Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

円高は是か非か

欧州の金融危機は、日米欧の中央銀行が通貨スワップを利用して無制限のドルを銀行に供給するということで、一時的に不安感が弱まった。加えて、ドイツとフランスがギリシャをデフォルトさせない(ユーロから離脱させない)と宣言したことも、その信憑性はともかく一時的なパニックを防ぐのには役立ったと言えるだろう。
すなわち、今すぐのギリシャデフォルトはなさそうだということで、売りすぎていた株式を買い戻している段階なのだろう。実際、若干の不協和音が報道されただけですぐに株価も下落している。

とは言いつつも、紆余曲折はあるものの欧州の金融危機は回避の目処が立つのであろうか?
おそらくそうではない。
単純に今回も先延ばしされただけだろう。
理想は、できる限り先延ばししている間に経済が自律的に回復すること。
そうすれば、何もかも上手く行く。しかし、自律的回復にはほど遠いのが現状である。
私はそれは幻想だと思う。
どちらにしても、ユーロの混乱が続く限り対ユーロにおける円高基調は変わらないだろう。

一方のアメリカと言えば、こちらもユーロよりはマシと言うだけであまり調子が良いわけではない。
現状でも約4500万人がフードスタンプ使用とというニュースも流れていた。
フードスタンプは食糧配給である。日本の炊き出しほどの切迫感はないかもしれないが、それを利用している人がこんなにいることは馬鹿にならない。
バーナンキのQE2によって、株式は日欧米の中で最も高く維持できている。
市中の国民に回すことはFRBにはできないが、少なくとも金融機関にはそれを回せる。
そして、株高は国民の株式保有率の高いアメリカにおいては、結果的に個人消費を刺激する。

ただ、上記のアメリカにおける二つの現象を見ても二極化の問題は深刻だ。
現在、失業率は横ばいかやや改善ではあるものの、半年以上に及ぶ長期失業者の数はむしろ増加している。
持つべき者はやっていけるが、持たざる者はますます困窮に向かう。
それが導くのは社会の不安定化であろう。

ただ、FRBがドルをばらまく姿勢を現時点では取り下げていない。ヘリコプターベンの面目躍如ではあるが、すなわち対ドルにおいても円はやはり容易には安くなりそうにはない。

もちろん、日本には円が安くなる要因などいくらでもある。
大震災の影響は、日本の生産活動を一時的に減退させた。
電力不足は、今後も産業界を苦しめる可能性が低くない。
加えて、政治の混迷は円を強くする要因ではない。

しかし、日銀の頑迷なるマネタリーベース増加拒否の姿勢は円を間違いなく強くしているし、政府の増税路線は今後もデフレを定着させ、結果的に円高を誘引する。円高を回避したければ、国内政策を変えればそれは可能なのであるものの、現状ではそれをするつもりはない。
現状においては基本的に円高は日本という国の国策となっている。

さて、この円高で苦しんでいる輸出企業は多い。
経団連も、強く円高対策を要求している。
では、円高を何とかすれば日本は良くなるのか?
実は、円高は日本経済不調の原因ではない。円高はあくまで現在の経済政策の結果なのである。
だから、是正するとすればそれは円高ではなくて、政策スタンスなのだ。

例えば、日銀が円を刷って市場にばらまけばその分円は安くなる。これは間違いない。
その量とタイミングは十分考慮されなければならないが、だからといってそれは辞める理由にはならない。
現状、復興にも費用が必要だ。
その上日本はデフレに苦しんでいる。ものが余っているのである。
だとすれば、お金を増やすことはそんなにおかしなことではない。

この数年、この議論はいろいろなところで巻き起こり、最近では識者もTVなどでその発言をすることも増えてきた。だが、現状では財務省も日銀も方針を変えるつもりはなさそうである。

では円高は日本にとって良いことなのか悪いことなのか?
私はおおざっぱには中立だと思っている。
円高や円安はそれ自体が国トータルとしては悪いことでも良いことでもない。
単純には、それによって日本国内でも有利な部分と不利な部分があるというに過ぎない。
例えば、国民にとっては短期的にはメリット、長期的にはややデメリットといった感じだろうか。
企業で見れば、輸出業はきつい。それは間違いない。
しかし、逆に輸入業は大きなメリットがある。
また日本の大企業は、既に海外の生産拠点を多く有している。
為替予約なども駆使して、為替変動による影響をかなり抑え込んでいる。
企業によっては円高の方がメリットがあるなんて企業すらあるのである。
ただ難点もある。それあ海外投資で得られる利益が円高により目減りすること。
現在、日本は海外投資からの収益(金利・配当、その他)が年間に10兆円もある。

円高は中立だとしても、急激な為替変動は問題がある。逆に円高で、安定すればまだショックは小さい。
ただ、中小企業はそうはいかない。
大企業が日本での生産を諦めてしまえば、死活問題となる。
有望な国内市場を見付けられなければ、存続に大きな危険信号がともるであろう。
それが、日本の技術流出を引き起こす危険性も既に指摘されている。
だとすれば、国の政策で保護するという流れがないわけではないだろう。

私は日本の景気が良く感じられるようになるためには、日本の中小企業が儲かるようにならなければならないと思っている。そこからのお金の流れが最も国民に近いお金の流れを生じさせるからだ。
大企業、特に輸出企業は今や国民からは一番遠い。
だから、輸出系大企業が儲かっても国民の生活があまり楽になるわけではない。

そう考えると、マスコミが喧伝するほどは円高は日本にとってマイナスではない。
もちろん物事には常に二面性がある。
円高のデメリットも当然ながら皆無ではない。それは国内雇用の減少につながるからだ。
それは将来的に国民生活をじわじわと苦しめる要因でもある。
しかし、これも不可避ではない。
内需振興ができれば、時間はかかるものの代替解消できるものでもある。

だから、国民レベルでの理想を言えば円高のままで内需が振興すれば万々歳というわけだ。
残念ながらそんなに上手く行くはずもなく、少なくともこれまでの政策では達成できてはいない。
お金をばらまけば、内需は振興し、円安になる。
しかし、それでも十分日本全体としては内需拡大で景気は今より良くなるので問題はない。

さて、最初の方の話に戻る。
日本が、お金をばらまけば円安になる。
世界が進める通貨安戦争への堂々たる参入だ。
これは、正直言えば終わりのない戦いになる。
世界中が同じように通貨安を目指せば、為替差益差損はなくなる。
残るのは、通貨安のために巻き散らかしたマネーであり、その結果として残るインフレとなるだろう。
ばらまいたお金の回収は、金融政策ではカバーしきれずにインフレによって吸収することになる。
それが景気回復を伴えばよいが、伴わなければスタグフレーション:最悪の景気状態となる。

私は、個人的には世界の景気というのは中立なのではないかと思っている。
それは地域的なものと時間的なものに分かれる。
地域的にも、景気の良い地域と悪い地域が必ず存在する。
時間的にも、景気の良い時期と悪い時期は必ず存在する。
地域と時間という2つのパラメーターが存在するため、景気の総計は時間に対して一定ではない。
ただ、一定期間を累積すればそれは平均化される。

私達は、各国で地域的なそれと時間的なそれを奪い合っている。
世界が平和であるためには安定的にそれが推移すればよいが、残念ながら今の世界は平均的ではない。
それ故、好況感の奪い合いが常に世界で生じている。
地域的な奪い合いに勝つのは国家としては意味があることだが、それがその国の時間的な景気先食いを誘発していればいずれは失速する。

通貨高とは、基本的にこの両者の継続性に対して与えられる市場の評価ではないかと感じている。
日本は貿易黒字である。それは現状の超円高状態であっても、実のところ変わっていない(震災時の一時的な落ち込みはあったが)。日本はその得た富を国内に環流すれば当然国内景気はある程度活性化する。ただ、現状ではその富は海外に再投資されている。だとすれば、地域間競争で得た好況の種を時間的に未来に投資している状況にある。
その結果として国内が長引く不況に苦しんでいるというのは笑えないジョークのようではあるが、未来への投資は短期的な成果が見えにくい。
アメリカは、未来を捨てて現在の地域間に勝ち続ける戦略だし、韓国も同じ方針に見える。

今後、そう遠くない時期に世界景気が再度回復し始めるとすれば、現状において多少無理をしても地域間競争に勝ち残る戦略は価値を持つ。
しかし、今後も相当期間景気の回復が見られないとすれば、現状無理をするよりは時間的な良い頃合いまでじっくりと待つという戦略も考えられる。その良い頃合いを見極められるかどうかと言えばなかなか難しいとは思うが、現状時間的な貯金を行い世界景気が底を迎える時期に一定の貯金を有しておく。
そして、底を見定めた後に一気に景気を向上させるとすれば意味があるのかもしれない。
それは、あたかもこれからさらに来る嵐に対して防御態勢を整えていると言って良い。

果たして、今の日本は今後をどのように予測して、現状の円高を容認しているのか?
考え出せばきりがない。

「結局、円高であろうが円安であろうが、政府は内需拡大を進めるしかない。」