Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

TPPと官僚不信・政治不信

何度も書いているが私は基本的にTPPには懐疑的である。
もっとも、だからといって自由貿易の全てを否定するつもりもない。大きな枠組みとしてのそれは悪い話ではないと思う。しかし、だからといって今、この形のTPPが最も良いのか?その参加の是非を問うのが全てなのかと言えば疑問を感じている。わざわざアメリカが手ぐすねを引いている罠を作っているところに、馬鹿正直に行く必要はないではないか。
言い方を変えれば、TPPとは異なる日本にとって有利な経済協定をなぜ実現できないかという問題があまり議論されないことにいらだっていると言っても良い。
ヨーロッパがいろいろな規格を自ら世界標準に押し立てることは有名な話である。
ISO規格もその一つだし、スポーツのルールなどはその典型である。
そして、日本は定められたルールを一端不利と知りながら受け入れ、そこから改善して再度強い立場を得るようになる。
一方で、アメリカはグローバルスタンダードという自国のシステムの押しつけを行う。
これも見方を変えれば欧州のパターンと何ら変わらないが、欧州は一応利害の近い各国の合意を形式的にも経ている分、まだマシかもしれない。
日本はルールを作る側にもっと主体的に回らなければならない。

だから、TPPについても交渉を有利に進めるためにまず早期に参加すべしという意見がある。
これは確かにその通りであろう。
日本は、日本人が思う以上にタフネゴシエーターである。ただ、それを誇らないだけなのだ。
だから、見かけ上譲歩したように見せかけて実利を取るという意味では日本は決して無能ではない。
もちろん、その交渉の主体は政府ではなく官僚機構であり、民間企業(経済団体)のバックアップであった。
言い方はおかしいかもしれないが、政治家がそれほど役に立たないから彼らは少なくとも日本をしょって交渉に挑んでいたのである。

問題は、現状TPPにおいて日本がそのタフネゴシエーターぶりを本当に発揮できるのかという点にある。
今私はその点について懐疑的なのだ。
それは、政治主導の名の下に官僚組織の責任感を貶めた政治があること。
加えて、政府の無策による輸出系民間企業の苦しみが、彼らをよりエゴイスティックにさせていることである。
すなわち、かつては日本の国益を代弁してきた両者の意識が低くなっていると感じられることである。
いざとなれば政治家に責任を擦り付けることができる。何せ政治主導なのだ。

TPP反対論者は、多国間交渉ではその途中で離脱できるケースは稀であるとして、交渉に入ることそのものが危険だという。それはとりもなおさず、離脱という決断を誰がするのかという問題に帰着する。
今の状態ではおそらく民主党政権が行うのだ。
そのことを冷静に考えてみれば、現状の政権にそのような重大な決断を任せられるかという疑念は多く御国民が抱くであろう。
すなわち、国民も現状では交渉の主導権が官僚から取り上げられており、政治家が稚拙な損得勘定で誤った決断をするのではないかと考えているのだと思う。さらに言えば、その失敗の尻ぬぐいができるのも当然政治家ではない。しかし、愚かな決断を下した政治家の尻ぬぐいを今の官僚達が真剣に行うであろうか?

要するに、交渉段階ではそれなりに官僚はタフネゴシエーターぶりを発揮するかもしれない。しかし、最終決断をする段階において平等かつ公平な論理とは異なる別の圧力により政治的決着を図られてしまうのではないかという危惧を抱いているのである。そして、それを身を挺して防ぐような官僚が今どれだけいるのであろうか?

だから本来は政治不信が生み出している問題なのだが、そもそも政治家が交渉ごとで信用されていない現代日本においては、その歯止めとして機能すべき官僚機構そのものがもはや信用される存在でなくなりつつあると言うことなのだと思う。
私はちまたで囁かれるほど、日本の官僚機構は無能でお気楽だとは思っていない。確かに政策的な間違いも多いし、問題も数多くあるのも事実だろう。それでも、世界の中では最も優秀な部類に入るとは今でも思っている。
結局それを台無しにしているのは政治の無能なのだ。

さて、TPPについては別の意見もある。
それは対中国に対する貿易上のプレッシャーである。
中国は、TPPに参加するつもりなどない。それは、中国にとって有利な交渉ではないためだ。
韓国も参加はやめてFTAにしている。これもそうした判断があったからであろう。
だから、逆に日本が参加することが中国や韓国に対するプレッシャーになるとの意見もある。
その面が全くないとは私は思わない。
TPPは経済危機の時代における一種のブロック経済圏なのだ。そして、日本が得なければならないのは食糧とエネルギーが確保できる仲間である。だとすれば、TPPはそういう意味では意義がある。少なくとも参加国の多くは資源と食料を輸出する国なのだ。すなわち、日本と補完関係にある。
そして、補完関係にあるからこそ協力する意味があり、同時に日本が弱い分野はその補完関係によってますます厳しい状況に置かれる。それを受け入れるかどうかが現状問われている。

さて、日本はエネルギー・食糧安保をどのような形で保持し得るのか。これは大きな問題である。
その確保のためには多少の日本の譲歩が必要なのも間違いないであろう。
ただし、それがバランスの取れたものなのかは大きな問題でもある。
潜在的な競争相手である中国や韓国と比して、有利なポジションに立てるのであればという前提が必要なのだ。

さて、TPPはブロック経済圏として日本にメリットをもたらすのか?
それとも日本は簒奪される国として位置づけられるのか?
現状のように戦略的な動きが少なく、外交において後手ばかりを取っている状況において、より有利な位置を得られるかと聞かれれば、容易ではないように私には思える。

「外交を戦いだと認識していない民主党に重要な外交交渉は任せられない。」