Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

アメリカは曖昧であり続ける

 中国が設定した識別防空圏に関する報道がヒートアップしている。この件に関して、日本としてはアメリカに過度の期待を抱くことは慎むべきだろうと思う。そして、もちろん中国が一度設定した識別圏を取り上げることもあり得ない。メンツが立たないからということではなく、仮に現在は実効性を持たない識別圏であったとしても、その保持こそが将来的な布石となるからである。
 もちろん、布石とするためには中国が今後も安定的な成長を遂げなければならないが、この点に関して言えばアメリカはおそらく中国の敵である。しかし、同時に直接対峙するつもりは現時点ではない。だとすれば、どういうことか。

 要するに、中国は今回の問題を日本対中国の国同士の争いにしたい訳であり、アメリカは中国を抑え込みつつもその対処は日本に放り投げたいのだ。積極的な舞台設定ではないが、消極的に日本は東シナ海での対中国イニシアティブを取らされることとなる。
 B52の飛行でアメリカが前面に立ったように見えてはいるが、「一応脅したよ」と言う言い訳に近いものであり、中国との個別交渉のための戦略であるがそれは日本を慮ってではなくアメリカの利益を確保するために過ぎない。東南アジアやオーストラリアも日本の行動を支持しているが、これも正義と悪というような二極対立構造に基づく動きなどではなく、日本が真剣に中国と対峙してくれればそちら方面への中国の圧力が弱まることを期待しての自国利益を守るための動きである。
 もちろん、日本の戦略は消極的であろうが何であろうが対中国包囲網を築き上げることであり、その意味で現状の日本が突出せずに世界中を巻き込む方法は間違ってはいない。ただ、アメリカに過度の期待を抱きすぎるとおそらく多くなしっぺ返しを受けると理解しておくことが重要であろう。

 アメリカは、中国の増長は抑えたいが中国市場は手に入れたい。そして、同時に日本の増長も抑えたいのである。日米安保条約がありながらもその行使はある程度恣意的にできる。だから、日本と中国が適度にいがみ合う状況はアメリカにとっては都合が良い。ただ、突発的な紛争だけは起こしてほしくないという意味で、日本と中国に自重を訴えかけるのが関の山であると考えてよい。
 仮に日中間で紛争が生じた場合にはアメリカは条約に則り形式上日本の支援を行うだろうが、それは日本が正しいからでも同盟国であるからでもなく、中国が増長しない中で日本の勢力拡大も防ぐものでしかない。もちろん、中国はアメリカのスタンスを既に見切っており、口先のパフォーマンスがどこまで続くのかを見極めようとここ最近様々なちょっかいをかけている。
 こうした行為は中国にとっても短期的には不利ではあるが、アメリカの衰退を視野に入れて長期を見据えているために、あの手この手の搦め手と強面の恫喝を交えながらも落としどころを探っているのだろう。中国にとっては日本は厄介な相手ではあるが御せると踏んでおり、アメリカは力では御せないので別の方法で動きを抑えられれば良いと考えているのではないかと思う。

 とは言え、今回の防空識別圏の設定は習近平体制のボーンヘッドだとは思う。識別圏の設定を実質的な領空の意味で用いれば、世界中が反発するのは当然である。わざとそうしたのは様子を探るためであったのかもしれないが、面子のために決して引くことができない中国内部の状況を考えると、賢いやり方ではない。おそらくは、鉄道利権のある陸軍と違い何らかの結果を残さなければ実質的な地位を向上させられない人民解放軍の海軍にそそのかされてのことだろうが、本気で戦闘を行う気概があるかどうかも分からない軍部に踊らされているとすれば、トップとしてはあまりに稚拙だと思う。

 どちらにしても、日本はおそらくアメリカの積極的な姿勢に期待してはダメである。助けてはくれるだろうが、日本のために前線で戦闘など行わないし助けるのもあくまで中国の増長を抑えるためのものであることを忘れてはならない。