Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

グローバル化の弊害

こんな記事を見かけた。
「5月の生活保護受給者203万人、過去最多迫る」
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110906/dst11090619130022-n1.htm

生活保護世帯の数が増加し続けているのは少し前から言われてきた。
大阪市などは、生活保護の認定が比較的緩いという噂が広まり、他の自治体からあっせんしてまで送り込まれさえしてきた。

生活保護のあり方についても、その数が増えてきたが故に社会問題となりつつあるが、その根本問題については別の機会に取り上げたい。
今回は、なぜ生活保護が増え続けているのかについて考えてみたい。

それは、景気が悪いから。
確かに日本はずっと景気がよいわけではない。
失われた20年とまで言われているのは、誰もがよく知っている。
しかし、では日本は世界と比べてとても景気が悪いのか?と問われれば、そうでもない。緩やかに悪いのだ。
他国が景気よくなっているときも日本の景気は飛び抜けて上昇しなかった。
一方で、他国が金融危機により極端な落ち込みをしたときも、バブル処理後の日本は一緒になって落ち込みはしなかった。むしろ、危機に対して援助を施している(IMFへの拠出など)。

要するに、浮き沈みのない微妙に悪い状態を続けているというのが日本の状態である(あくまで世界の国々と比較しての話であって、当然景気変動は悪いなりにも存在する)。

だとすれば、今急に景気が悪化したわけではない。
その割には、生活保護世帯数はどんどんと増えている。
国立社会保障・人口問題研究所の統計によれば
http://www.ipss.go.jp/s-info/j/seiho/seiho.asp

平成     年度累計世帯数  月平均世帯数  保護率(‰)

10        7,956,725    663,060    14.9
11        8,448,659     704,055    15.7
12        9,015,632     751,303    16.5
13        9,662,022     805,169    17.6
14       10,451,173     870,931    18.9
15       11,295,238     941,270    20.6
16       11,986,644     998,887    21.6
17       12,498,099   1,041,508    22.1
18       12,909,835   1,075,820    22.6
19       13,263,296   1,105,275    23.0
20       13,785,189   1,148,766    24.0
21       15,290,768   1,274,231    26.5


以上のような状況にある。
ここ10年で倍に増加している。ちなみに、月あたりの保護者数(世帯数ではない)は平成10年で94.7万人、平成21年には176.3万人となっている。これが今年の5月に200万人を超えたとすれば、実人数としても10年あまりで倍に増加したことになる。

ちなみに、この議論をすれば外国人の受給率が非常に高いという声が出てくるが、これは正直言って偏見に基づくデマである。
その割合については、情報の海の漂流者さんがグラフ化してくれている(平成19年度分)。
http://d.hatena.ne.jp/fut573/20091109/1257722178
外国人の受給割合はおおむね3%で、この割合は近年では大きな変動はない。日本に居住する外国人が約220万人なので、人口割合で言えば2%程度となる。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1180.html
若干、日本人よりは受給割合が高いものの、桁が違うなどというレベルで突出しているわけではない。

景気の悪化がこの10年で極端に落ち込んだと言うほどではない。
それにも関わらず、生活保護世帯は順調に増加している。
理由として想定できるのは、老人単独世帯の増加であろう。
統計資料によれば、高齢者世帯の受給世帯数は、平成10年には29万世帯であったのが、平成21年には56.4万世帯となっている。
全受給世帯数に対する割合は、平成10年が43.7%に対して平成21年が44.3%となっている。
意外なことだが、確かに実数として伸びてはいるものの全体の増加比率とほとんど変わらない。だとすれば、現在の生活保護の増加は単純に老人世帯の増加だけではないと言うことである。ちなみに、母子家庭数は老人世帯数の約1/6程度であって、こちらも実数は増えているが全体における割合には変化がない。

すなわち、独居老人の増加や、離婚等による社会構造の変化による受給者の増加が主たる原因ではないのである。

そこで、推論を働かせてみる。
これは、正規雇用の減少が招いた結果ではないのだろうか?
この推論が正しいかどうかはわからない。
だが、仮にそうだとすれば正規雇用の減少はなぜ発生したのか?

一つはデフレである。デフレによる企業売り上げの減少が、雇用者を減らし続けている。
そして、もう一つが輸出系企業による国内雇用の減少であろう。
なぜ、輸出企業が国内雇用を削るのか?
それはグローバル化による世界的な競争が、より人件費の安い雇用を要求するようになり、その圧力が引き起こしている事態ではないだろうか。

グローバル化は国内雇用を減退させることについては、昔から言われてきた。企業は人件費を抑えて世界で勝負する。その結果、企業は存続できるであろう。ただ、日本国民は収入をきちんと得る正規社員と、不安定な身分の非正規社員に2極化する。
平均値を取ればそれなりの年収にはなるかもしれない。
しかし、2極化が拡大すればするほど、生活保護にまで落ちてしまう人も増えるのではないかと思う。

「現在の社会における最も重要なことは、機会均等が守られなくなっていることにある。スタート時点からの差が埋めきれない社会。ただ、それを結果を見て埋めるのは間違っている。」