先順位の低い順番に引き上げられていくことになる。おそらく、日本の銀行にはその後の資金需要を賄うように様々なオファーが来ているであろうが、各種債権をもっと安く買えるまで(欧州が投げ売りするまで)待っているというのが現状ではないか。おそらく高いリスクは取りたくないと思っているだろう。アジア関係などでは、日本政府に早期に手当をするように政府間でも要望が来ているのではないかと思う。これは、日本国内の企業からしても同じで、現状輸出が最も多い地域はアジアであるからしてそこに危機的な混乱が生じることは日本経済としても困るというわけである。・・・要するに、日本が助けろと言うことだ。民間銀行の努力ではいかんともしがたいため、そのうち政府主導の救済基金の話もでてくるかもしれない。ただ、今回の欧州資金の代わりを日本が全て行えるかと言えばおそらく難しい。

さて、BRICS諸国やその他の新興国が一時的な資金の引き上げに耐えきれるのであろうか。
仮に欧州が資金引き上げによって危機を先延ばしすることに成功しても、それはツケを他の国に回すことになるだけであって、最初に崩れるのがどこかというドミノ倒しの起点を探すようなことになるように感じている。

「世界は昔よりずっと強く資金で結びついている。一カ所のほころびを強くふさげば別の場所にほころびが生じてしまう。」