Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

殉愛

 やしきたかじん(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%84%E3%81%97%E3%81%8D%E3%81%9F%E3%81%8B%E3%81%98%E3%82%93)氏の闘病(看護)過程を人気作家である百田尚樹(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BE%E7%94%B0%E5%B0%9A%E6%A8%B9)氏が記した本「殉愛」が、amazonのレビューで酷評を受けている(http://www.amazon.co.jp/%E6%AE%89%E6%84%9B-%E7%99%BE%E7%94%B0-%E5%B0%9A%E6%A8%B9/dp/4344026586/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1416128034&sr=8-1&keywords=%E6%AE%89%E6%84%9B)。理由は、ノンフィクションを自称する内容に調査不足としか考えられないような情報が次々と表出していることにある(http://www.j-cast.com/2014/11/14220950.html)。

 私個人としては重婚の噂などにさしたる興味があるわけでは無いが、なぜ百田氏がこの本を出版したのだろうかと言う素直な疑問を抱く。やしきたかじん氏のネームバリューを考えれば、このネット時代関連する情報は容易に見つけられるであろうことは想像に難くない。だから、嘘を隠し通して商売に結びつけようと考えるのは浅はかだし、百田氏ほどの地位を持っている人が画策するだろうかと言う素直な疑問が湧く。他方、これだけ自分でも宣伝した書籍なのだから数日のネット検索程度で数多くの矛盾が浮かび上がるような稚拙な取材であったというのもにわかには信じがたい。
 強いて考えれば、早く出版しなければならなかった理由があったのではないかという予測であるが、出版時期を考えるとやしきたかじん氏の死去が1月であるから死亡直後に企画が進んでいたと考えるのは時系列的におかしくないだろう(3か月の取材、原稿作成、校正、印刷を考えればあまり余裕はない)。3月初旬の故人を偲ぶ会で妻が百田氏に故人の遺志として依頼したとされているようなので、4か月ほどでの原稿作成・校正・印刷となる(http://qchantrendnews2015.blog.so-net.ne.jp/2014-11-08)。

 個人的には、百田氏が指名されたことに加えて書籍を出版希望していたのかどうかについても、故人が本当に望んでいたかどうかはよくわからないと思うが、仮にそうであったとしても現状の混乱は望むことではないであろう。
 正直言えば、故人が最後を幸せに迎え今の状態を真に望んでいたとすれば私はそれで良いと思う。他人がどうこう言う話でもないし、今ネット上で語られている疑惑が事実であったとしても「そういうこともあるものだ」と感じるに過ぎない。もちろん、出来事に不正な部分があればそれ自体には憤るかもしれないが、幾分の関与すらない私が他人の家族にとやかく言う資格もない。
 ただ、逆に言えば不確かな情報によりひょっとすれば誤った内容を広めてしまったかもしれない百田氏は、結果次第ではあるが相応の信用失墜を受けることになるだろう。いや、冒頭に記したamazonレビューにおける批判が既にそれを表している。

 さて、話は元に戻るがノンフィクションはその事実性に最も重きを置くため、取材を続けても容易に出版できるものではない。多角的な取材により抱いていた問題点や事実関係が確実に補強されるように繰り返し検証されるべきものである。もちろん、過去においても誤った情報が流布されてしまったことは少なくない。
 もっとも有名になったのは、吉田清治(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%89%E7%94%B0%E6%B8%85%E6%B2%BB_%28%E6%96%87%E7%AD%86%E5%AE%B6%29)の『朝鮮人慰安婦と日本人 元下関労報動員部長の手記』について最後の擁護者であった朝日新聞が謝罪したことは記憶に新しい(http://www.asahi.com/articles/ASG7L71S2G7LUTIL05N.html)。
 センセーショナリズム(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%87%E6%83%85%E4%B8%BB%E7%BE%A9)はやや突飛ではあるが真実を否定しがたい嘘により作り上げられる。ただ、今の時代はネットの発達により虚構を維持することが難しくなり、嘘の事実ではなく感情的な煽りが中心となりつつある。
 なぜ出版を焦ったかと言う点であるが、一つに死去から時間を経るほどに商業的なメリットが薄まっていくという算段があったからではないかと思う。事実ではなく、感情を売り物にした内容であることは書籍の宣伝文句からも良くわかる。事実関係よりも人の心に訴えかける点に重きをおいて計画されたプロジェクトであろう。
 百田氏は、事実を基に想像力により膨らませることでいくつかの面白い作品を作ってきた人である。正確性よりも感動を主体にして成功したスタイルをそのままここでも踏襲しようとしたのではないかと思う。

 ただ、今回は事実と著作の期間が短かった(当事者が多い)ことがこのような問題を引き起こした。フィクションと謳って(あるいはそれを曖昧にして)いればよかったのだが、その点も戦略的なミスがあったのではないか。
 過去の歴史的人物等を扱った小説は数多く存在し、こうした作品も事実とは異なることが多く盛り込まれている。小説としての価値(面白さ)を上げるためには必要なことであろうが、そもそも百田氏はノンフィクション作家ではないし、ノンフィクションの上梓もほとんどなかったと思う。結局は、これまで小説において用いてきた手法をノンフィクションに利用してしまい、また効果を上げるために早期出版を狙ったことがミスを膨らませてしまった。
 妻の素顔がテレビに出なければ発覚しなかったのではないかとか、故人の手記とされるものがテレビに映ったが筆跡が違っているのではないかという疑惑等と様々な意見も飛び交っているが、疑問が呈されればいつかは明らかになることであろう。近頃の週刊誌はこうした調査能力が非常に高い。

 出版を急いだために、事実関係の確認が疎かになったというのが正直な感想である。ただ、全体像を把握する上でわかっている事実関係は十分ではない。だから、あくまで想像と感想しかいう事はできない。唯一言えるのが百田氏の取材がお粗末であった可能性が高いということである。
 まあ、最初から書いているとおりどうでも良いことなのだけど、部外者としては娯楽として情報を追いかけるのもまた面白い。

<11/18追記>
 一応念のため国際結婚について重婚の可能性があるかどうかを調べてみた。その結果、日本で婚姻届を出して日本で離婚の手続きをすれば、日本の法律上は問題ないようである(http://www.interq.or.jp/tokyo/ystation/world3.html)。イタリアでは離婚に時間がかかる(http://www.excite.co.jp/News/bit/E1372415108073.html)ということのようだが、最低限日本国内では問題とならないのであろう(イタリアでどのように扱われるかは不明)。
 及川さんのtwitterが面白い(https://twitter.com/oikawaneko)。下手な小説よりもずっと楽しめる。

<11/18追記2>
 メモの筆跡が全く違うことについても故人に近しいところから情報が出始めた(https://twitter.com/motoyan1101)。テレビのキャプチャ画像をネットでいくつか見たが、さすがにこれを同じ人のものと言うのは苦しすぎるものも多かった。だとすれば、膨大なメモが全て虚構だったということになる。これは収拾が大変だな。

<11/19追記>
 ネットの論調の流れがSTAP細胞の疑問発覚時に似始めた。ちょっとまずい流れカモ。逃げ場が無くなりつつある感じ。