Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

ルーブル危機再来

 既に数多くのメディアが取り上げているが、ロシアのルーブルが大きく下落を始めたこともあり、ロシア中央銀行政策金利を10.5%から17%まで一気に引き上げた(http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141216/k10014003941000.html)。通貨の大幅な下落は、国内企業のドル決済に大きな影響を及ぼす。下落幅に応じて借金の返済額が増大し企業の資金繰りが著しく低下、内部留保が無ければ状況次第で返済不可となり倒産に至ることになる。
 日本も円が下落しているが、日本の場合は国全体として考えた場合には輸出の増大等によりメリットを受け、輸入において多くの場合には個人や中小企業がデメリットを受ける。ただ、日本のように国としての基礎体力が高ければ部分的な混乱はあっても直ぐに国全体が困るという訳ではない。

 通貨の下落に対して取る手法としては、今回のように金利を引き上げるケースか、あるいは市中に流通する資金を減少させるケースがある。日本が行っている金融緩和については後者の逆パターンとなる。
 問題となっている通貨の下落はロシアのみならず、いくつかの新興国で生じている(http://www.sankeibiz.jp/macro/news/141209/mcb1412090500016-n1.htm)。かつてアジア通貨危機(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E9%80%9A%E8%B2%A8%E5%8D%B1%E6%A9%9F)等が発生した時と比べれば外貨準備は格段のレベルにあり、その他のセーフティーネット(通貨スワップ等)も整備されていることから今すぐに世界経済が危機に見舞われるというほど切迫感している訳ではないが、それでも企業デフォルト等が頻発すれば様々な問題を引き起こすことになるだろう(http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NGNRM06TTDSJ01.html)。
 今、ロシアが今警戒されているのは原油価格の下落(2014年12月15日現在1バレル55ドル付近)が非常に大きい。原油を輸出すればするほど損をするレベルに陥り始めていると見られていることがある(http://newsphere.jp/world-report/20141209-1/)。元々ウクライナ情勢を理由に欧米から制裁を受けていたこともあり、そこに資源安が加わればロシア経済を巡る情勢が緊迫感を増すのは当然である。
 情報のように採算ラインが100ドルなのかどうかはわからないが、さすがに60ドルを切ってくれば厳しい状況なのは間違いない。ちなみに、一部では今回の原油安はシェールガス・オイル潰しだとの声も聞こえてくる(採算ラインの平均は62ドル程度との声もある)が、こちらも本当にそうした意図が隠されているのかはなんとも判断がつかない。

 ルーブルの下落(+金利引き上げ措置)はたちまちのうちに他の新興国に広がる可能性がある。通貨下落パニックは容易に他国へ広がり、多くの国が金利の引き上げやその他の対策を講じなければならない方向に追いやられる可能性は高い。特に、今回の政策金利変更のような大きな動き(極端な反応)は内外の社会に対して無用な不安を与えやすく、結果として同行が落ち着きを見せる可能性はかなり低いと感じている。
 既に新興国では耐力がない(外貨準備高が低いor通貨安でメリットを受けにくい構造)ところも少なくなく、一部の国では株価の急変が見られ始めている(http://www.newsweekjapan.jp/headlines/business/2014/12/140022.php)。先ほども書いたが、アジアの新興国は以前の通貨危機からの教訓でかなりの準備をしており、多少の反動には耐えられる仕組み(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%8B%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%96)を構築している。
 それでも通貨安が続けば庶民の暮らしは苦しくなり、政治の不安定化を生む危険性は高まっていく。アラブの春が食糧事情の変化(小麦価格の上昇)を原因の一つとすると分析が為されているように、通貨の極端な下落に伴特良品等の輸入価格の高騰は庶民の生活を激変させるという意味において大きな問題となる。

 また、原油価格の下落と関連しているのがアメリカの金利が引き上げられるのではないかという予測である。FOMC(連邦公開市場委員会http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%A3%E9%82%A6%E5%85%AC%E9%96%8B%E5%B8%82%E5%A0%B4%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A)は景気の回復基調を受けて引き締めに転じるのではないかという予測が広がっている(http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NGN1YC6KLVRG01.html)。
 逆に、新興国の通貨下落の影響を鑑みて引き続き引き締めには動かないという読みもあり、その両者が均衡しているからこその激しい各種相場の動きでもあるのだろう。どちらにしてもいつかの段階ではアメリカは引き締めに転じる。その時期がいつになるかはわからないが、永遠に来ないということはありえない。
 これまでアメリカでドルを刷ってばらまいてもインフレが発生しなかった原因の一つが、世界中にドルが広がり続けたことがある。逆に言えばその資金が新興国の成長の血液にもなってきた(通貨が下落することなくお金を準備できた)。
 ところが、アメリカが引き締めに入ればそのお金はアメリカに戻り始める(資金の引上げ)。すると、これまで溢れるドルをベースに自国通貨を発行して国内の投資を加速させてきた新興国は、ドルの減少に応じた引き締めを迫られることになる。今回のロシア中央銀行金利引き上げもその一環と見ることもできよう。

 さて、加えて気持ちの悪い情報を加えるとすれば、原油安が導くシェールガス債権の下落の影響がある。アメリカ経済自体はFRB等の舵取りのおかげで景気が回復しつつあるとされる。もちろんこの回復についても格差の拡大等負の側面が少なからず存在するが、それでも20年前の日本と同じようにデフレに陥りつつある欧州と比べれば随分調子は良い。
 そのけん引役とも言えるのがシェールガスである。コストの安いガス・オイルを手に入れられるということでアメリカ経済的はずいぶん助けられた。ただ、その格安のオイルやガスが原油価格を引き下げることで、結果として資金調達に利用してきた債権の質を大きく低下させ始めている(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42456)。サブプライムほどの危機ではないかもしれないが、同じような危険性は予想以上に幅広く存在している。
 むろん金融・経済面での状況はアメリカよりも中国の方がぜい弱だと私は考えるが、民主主義でない分中国の方がいざというときに大胆な手を打つことができ、既にそれは実行されている(だから、多くの識者による中国崩壊予想は外れることとなった)。こちらもパッチワークの様な対応の限界をいつ迎えるかはなかなか予想しづらいが、本当に余裕がなくなれば一時的に対日政策の軟化を迎え、次により一層の反日対応(軍事的衝突を含めて)に移ることとなる。

 さて、ロシアを含む今回の新興国通貨危機は以前時ほど急激に悪化しないようにも思うが、それでも抱えた歪はどこかに蓄積される。動向には十分注意した方が良いだろう。