Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

反戦を謳いながら戦争を引き寄せる

 世界で生じた戦争の大部分は、些細なことが原因となって発生している。もちろんそれを醸成する雰囲気があったのは事実だろうが、中世のような略奪がほとんど不可能になった今、かつて以上に戦争に突入するメリットは低下している。それにもかかわらず戦争の危険性が消えないのは、意識してかせずかは別にして戦争(あるいは「戦争」と言う言葉)を利用しようとしている者たちがいるからである。
 理性で考えれば、現代社会において戦争をするメリットは非常に低い。イラク戦争アフガニスタンでのテロ撲滅が正義の戦争だなどとは更々思わないが、アメリカの収支はマイナスだっただろうと思っている。逆に言えば、マイナスになることがある程度想定されていたにも関わらずあれだけ大規模な活動に踏み出せるのは、形態上多国籍的な姿を取っていてもアメリカだけと言う現実がある。
 アメリカの自分勝手な押し付け正義は碌なものではないと思うが、それでも日本などはその力を上手く利用してきた方でもあろう。アメポチと言われようが、国家としての損得勘定が成り立つのであればそれも一つの国家としての処世術となる。

 戦争は理性的な判断の結果生じるものではない。だから、逆に言えば国家としての理性が保たれている間は、仮に一定の軍事力を持っていても戦争に踏み込むことはない。もちろん、力を有するからこそ使いたくなる誘惑があるのも事実だが、これも国家判断としての理性を失うからであって力を持ったから生じることではない。逆に言えば理性を失えば、いつ襲いかかられるかと余計な危惧を膨らませて、結果として軍備増強に走る。
 すなわち、政府が冷静で理性的な対応ができているかが最も重要な部分となる。また、戦争は一カ国ではできない(内戦は別として)ので必ず状況を生み出す国家が別に存在する。北朝鮮のようにあらゆる国家と敵対しようとする国もあるが、多くの場合には安全保障のために全てを敵に回すようなことはしない。

 さて先日安倍総理靖国参拝を行ったが、私個人としては別に取り立てて問題とするような行動とは思わない。中国や韓国の批判はこれまで自分たちがとっている行動の正当化でしかないし、欧米の批判は日本が独立して行動することを嫌がる心理と、中国と揉めることで生じるであろう面倒事を回避したいが故のものである。要するに靖国問題そのものではなく周辺国と揉めるなと言う認識であって、他人事だから適当なことしか知らないし実際の発言も熟考されたものではない。
 総理は丁寧に説明すると言っているが、上述のように彼らにとってもともと興味のある話ではないので、中身の説明ではなく日本にとって重要なことだと強く言えばよい。靖国の宗教的(あるいは政治的)な価値がそれほど高いとは私は思わないが、その程度のことすら許容されないというのは独立国として歪んでいる。こうした歪みを韓国や中国が利用しているのだから、その非対称性を解消する動きが国内的な批判に晒されるという状況自体に疑問を感じる。ましてや、靖国参拝を問題視するメディアの騒ぎ方に理性や論理性が極めて低く感じられることが実は大きな問題ではないかと思う。

 感情により何かを否定したり煽ったりする行為は、確かに物事を突き動かす衝動にはなるだろうが、衝動的故に暴走しやすい。日本だ第二次世界大戦に突入した時メディアは何をやっていたのか。それは感情を煽り戦争に突っ走らせてきた。もちろん現在は見かけ上は戦争に反対する姿勢を見せているが、見かけの方向は異なっても実のところ煽っている方法論は全く変わらない。
 しかも、その煽りにより得られるものが日本の譲歩のみであれば、今後も中国や韓国は更に付け入り続けるであろう。現実に30年前と比べて中国や韓国の日本に対する歴史問題のボーダーラインはかなり押し上げられてしまった。もちろん日本のマスコミのご注進と政府の譲歩策の結果であるが、国民はこの負のスパイラルの構図に既に気づいておりそれを押しとどめようというのが安倍政権成立の一因でもある。
 マスコミは戦争反対を主張すればそれでよいと考えているのかもしれないが、実際日本が譲歩し続けることにより戦争の危険性は増大している。戦争は相手がいなければ成立しないが、日本が一方的に譲歩を続ければ当然相手側は勢力拡大に乗り出す。日本のマスコミは、お互いに引くことを考えているのかもしれないが、その思惑通りに運んでいないからこそ現在の対立がある。
 そして、国民が譲歩の連鎖に耐えられなくなれば感情的な爆発が生じて、一気に不穏な空気が流れてもおかしくない。戦争に反対しながら戦争を引き起こすかもしれない餌をまき続けることこそが、最も危険な行為ではないか。さらにその雰囲気は理性や論理ではなく感情により覆われている。

 現在何よりも重要なことは、理性的な判断をすることであって反戦を唱えれば全てか解決するような甘いセンチメンタリズムに溺れる時ではない。私は、戦争を引き起こす原因に一つとして間違いなくマスコミの扇情主義が大きな役割を果たしていると考える。
 理性を感情で押し流すのではなく、きちんとした論理を積み重ねた報道をすることを切に願いたい。