Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

地域づくり特許

 地域振興は人口減少を起因として衰退の色が見える日本において喫緊の課題であることは間違いないだろう。大都市(というより東京一極)集中は、確かに日本の能力を一か所にまとめることで大きな力を発揮できたかもしれないが、同時に東京以外の多発的な活動の広がりの足を引っ張ってきたとも言える。
 確かに、東京集中は今となっては政策的な誘導によるものではなく社会の自発的な行動であろうが、今の日本をより面白くしていくためにはむしろ政策的に多極化を今以上に推進すべきではないかと思う。もちろん、現在も日本各地では様々な取り組みが行われている。それを取り上げ、メディアなども巻き込み宣伝が行われているのだが、一定の効果を発揮している地域もあればそうでない地域もある。そこで生き残るために必要とされるのはオリジナリティであるだろう。

 だが、日本国中の取組を見るとどこかで見たことのある様なものが少なくない。地域づくりは基本的にアイデア勝負である。すなわち、容易に真似ることが可能である。そして、また安易に新しい取り組みを始めようとする時、他地域の面白そうな取り組みを模倣するところからスタートする。
 その結果何が生じるのか。オリジナリティの乏しい既知感のある風景が、日本のあちこちで広がっていくのだ。果たしてそれは将来を見通して望まれるような姿なのだろうか。

 地方自治体では、一部に様々な面白く新しい取り組みを行い、成功したと報道されているところがある。例えば老人の見守りシステムや、子どもたちの就労体験など、教育や福祉の関連のそれは、成功したスタイルを他の自治体もどんどんと真似て、さらに自分たちに地域特性に合わせて改良を加えていけば、住みやすさが向上していくと私も思う。他地域の活動を真似ることが良い事例が数多くあるのは間違いない。だが、一方で地域の魅力づくりという分野になった場合、同じような取り組みが全国で認められるのはむしろ弊害にはならないかと思うのだ。
 現実に二番煎じの取組をしたものの、全く活性化に至っていないと見受けられる地域も数多く存在している。そうした失敗事例は単に報道されない、報告書はあったとしても広く閲覧されることもなく人知れず消え去っていく。

 確かに、成功事例を真似るというのは手軽なやり方である。時には、モノマネでもある程度上手く行くこともある。また、前述のように分野によっては真似ることの方が望ましい場合もあるだろう。だが、こと地域づくりとなった場合には話が違う。地域づくりとは一種の競争なのだ。みんな一緒にやっていこうというものではない。海外からの観光客を考えるとゼロサムゲームではないが、だからと言って魅力が無ければ誰も人はやってこない。
 どこにでもある様なイベントで一時的に賑わいを見せても、それが終われば閑古鳥が鳴くということもごく普通の光景である。だからこそ、地域づくりには個性やオリジナリティが不可欠なのだと私は思う。運営方法や仕組みづくりについて良い事例を真似ることは推奨したいくらいだが、コアコンテンツの中身については厳しい競争だと認識すべきだと思う。
 オリジナル。これを産み出すのは一般的な役所仕事ではなかなか難しい面もあるだろう。少なくとも人真似が許されない訳だから、何かを産み出せる人が携わらなければならない。もちろんセンスも必要で、何でも他と異なればよいというものでもない。そこには大きな生みの苦しみがあるだろう。
 だが、実際多くの地域が真似るような成功事例についても、オリジナルの試みは数々の試行錯誤を経てようやくたどり着いた貴重なものだと思うのだ。そのアイデアはあまり保護されずに、気付くと類似事例があちこちに広がっていくという結果になる。そしてオリジナルの価値は知らず知らずのうちに毀損されている。それでも確かにオリジナルの存在は強い。また、真似る事例が出てくることでオリジナルの取り組みが広く知られるという一面もあるだろう。

 そこでは、私は「地域づくり特許」という仕組みを作れないかと思う。アイデアに対しては、いくつかの工業所有権や著作権で保護することはできる。また、あまりに権利保護が行き過ぎるのも他地域の行動を過度に縛り付けるので好ましくない。だが、程よいレベルの権利保護はあっても良いのではないかと思うのだ。
 それは、オリジナルの価値を守るという意味だけでなく、その取り組みを参照できる機会を与えるという側面も持っている。そして、様々な地域が成功事例を単純にトレースするのではなく、成功事例の方法論や考え方・体制を真似る。その上で新たなアイデアにチャレンジを続ける。そのようなポジティブなスパイラルを産み出せないかという考えだ。

 比類なき自然や歴史遺産を背景に人を惹き付ける地域がある。だが、そうした財産を持たない場所、あるいは他にも同類のものが数多くある地域も存在する。歴史資産では奈良京都に敵う場所はそれほど多くはない。だが、歴史+αではどうか。その融合が上手く出来ればまぎれもないオリジナルとは言えないか。
 要するに、オンリーワンを地域が持ち得るかということが重要だと思うのだ。それも単体ではなく複数のコンテンツが組み合わされる方が良い。すなわち、地域は常に何かを産み出すことが求めら続けるのである。埋もれた何かを発掘することでもよい。あるいはありふれたものを融合させることで新規性を主張しても良い。ただ、成功事例を真似すれば良いという風潮ではなく、成功事例に負けない新しいものを探し作り上げるというマインドが日本中に広がらないかと期待しているのだ。

 そのために必要なこととして、上述のように保護の意味での地域づくり特許という概念と、その整備により自動的に整理される地域づくり事例集の閲覧チャンスの増加を図ること。地域づくりをサポートできる仕組みが、今以上にもっと必要ではないかと思うのだ。
 私の認識不足で既に存在する仕組みを知らずに書いているかもしれないが、地域づくりは良い意味での知恵の競争であった欲しいと考えている。