Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

背伸びの代償

 中国が経済運営に苦しんでいる。二日連続での通貨切り下げを行った(http://www.nikkei.com/article/DGXLASGF12H0G_S5A810C1MM0000/)が、これは中国が目指すSDR(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%B9%E5%88%A5%E5%BC%95%E5%87%BA%E6%A8%A9)への人民元採用にとってもかなり不利であると言われている。IMF内(政府間内)でしか使用できないSDRに人民元を加えることは、一般経済における通貨の価値を実質的に向上させるものではないが、ハードカレンシーとしての認知度を向上させるという政治的メッセージはある(http://markethack.net/archives/51973525.html)。
 どちらかと言えば実ではなく虚に関する内容だが、メンツを重んじる国家にとっては重要と認識されているのであろう。大国の存在感を誇示するための道具としての役割である。ただ、IMF人民元が実質的にドルペッグされている(自由な取引が保証されていない)ことを理由に現状組み入れには難色を示している(http://jp.reuters.com/article/2015/08/05/imf-idJPKCN0Q92BV20150805)。
 だから、今回の通貨切り下げは自由でない証拠を積み重ねたのではないかという懸念がまとわりつく。

 通貨切り下げは不振に陥っている輸出のテコ入れを目指したものと推測できるが、大国となった中国に求められているのは実のところ輸出では無く内需促進である。これまではそれを建設投資で賄ってきたが、逆に言えばそれ以外有効な手を打てなかったことで投資バブルを世界でも例を見ないほどにまで膨らませてしまった。おそらくは状況を打開すべく行った株式バブルも一瞬のうちに先が見えなくなった。
 どうしてこのような状況に陥ったかは簡単な話である。要するに背伸びをし過ぎたということだ。国家の発展はよほどのことでもなければ促成栽培はできない。運よく流れに乗れたいくつかの国(日本も含まれる)は大国と呼ばれるようになったが、それを完遂するためには数十年の時間を必要とした。中国は、政府が自ら国内を煽ったこともあるだろうが、先を急ぎ過ぎたことが現在の苦境を招いている(http://markethack.net/archives/51976836.html)。

 同じような背伸びは韓国や現在苦境に陥っているBRICS諸国にも言えるのだが、早く先進国に近づこうという焦りが社会に歪を招いているのだと私は思う。成長していた時代であれば覆い隠せる社会に不合理やひずみが成長が止まった途端に吹き出してしまう。
 日本も同様の道を既に歩んできたが、幸い日本には既に資本や技術そして文化に関する蓄えがあった。その差がこれから明らかに出てくるであろうと思う。この問題を乗り越えることができれば中国はアメリカに変わる次の覇権国家となることも可能ではないかと考えなくもないが、個人的にはそれは難しいのではないかと思っている。
 覇権国家はもはや力のみで世界を屈服させられる時代ではない。少なくとも、同じ価値観を有して協力し合える複数の有力国を味方につけなければ立ちいかない。今の中国共産党政府には、力はあるが他の国家を巻き込める理念が無い。それでは片手落ちなのだ。
 今後穏やかな成長の道を目指すことができれば未来があると思うのだが、それを目指せない状況を少なくとも現在の共産党政府は掲げてしまっている(自縄自縛気味に)。そこが私は十分な潜在能力を持ちながらも中国が素直に覇権国家に慣れない理由だと思っている。

 もちろん何があるのかわからないのが世の常であり、当然私が考えるようになるとは限らない。私は全面的な戦争が発生するとは考えていないが、局部的な衝突が生じる可能性は低くないと見ている。中国としても全面戦争にメリットが無いことはわかっているだろうが、ガス抜きの局地戦には意義を見出すであろうと思っている(そうなって欲しくはないが)。
 また、個人的には最近やや静かにしている北朝鮮と中国が睨みあうことも可能性としては考えている。これは、主に北朝鮮側の都合に寄ることもあるがエネルギーを中国に依っている北朝鮮とすれば、それを解消できる方が現金王朝の維持には効果がある。韓国に攻め入るよりも中国東北部朝鮮族自治区を手に入れた方が都合が良い。もちろん、中国国内が混乱した場合に限る話ではある。
 私は、日本との間で局地戦を広げる可能性はそれほど高くないと思っているが、これも日本の政権が変わるようなことがあれば確率はやや上がるであろう。中国にとって仮想敵国として置くには日本は最適であるが、実際の戦闘対象としてはあまり戦いたくない相手であるからだ。もしそれが必要となる時があるとすれば、それは中国政府が起死回生を狙わなければならない状況に陥った時であろうが、そこまで至った時に体制を維持できるほど強固な国家ではないと思っている。

 さて、中国も韓国も今後はおそらくバブル崩壊による苦境の時間を過ごさなければならない。中国の方が乗り切るための基礎体力と潜在能力は高いと思うが、積み上げてきた虚構を曝せるほどには統治体制は安定していない。今後も国家としてできる範囲での様々な強権的施策を打ってくるであろう。
 ただ、彼らのプライドが諸外国との軋轢を生み出し続けるのは間違いない。現在の共産党支配体制という側面と、中国が大国であるという面子の両面である。実はそれをうまく消化できれば乗り切るための策を得ることも不可能ではない(結局それが覇権への道筋にもなりうる)と私は考えるが、おそらくそれはできないと読んでいる。
 日本も味わったが、それ以上の背伸びの代償は決して小さくはない。そして、世界に与えるインパクトも小さくないことを認識しておくべきだろう。既に徐々に見えているそれは、中国共産党政府が諦め始めた時にはっきりと表れてくる。まだ打てる手はいくつもあるので今すぐではないだろうが、早ければ秋以降遅ければ数年後には明確にその姿が見えてくるだろう。引き金を引くのが誰かはわからないが。