Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

驕れるものは久しからず

 安倍総理アメリカ議会演説が終了し、予定調和の賞賛と抗議が飛び交っている。正直言えば、どのような内容であろうが非難する者は非難をし称える者は褒め称えるだけのことで、文章の中身によって多少の違いが生じるに過ぎないから、この問題を取り上げることについての興味はそれほどない。
 それでも、日米間が新たな時代への認識を共有できたという意義は決して低くなく、それ故に政権基盤は高まりこそすれども大きく揺らぐことはあるまい。ただ、演説の話題が大きすぎることで隠れてしまった問題が少なからず存在することを忘れてはならない。

 少し前の話題ではあるが、自民党が放送内容にいろいろと注文を付けたことが話題となっている(http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00290079.htmlhttp://www.news24.jp/articles/2015/04/14/04272980.html)。正直言えば、現在のマスコミの報道は私の感覚では偏っていると思う部分も少なくない。報道に携わる人たちからすれば自分なりの公正さを持っていると信じているが、その基準は絶対的なものではなく相対的である。
 だからおそらくどのような報道をしたとしても、何処からは不公平であるとか中立的ではないとの意見を頂戴することになるであろう。個人レベルにおけるマスコミ批判はかつてのフジテレビ抗議デモような連帯を見ない限り取り上げられることはないが、政権与党からの申し入れとなれば軽く考えるわけにはいかない。

 正直なところを言えば、先ほども書いたようにマスコミの政権(特に安倍政権)アレルギーはかなり酷いものだとは思う。民主党政権の時にもメディアへの申し入れは行われた(http://www.dpj.or.jp/article/101928)し、口蹄疫事件や震災の時にはメディアが政権い悪い内容を報道しなかったという疑念も持たれたままである。また民主党ではないが、申し入れについては共産党もたびたび行っている(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-11-27/2012112702_01_1.html)。
 民主党政権時代にはシンパシーを感じているメディアが自主的に報道しなかった可能性もあり、圧力をかけたというのはネット上の思い込みかもしれないが、この圧力というものは行き過ぎたセクハラ告発のように好き嫌いに大きく左右されるのでなかなか難しい。
 もっとも、リベラル系の考え方を持つ人たちからすれば現在のメディアは政権べったり(http://saigaijyouhou.com/blog-entry-6165.html)であって、敵認定されている気配も強く感じられるのがある意味面白い。マスコミはマスコミなりにバランスを取ろうとしているのかなという気もしなくはない。
 正直言えば、メディアは権力(保守)側からも市民運動(リベラル・左派)側からも批判を受けてしまう存在である訳なのだが、双方から批判を受けるというのはある意味健全な状況であるとも思う。片方からのみ批判を受けたり、あるいは双方共から批判されないことが何よりも存在意義に関わる。

 さてメディア側の立ち位置は良いとして、メディアや様々な言論人から反発を受けることを当然予測できたにもかかわらず、自民党は報道に対して大々的な申し入れ(呼びつけ)を実施した。これが恫喝と取られる可能性があることは火を見るまでもなく明らかである。自民党はマスコミから嫌われているのだから。特にNHKテレビ朝日の幹部を呼びつけるという姿勢には大いに疑問を抱かざるを得ない。こうした意見が強いのは、おそらく自民党関係者も知っているだろう。
 それにもかかわらず実施したというところに私は現状に対する過信があるように思う。自民党側はメディアの偏向を正した正義者を装うが、メディアも権力に抵抗する殉職者の風体を取る。その裁定は結局のところ国民が為すのであって、自民党側にもメディア側にも決定権はない。
 政権の安定感に酔いしれて、そのことを忘れ始めているからこそこうした問題が甘いチェックを潜り抜けて表面化する。自民党が長らく続いた政権を滑り落ちたのは、こうした傲慢に感じられる態度が国民から否定されてからではないか。

 民主党が政権を取った当時世間で言われていたのは、「自民党にお灸をすえる」であった。結果的には一時的なリリーフですら担えなかった民主党への失望が勝ったわけではあるが、問題の核心は民主党のお粗末さにあるわけでは無い。
 もちろん今すぐ政権交代の機運が高まるわけでは無いだろうと思う。みんなの党や維新の党も自爆した感じに思える現在、野党にはそれを担える期待を醸し出す存在がない。しかし、相対的に自民党の支持が高まっているとはしても、こうした状態が続けば間違いなく民心は離れていく。
 メディアの報道が多少偏向していたとしても、それを単純に呼びつけて抗議するような姿勢が嫌われていくきっかけになるのである。

 たしかに、まだこれは最初の段階であろう。しかし、驕りは高まりやすく消えにくい。表面的には謝ったフリをしながらも心の中に深く沈殿していく。敵失により政権が再び転がり込んできたとはいえ、わずか2年少し前までのことをもう忘れたとするのであれば、その先に見えてくるものは言わずもがなである。
 メディアに偏向があるのは最初から分かっているが、それ故に国民はメディアを信じなくなっている。そんな状況下において取るべき行動は、どっしりと構えて控えめに事実を語り続けることであろう。
 韓国や中国のアメリカ等へのご注進運動も、すっかり勢いがなくなってきた。まだまだ予断を許すわけでは無いが、同じレベルに落ちると、それ以上に信用を失うということを考えるべきであろう。