Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

イギリスの揺らぎ

 今年に入って何度か奇妙な文章を見かけた。イギリスが、中国に対する懸念を有し、日英同盟を模索しているというのである。確かに戦前日英同盟が存在したことはあったものの、イギリスが親日国だとはちょっと言い過ぎではないかと思わなくもない。

軍拡・中国念頭に21世紀の「日英同盟」模索 英王子、今秋来日し国際会議(http://sankei.jp.msn.com/world/news/130424/erp13042413360004-n1.htm
親日国イギリスで「また日英同盟を結んではどうか」の声出る(http://snn.getnews.jp/archives/177378

 中国への懸念とあるが、欧州は移民問題や経済衝突でもない限り、国民感情は別にして中国と面と向かう訳ではない。実際、イギリスは中国企業を加えての原子力発電所の建設に動き出している(http://www.huffingtonpost.jp/2013/10/28/uk-nuclear-power_n_4172088.html?utm_hp_ref=japanhttp://www.huffingtonpost.jp/2013/10/19/nuclear-plant-china_n_4126542.html)
 フランスは原子力を国策と据えているが、そこに中国を加えるということはコストを抑える狙いがあると考えられる。他にもアメリカや日本など実績のある国は少なくないが、中国資本を利用しようというところに苦しさが漂っている。そもそも上記の記事では中国の軍拡を懸念して日英同盟とあるが、中国に近づいている姿を見ればとてもそれが本当とは思えない。

 イギリスは、アメリカに覇権を譲った後も金融センターとして一定の繁栄を維持してきた。ユーロにも部分的には参加しているが、通貨統合は頑なに拒否している。これは、通貨統合が実質的にドイツの発言力を高めることになると看過してのことだと思うが、それを主張できるのは自国が一定の経済繁栄をしているという前提があってのことである。
 数年前、財政悪化を受けて大規模な増税財政支出の削減を実施したことでも知られるが、その後イギリスの経済が上向いたという話はとんと聞こえてこない。ドイツのみがユーロ安の恩恵を受けて反映しているという声だけが聞こえてくる。現実に、イギリスの経済状況はスペインやイタリアほどではないが決して良い状況ではない。増税は予想通りに経済を疲弊させ(http://newsphere.jp/world-report/20121207-2/)、2011年に発生した暴動は記憶に新しい(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B9%E6%9A%B4%E5%8B%95)。

 日本に秋波を送り、中国に摺り寄るのはこれらの厳しい状況を抜きに語ることはできないだろう。イギリスの最大の同盟国であるアメリカ経済も自国を救う程度には回復しているが、これは金融の回復ではなくシェールガス革命などを含めた製造業の回帰を目指したものである。むしろ、最大の金主である金融界は未だ責められる存在としてティーパーティー等の標的(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%AB%E8%A1%97%E3%82%92%E5%8D%A0%E6%8B%A0%E3%81%9B%E3%82%88)とされている。
 結局のところ、金融センターとして生き延びようとしたイギリス経済は、復活する目論見が立てられないでいるのだと思う。この一寸先が見えない閉塞状態があるからこそ、日本や中国をうまく使おうと節操のない動きにつながっているのではないかと思うのだ。

 一時期、財政削減に大きく舵を切ったイギリスを見習うべきだという論調が日本のメディアに踊ったこともあった。しかし、韓国企業経営礼賛と同様にあっという間に消えてしまっている。結局、持論に近い政策を深く分析せずに引用している近視眼的な評論が多いものだと感じる次第である。