貿易の停滞

バルチック海運指数(BDI)という公表データがある。
一般的には石炭・鉄鉱石・穀物などの乾いた貨物(原油などを除く)を国際的に運搬する外航不定期船の運賃を指数化した統計データである。（wiki：http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF%E6%B5%B7%E9%81%8B%E6%8C%87%E6%95%B0）
一般的に、貿易が盛んに行われていればいるほど高い値を付ける。

この数値が、本日893と言う低い値を付けた。
（Investwalkerチャート：http://www.investwalker.jp/commodities/transportation/baratumisen/bdi/）
これは、リーマンショック以来の低い値である。
（Bloomberg：http://www.bloomberg.com/apps/quote?ticker=BDIY&exch=IND&x=15&y=11　チャートの長さを5Y(5年)で選択するとそれ以前との違いがわかる）
リーマンショック以前にはBRICSの盛んな経済活動の増大もあって5000を超える数値を付けていたが、リーマンショック後に急落して770程度まで低下した。しかし、その後は世界的な金融緩和なども後押しして上下動はあるもののおよそ2000〜3000程度の数値を付け続けていた。ここ1年ほどは欧州危機のせいもあってジリジリと低迷してきたが、それが底抜けしようとしているようにも感じられる。

これは、各国の企業などが貿易を大きく絞っているということもあるが、同時に輸送船の過剰な製造が響いている点も見逃せない。大型貨物船の製造には数年の期間が必要であり、2006年頃の世界的に景気の良かった時期にかなりの量の新型船舶が発注された。リーマンショック後にかなりの発注が取り消されたとされている（http://www.bloomberg.co.jp/news/123-K0QMSW1A1I4H01.html）が、それでも船舶の数は増えている。
船舶数の増加があるので、バルチック海運指数の数値の大幅な低下が即貿易量の大幅な低下と結びつくわけではないのだが、そうではあってもここに来ての指数低下の衝撃は小さくない。ちょうどここ１〜２週間ほどはアメリカの株式市場の上昇に引っ張られるように世界の株式市場が上昇しているが、現状の貿易の停滞は経済が上向きになるのとは相反する現象である。
要するに、経済活動が活発になることに応じて株式市場が上昇しているのではなく、債券市場という世界で最も巨大な資金需要のある市場から逃げ出したお金が株式市場という2番目に大きな所に流れ込んでいるという構図である。しかし、原油と金を除く商品は上昇の気配を見せていない。要するに、溢れた資金が少しでも安全そうな場所を探して動き回っているのであろう。
幸いにもギリシャのデフォルトについては、3月20日頃にデフォルトの可能性が高いといくつかの格付け機関などが指摘している（ギリシャ債務交換協議の予想される結果と市場動向：ロイター：http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPTK806482420120120）。逆に言えば3月上旬までにはまだ時間があるので、その間に稼げるところで大きく動かしておこうという思惑があるかもしれない。

バルチック海運指数の低迷が貿易の停滞を結果的に示しているとしても、それが貿易の停滞を促進するわけではない。あくまで、世界的な需要の低迷が生じていると言うことの反映である。現状、海運の供給が需要を大きく上回っている事実が現れているのみである。だから現時点では大きな運送能力は生きている。ただ、このような状況が長期間続くことになれば現在でも海運事業者はペイしない賃金での輸送を請け負っている状況であり、将来的な海運事業の世界的倒産・撤退を招くことが推測できる。事業撤退は海運による運搬力を縮小することで均衡化されるが、逆に言えばそれが景気回復時の大きなネックになる危険性を秘めている。

欧州の危機は、先延ばしを続けることで急激なダメージは生じにくくなっているものの、今後長期の停滞を招くであろう。そして、中国においても短期的な反発派ともかく長期的に体制が安定するかどうかは微妙である(中国におけるジニ係数が限界点の0.5を超えていると予測する向きもある)。貿易の停滞は、中国の輸出入の停滞とも大きくリンクする。政府は、ものが大きく動かない時代への対応を早急に考えておく必要があるだろう。

「貿易は世界の血液（栄養分輸送）である。それは決済資金のドルと共に停滞するとその歪みがどこかに現れる。」